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勇者転生の面接に落ちたので、俺は異世界で魔王になりました!  作者: 鮎 太郎
一章 面接落ちて、魔王になりました
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十話 問答とエゴ

「な、貴様、謀ったな……!」


 怒りや、悲しみ様々な感情が混ざったような視線浴びせるレイオン。

 けれど俺は、決して油断する事はない。

 俺の能力がダメージ移動のように、彼女の能力もまだ分からないからだ。

 ……もっと詳しく聞いておけばと後悔するも、どうせ能力は秘匿している。

 思考をマックスのスピードで回転させ、この場をどう切り抜ければ最善なのか、必死で考える。

 穿った痛みは消えたが、まるでまだ痛むかのようにジクジクと腹を抉っている気がして、時折思考が鈍るが今は気にしない。


「と、普通なら言うだろうな」


 ……流石に一撃なんて、無理があるよなぁ。

 ここに来て、俺は改めて序列四位の魔王の力を知る。

 痛みを超越しているのか、それとも治癒の能力なのか。

 果ては、因果を断ち切るものか。

 立ち上がった俺と対峙するように、レイオンはしっかりと立って、そう笑った。


「なんでえ、もう少し倒れてくれても良かったのに」


「これでも身に痛みを感じるのは、何年ぶりかの事だよ。賞賛しよう」


 俺が与えたはずの痛みも感じさせず、平然とそう言う。

 俺も俺で軽口を叩いたが、何よりもそのレイオンの余裕さに焦りを感じた。

 獅子女王、レイオン・レッドハートは射抜くようにそのルビーの双眸で俺を見つめる。


「太陽の恩恵。それが私の能力だ」


 恩恵。

 その名の通り、対象から対象へと加護や力を貸す能力の総称だった。

 それをこのレイオンは太陽と言った。

 人が営みを行う為に、必ず要るもの。

 その唯一無二の太陽から、私は恩恵を得ていると、そう言ったのだ。

 その恩恵の内容はさておき、それが十二分に宜しくないのを俺は知っている。


「陽が私の味方だ。どうだ、魔王らしくないだろう?」


「よく言うな、おい。陽を味方につけた魔王なんて、それこそ本物の魔王だろうよ」


 俺がそう言うと、レイオンは腰の剣を一本手に握る。

 艶やかな黄金の剣だ。

 装飾らしい装飾は見当たらないが、それが俺を殺すのに充分な殺傷威力である事は見て感じられた。


「何せ久方ぶりのダメージでな。ふぅ、えらく私も昂ぶっているようだな……。これが終われば大人しく元いた城へ送り返してやろう。……咆えろ、アークライト!」


 そう言うと一瞬でアークライトと呼ばれた剣を上から下へ、大きく振るう。

 それはまさしく、太陽の光。

 天から与えられた輝き、そのものだった。

 地を縫うように、一筋の光が俺を殺そうと襲いかかる。


 辛いだの、怖いだの、危ないだの。

 そんなものはとうに捨てた。

 俺は、その痛みを受ける事を自ら望む。

 痛みの際、舌を噛まないよう思いっきり歯を食い縛った。


 ズブリと上から下へ、剣は俺を的確に切り結ぶ。


「ッん! ……がッ!」


 その焼かれるような痛みに、身体がフリーズを起こす。

 身体の機能が信号を送るのをやめ、一気に停止へ向かうのが分かった。

 呼吸をして、息を吐くと魂が薄れてしまいそうな錯覚に陥る。

 俺はそんな叫んでしまいたくなるほどの痛みに、目を瞑って必死に堪えて手を強く握った。

 ……なるほど、本来ならこういった時に気絶するんだな。

 今度ばかりは、自身のスキルに初めて感謝をした。


「自傷スキルの類か……!」


 看破まではいかなかったからしく、レイオンは憎々しそうにそう呟いた。

 言っておくが、俺の痛覚は三倍だぞ。

 お前は渾身の一撃で、俺をその太陽のような剣で塵にしなかった事を後悔するだろう。


「う、うる、せー」


 ゾンビのような身体に鞭を打ち、俺は一歩。

 また一歩距離を縮める。

 まだ歩ける事にレイオンは感嘆し、アークライトを横に一閃。


 だが決して止まらずに、また俺は一歩進む。

 それを見て、本当に止めと言わんばかりに、最後に俺の胸部に剣を突き刺した。


「……まだ動くつもりか。私も治癒出来るとは言え、それ以上動けば本気で死ぬぞ」


 興が削がれたのか、冷めた瞳で俺を見つめる。

 でも今から悶えるのは、俺じゃない。


 お前だーー。


 俺は空き缶に入った最後の一滴のような力を振り絞る。

 しなだれ掛かるように、俺レイオンにしがみつき、その能力を惜しげもなく使う。


 一回、これは縦から斬られた分。

 二回、横に裂かれた分。

 三回、最後に貫かれた分。


「っ、ぐ……!」


「血が思ったよりも、出たな。でも……それがお前自身の剣だ……!」


 悲痛な顔でレイオンは俺を見つめる。

 火炎のような瞳が驚いたように大きく痛みに呼応する。


「何故だ! お前は魔王なのに、世界の在り方を曲げ、言うことを聞かんのだ。ッ……そこまでの力が……。……あれば良き魔王になれるだろうに!」


「……一つ良いか? お前の言う魔王ってなんなんだよ」


 俺はずっと、ずっと他の魔王に聞きたかった事があった。

 魔王とは何なのか。

 その存在意義を、俺に確認させて欲しかった。

 レイオンは剣を大地に突き刺し、痛みに耐えながら、俺にその問いの答えを教えてくれた。


「いずれくる、勇者に、負ける。それが願いで、正しい在り方だ」


 どこかで、どこかで俺の希望は否定されると分かっていた。

 この世界は自由で、俺の想像していた異世界であると、そうあって欲しいと。

 けれどそれは、この世界の住人から無残にも打ち砕かれた。

 これは何だ、悪夢なのか。

 怒りがふつふつと湧き上がる。


「……なぁ、勇者ってのはそんな崇高なもんなのか? それとも魔王ってのは、そんな役割しか与えられてないただの人形か?」


 そう聞き直さずにはいられない。

 俺の聞き間違いでなければ、レイオンはこう言ったのだ。


 魔王は、勇者の糧の為に居ると。


「勇者は、人間の希望、だ。魔王は人間の、絶望的象徴だ」


 やめろやめろやめろやめろやめろ……!

 そんな台詞が聞きたかった訳じゃない!


 ならば、飽和している勇者は常に正しく、俺たち魔王は絶対的に間違っていると。

 目の前の阿呆な女はそう言っているのか。

 そんな考えを放棄するような怠慢を、俺は許さない。


 どうしてこんなにも美しく力強いのに、その結果を快く受け入れられるのか。

 最後には勇者に打ち破られ、儚く消えるのが正しいなんて、そんなのは絶対にまかり通らない。


 レイオンが口にする勇者が希望とやらは、つまりの所ただの諦めだ。

 それは希望でも、ましてや夢でも何でもない。

 本当は消えたくない癖に、すっぱい葡萄と狐のように、手に入らないからそれを正しいと肯定する。


「……なぁ、知ってるか。お前の言う勇者様は魔物の森に居たエルフの族を皆殺しにしたんだぞ。それに、同じ勇者に聖剣を持っていないだけで肉壁と嘲笑する奴らも勇者だってよ。これが、これが!! お前の言う、立派な勇者様なのかよ!!!」


「そ、れは……!」


 もちろん全ての勇者がそうだとは俺も思っていない。

 俺は自分の存在意義を再認し、それにきっと耐えられなくなっただけだ。

 この胸の怒りだって、寄り添わずに一方的で。

 目の前の女王に言ったってどうしようもないと分かっていた。

 現実は思ったよりも厳しく、異世界だってそれは変わらない。

 そんな事分かっているのに。

 なら、どうして。


 ーーああ、そうか。

 俺は、俺たちは、懸命に足掻いているのに。

 こんなにも、世の理不尽さと戦っているのに。

 目の前の気高い女王が生を良しとせず、決まっ運命として死を享受しているのが、俺は悲しかったのか。

 俺はそんな彼女に生きる為に何かをする、それれが正しいと、そう思ってもらいたかったらしい。

 でもこれじゃあ、正しさの押し付けだ。


 ーー情けない。

 こんなの戦いにかこつけた、子供の八つ当たりだ。


 思いを吐き出して少しは落ち着いたが、まだ意識ははっきりしない。

 何にせよ、俺は獅子女王の痛みを取り除く事に決めた。

 同情でも何でもなく、そうしなければ公平じゃないと、どこかでそう思ったからだ。

 黙る彼女からまた痛みを受け継ぐ。

 それを耐えながら、俺はすぐに地に与えた。

 地はそれを受けると大きく傷付き、三箇所に穴と裂け目が現れる。

 それはまるで、俺とレイオンの立場を分けているようで、何となく悲しい気持ちになった。

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