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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第一部 帝都動乱編
19/135

サロンは大人の香りがするけえ

「剛力ち〇ぽ丸!?」

「なっ、なんですかその下品な名前は?」


俺の愛馬はグロリアーナの前に立ちふさがると、蹄を振り回して威嚇した。

「この駄馬がっ!」

グロリアーナが両手に火炎を集めると剛力ち〇ぽ丸に向けて放った。


…剛力ち〇ぽ丸は床が真っ赤になるほどの火炎を浴びても平然としている。


「なぜですの?骨も残さず灰になっているはずですのに…」

もしかして、加護か?


アドナイアスが前に言ってたな。

「私たち役職者や家伝の武器などとは違い、当主自身とその家族、命名物などは叙勲されて初めて効果を発揮する加護があります」


剛力ち〇ぽ丸…もうこの名前変えたい、は曲がりなりにも侯爵家嫡子がその力を使って命名した騎馬だ。俺が叙勲された時、つまり正式にガルシア侯爵になった時、俺や悪趣味な命名物が正式な加護を得たのだろう。


ジルバンテの鉄器無効のように、火炎無効とか魔法攻撃無効とかがついているのかもしれない。


「剛力ち〇ぽ丸、遠慮はいらん。ぶっ飛ばせ」


いや、呼びたくないんだよ、でも違う名前で呼ぶと加護が消えるかもしれないって言われたからな。今、消えるわけにはいかん。


「ヒヒン」


剛力ち〇ぽ丸は体をひねると、グロリアーナとお付きたちを翼で突き飛ばした。


「きゃああっ」


倒れたグロリアーナを尻目に、俺はフェリシティさんを抱え剛力ち〇ぽ丸に飛び乗る。


「とりあえず、ここから離れましょう」

「えっ、ええ」


フェリシティィさんは震えていた。きっと、服を燃やされかけた恐怖もそうだし、帝国四家を敵に回してしまった事に対する恐怖もあるのだろう。


「大丈夫です、私がガルシア家が絶対に、パルマンティエ家には手出しさせません」

フェリシティさんはコクコクと頷いている。



「とりあえず、お家へお送りしましょうか?」

フェリシティィさんが首を振った。

「いえ、サロンに行ってください。夫がいるはずですから」


一般的にお茶会は女性、子供と未婚の男性が行く所、サロンは主に概婚男性貴族が集うところとされている。しかし、両者にはっきりとした決まりはなく、エリアーヌ皇妃の姉君であるフレドリカ・ヴォン・ゴーシェンロード伯爵なんかは両方に出席しているという。


「それに、今サロンにはフレドリカ様がいらっしゃいます。ゴーシェンロード伯爵

家はパルマンティエ家の寄親ですから」

「わかりました。ええと、確かサロンは西にあるゴマの奴で…」


アドナイアスからお茶会の場所、サロンの場所、晩餐会の場所だけは教えられてきたからな。城内の地図は一応機密ということで製作が禁じられているから、テーブル一杯に並べたいろいろな形のパンを使って教えられた。確かお茶会が白いパンで長いフランスパンみたいのを渡って、ゴマのついた丸パンがサロンの場所だった。


「あそこか」

窓からたくさんの人たちがグラスを片手に談笑しているのが見えた。

「あそこに降りましょう」



「フェリシティ!それにガルシア侯爵様もどうなさったのです?」

庭に降りた瞬間、片メガネをかけた細いおじさんが俺達を見て飛び出してきた。

「…あなた!」

フェリシティさんは感極まって泣き出してしまった。



サロンからはその様子を遠巻きに眺めながら、次々に人が出て来る。


「これはガルシア侯爵様、お茶会に行かれたのではなかったのですか?」


太った貴族が俺にグラスを出してくれる。おいしい。


「いや、ちょっとひと悶着ありまして…」

「ほっ、ほっほ。宮殿など悶着の塊ですからねえ」


グラスを空にすると、俺は近くにいた召使に剛力ち〇ぽ丸を預け、サロンの中を見て回ることにした。


「おや、ガルシア侯爵様」

「初めまして、ミヒャエル様」

「ガルシア様私は…」

「おや、ガルシア侯爵…」

…土台、本日の主役がゆっくり見て回ることなんてできっこないのだ。


「おやおや、ガルシア侯爵ではありませんか。決闘にでもいらっしゃったのですかな」

こんなのもいるしな…

「リドルフィ。決闘の詳細はお前が決めるはずだろ。いらん時にちゃちゃを入れるな」

「私としては、メイディランドさえお返しいただければ事を荒立てる気はないのですよ?」

こいつ、とことんしらばっくれる気か?


「ガルシア侯爵様。失礼ながら決闘のご経験はおありで?最近は人死にさえないものの…」

「くどい」

俺はリドルフィの目の前で手をパチンと打った。


「…おっ、お前は今までに食べたパンの枚数を覚えているのか?」


言ったった、言ったった。一度言ってみたかったんだよね。


「なっ…」

絶句するリドルフィを無視して、俺はその場を離れた。




「大変でしたな」


さっき俺に飲み物をくれたおじさんがお代わりを渡してくれた。


「ああ。えっと」

「シドリアス・ムンディー子爵です。侯爵様。同じ南方貴族同士仲良くしましょう」

「ええ。よろしく」

「あちらの席にいる南方貴族をご紹介します」


俺より少し年上の貴族が立ち上がった。


「バスコ・モンタグート侯爵です」

「若輩者ですが。よろしくお願いいたします」


幼少の頃出会った貴族かもしれないから、初めましてとは言うなと言われていた。


「何をおっしゃる。モンタグートとガルシア家の仲ではないか。バスコと呼んでくれ」


そうなの?


「彼らにも紹介しよう」


バスコが手招きをすると、若い2名の貴族が俺たちの席にやってきた。


「ごきげんようガルシア侯爵様、モンタグート殿ご機嫌いかがですか?」

「紹介しよう、サルファパレード子爵家の嫡子、サンダリオ・サルファパレード殿にオクタビオ・カマノ男爵殿です」

「初めまして侯爵様。サンダリオ・サルファパレードです。どうぞサンダリオとお呼びください」


サンダリオは短い黒髪をなでつけており、金のピアスをしている。


「カマノです。私もオクタビオとお呼びください」


と小さな声で話すオクタビオは、茶色い髪を目元まで伸ばし、片手に大きな本を持っている。


「今まで、サロンでの楽しみなんて置いてあるお酒しかありませんでしたからね」


ワインを1瓶空けたサンダリオはすっかり酔っぱらっている。


「しかも、南方の部門が揃うなんて」


オクタビオは手に持った1杯のグラスをずっとすすっている。


「ご存じかとは思いますが、ガルシア、モンタグート、サルファパレード、カマノは南方貴族が誇る武門の家柄なのですよ」


サンダリオが新しいワインに手を伸ばそうとする。

手つきがもう怪しい。


「サルファパレード、カマノは騎馬や馬術に精通していて、加護もそれに関したものを持っているのですよ。ヒック…」


モンタグートはサンダリオから瓶を取り上げると氷水を渡した。モンタグート家の加護ってなんだろうな。


「最近は金もうけに加護を使う輩が多すぎますね。カマノ家も最近は乗合馬車屋みたいになってきましたよ」


オクタビオはぬるくなったグラスを飲み干して、懐から錠剤を取りだし、サンダリオに飲ませ、自分も1錠飲んだ。


「ガルシア殿もいかがですか?もうすぐ晩餐会でしょう」


「いえ、そんなに飲んでいませんから」


サンダリオは「もにょもにょもにょ」と言いながらオクタビオにもたれかかっている。


「サンダリオもつらいのですよ。サルファパレード家はこの間の雹害でお気に入りの馬を数匹手放したそうですからな」


オクタビオはサンダリオの肩を叩いた。


「やっぱり、武門の加護を持つ家はどこも苦しいんですね」


「ガルシア家はまだ食いつぶせる財産があるだけましですな。初代の頃に比べるとどの部門の家柄もずいぶん財産を減らしました」


これは俺が先進国日本の知識をもってなんとかするしかないな。そうだな、パソコンとか、携帯とか、車とか作れないけど…お好み焼き屋でもやるか。


日が暮れて、サロンにもランプが持ち込まれた。


「そろそろ晩餐の時間ですな。参りましょう」

「ええ」


酔いの覚めた俺たちは立ち上がり、会場へと向かった。


「あの、ガルシア様」


輝く緑色の髪と瞳を持つ美少女がフェリシティさんと共に立っていた。髪と同じ色のドレスがキラキラと輝いている。


「あの先ほどはありがとうございました」

「はい?」


誰だこの人。


フェリシティさんが俺の顔を見て、あわてて付け足した。


「あの、ガルシア侯爵様、私の寄親、フレドリカ・ヴォン・ゴーシェンロード伯爵です」

「へっ?」

「フレドリカとお呼びください。先ほどはフェリシティさんを助けていただきありがとうございました」


え、この極上のロリが帝国四家のゴーシェンロード伯爵?


…いや俺はロリコンじゃないぞ。


「はっ、はじめまして。ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルです」

「素晴らしいペガサスでしたわね。我が家にも天駆獣がたくさんおりますの。是非ゴーシェンロード領にもお越しになって」

「ええ、是非」


あのモグラ娘とか火炎娘とか四家ってサイコファミリーだと思ってたけど、こんなにまともな人もいるんだな。まあ皇妃のお姉さんだもんな。


「ところでガルシア様」

「ミヒャエルと呼んでください」

「ミヒャエル殿、スピーチの準備はいかがですか?」


「はい?」


フレドリカさんは笑って、手を振った。


「晩餐会のスピーチは何を話されますの?」

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