突然の別れ
「エミリア様、取り急ぎ陛下のところまでお越しください!」
翌朝、国王付きの侍従がエミリアのところまで慌ててやってきた。エミリアは急いで侍従のあとをついていく。レイモンは絶対安静ということで、侍医以外との接触を制限されていた。それなのに突然自分が呼び出された。しかも侍従の表情からして、回復したわけではないのは明白で——エミリアの背中に冷たい汗が伝う。
部屋に入ると、レイモンが力なく横たわっていた。そこに一国を担う王の強さは、もう見られない。
「エミリア……」
父の乾ききった青白い唇が動く。そばにいた兄がエミリアの方を振り返り、ゆっくりと首を振る。侍医もエミリアからゆっくりと目をそらした。それだけで全てを理解した。兄に促され、エミリアは父のそばに座った。
「父上、私です。エミリアです」
エミリアは父の手をそっと握った。
「エミリア、お前は自慢の娘だ。母親に似て強く、気高く、この国の姫君としてふさわしい。ただ……」
レイモンはそこで少し起き上がり、耐えかねたように咳をした。侍医が慌てて背中をさすり、再びレイモンを横たえる。
「どうか、生き延びることを一番に考えなさい。正しさだけでは生き延びられない瞬間が、人生にはたくさんある」
「父上……?」
消えかけた火が最後に一瞬、強く輝くように、父の瞳に光が宿った。まもなくその瞼がゆっくりと閉じられ、握っていた父の手からすっと力が抜けていく。
「父上!」
エミリアとカールの声が重なる。侍医がそっとレイモンに触れ、その脈を確認した。
「……息を引き取られました」
エミリアは息をのんだ。カールは下唇を強く噛むとすぐに立ち上がり、侍従たちに命令を始めた。
「父上の崩御を皆に伝えろ。それと王位継承の件だが——」
カールの手には巻物がある。おそらくレイモンの印が押された、カールへの王位譲渡について書かれた勅書だろう。
突然、部屋の戸が開かれる音がした。振り返るとそこにはアルブレヒトと数名の兵がいた。
「カール殿下、あなたを国王殺害の容疑で拘束します」
「何? ……っ、離せ! 私を誰だと心得る!」
カールの手から巻物が落ちる。巻物は音を立てて床に広がり、そのまま兵士たちによって踏みつけられた。
「あなたたち、何をしているの! 兄上を離しなさい!」
エミリアの声など全く聞こえていないように、兵士たちはそのままカールを連れ去ってしまった。呆然と立ち尽くすエミリアに、アルブレヒトがゆっくりと近づく。
「エミリア様、あなたにも裁判に参加していただきます」
その口元が少し緩んでいるのを、エミリアは見逃さなかった。




