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二度目の人生は勇者パーティに入りません 〜裏切られた最強魔導士、今度はSランク冒険者と魔王を先に倒します〜  作者: 月代
第二章「ソロの冒険者」

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第六話 冒険者登録、ひとりの始まり

 翌朝、セラは夜明けより少し早く目を覚ました。


 灰猫亭の小さな部屋はまだ冷えていて、

 窓の外も薄暗い。

 けれど頭は妙に冴えていた。


 昨日、ここへ着いた。

 屋根のある部屋で眠れた。

 そして今日は、冒険者になる日だ。


 セラは顔を洗い、髪を結び、机の上に並べた荷物を ひとつずつ確認した。


 小袋の金。

 短剣。

 包帯。

 地図。

 簡単な保存食。


 忘れ物はない。


 前世の十五歳は、緊張で手順が

 ぐちゃぐちゃだった。

 登録書類の書き方すら受付で詰まり、

 余計な視線を浴びたのを覚えている。


 今は書かれる項目も、流れも、必要な言葉も

 知っている。


 だからこそ、セラは心の中で小さく釘を刺した。


 ――知っているからって、油断しない。


 前世と同じように見えても、

 今世は少しずつずれている。

 そのずれを見落とさないことが、

 やり直しで一番大事だ。


     ◇


 一階へ降りると、ゲイルがもう帳場にいた。


「早いな」


「朝のうちに登録を済ませたいので」


「……そうか」


 ゲイルは頷き、カウンターの端に硬いパンを

 置いた。


「持ってけ。昨日の残りだ」


「代金は――」


「いらん。昼まで動くなら腹に入れとけ」


 一拍だけ迷ってから、パンを受け取る。


「……ありがとうございます」


「礼は稼いでからにしろ」


 ぶっきらぼうな返しに、少しだけ肩の力が抜けた。


 この宿の距離感は、やっぱり嫌いじゃない。


     ◇


 ルドナの冒険者ギルドは、朝から人が多い。


 討伐班、採取班、行商護衛、荷運び手伝い。

 色んな仕事の匂いがひとつの建物に詰まっている。


 扉をくぐった瞬間、前世の記憶が喉の奥に

 引っかかった。


 初めて来た日の居心地の悪さ。

 子ども扱いする視線。

 受付で書類を差し戻された悔しさ。


 セラは息を整え、そのまま受付列の最後尾に並ぶ。


 見るべきは過去じゃない。

 今の列の進み方、受付の空き、掲示板の更新時間。


 受付は三つ。

 左は討伐帰りが多く、中央は登録や更新、

 右は商人絡みの依頼相談が多い。

 朝の報告は混むが、新規登録は今の時間なら

 比較的早い。


「次の方」


 呼ばれて前へ出る。


 受付の女性は、セラの年齢を確認してわずかに眉を 上げたが、露骨な反応はしなかった。


「新規登録ですね。読み書きはできますか?」


「できます」


「ではこちらに記入を。身分証明になるものがあれば 一緒に」


 セラは用意していた最低限の書類を出し、

 登録用紙を受け取る。


 名前、年齢、出身地、得意分野。


 “得意分野”の欄でペン先が少し止まった。


 前世は正直に「魔導」とだけ書いて面倒を

 増やした。子どもの魔導士は目立つ。

 試すような依頼を押しつけられ、

 絡まれる原因にもなる。


 セラは一瞬考え、こう書いた。


 ――魔導(補助・討伐)


 嘘ではない。

 でも”派手な火力専門”とは見られにくい書き方だ。


 受付は内容を確認し、説明を続ける。


「初期ランクはE。三か月ごとに査定があります。

 無理な依頼の受注は禁止。特に新人の単独討伐は

 範囲を守ってください」


「はい」


 前世では、こういう説明を”型どおり”だと思って

 聞き流していた。

 型どおりの中に、街のルールが詰まっていると

 今は知っている。


 最後に薄い金属板のギルドカードを渡される。


 まだ軽い、Eランクの刻印。


 それでもセラはカードを受け取った瞬間、  

 胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


 前世では、生き延びるために掴んだもの。

 今世では、自分で道を選ぶために掴むもの。


 同じ一枚でも、意味はまるで違う。


     ◇


 登録を終えたセラは、そのまま依頼板の前へ

 向かった。


 人だかりの外側から、まず全体を見る。


 Eランク帯は数が多い。

 荷運び、雑用、簡単な採取、

 街近くの小型魔物討伐。

 報酬は安いが、今のセラには十分だ。


 ここで大事なのは、

 稼ぎより”安全に実績を積むこと”。


 前世は焦って、初日から討伐を詰め込みすぎた。

 結果、装備の補修代でほとんど消えた。


 セラが最初に取ったのは、城壁外の薬草採取。

 次に、街道脇の角兎一体の確認討伐。


 地味だが、動線がいい。

 午前中で終わる組み方だ。


「その順番、悪くないね」


 横から声がして、セラは反射的に距離を取った。


 振り向くと、茶髪の受付補助らしい女性が

 依頼札を束ねていた。


 リナ。


 前世ではろくに話さなかった。

 いつもセラが勝手に警戒して終わっていたからだ。


「採取の帰り道で角兎の範囲通れるでしょ。

 新人でその組み方する子、あんまりいない」


「……近いので」


「うん、それで十分。無理しないのが一番」


 軽い調子で言って、リナは別の冒険者の対応へ

 戻っていった。


 セラは依頼札を握り直し、受付へ向かう。


 今日の目標は、背伸びしないこと。

 確実に終えること。

 そして明日も同じように動ける形を作ること。


     ◇


 午前の採取は、拍子抜けするほど順調だった。


 城壁外の採取区画は人の出入りが多く、

 危険は少ない。

 セラは地図の印と地形を照らし合わせながら、

 指定された薬草を選んで摘んでいく。


 根を傷めない切り方。

 泥を落とす順番。

 乾燥しやすい葉の包み方。


 小さな差だが、納品時の評価に響く。


 採取を終え、予定どおり街道脇の角兎確認へ回る。


 角兎はすぐ見つかった。

 単独、負傷なし、動きは素直。


 セラは風で足元の草を揺らして視線をずらし、

 短い詠唱で土を弾く。

 飛び上がった角兎へ、追い打ちの小火球。


 派手さはない。

 でも十分だ。


 討伐証明を取り、周囲を確認してから引き返す。


     ◇


 昼前にギルドへ戻ると、朝より人が増えていた。


 報告列に並びながら、セラはギルドカードの角を

 親指でなぞる。


 たった半日。

 それでも、昨日の自分より少しだけ”

 地に足がついた”感覚がある。


 受付で採取品と討伐証明を出すと、

 リナが目を丸くした。


「もう戻ったの? しかも両方きれい」

「……ほんとに初日?」


「初日です」


「へえ」


 リナはにやっと笑って、受領印を押した。


「じゃあ、いい初日だね。

 次もその調子で無茶しないこと」


 無茶しないこと。


 前世ではそれが一番難しかった。

 強くなりたくて、認められたくて、

 いつも一歩踏み込みすぎた。


 焦らないことも、強さのうちだ。


 ギルドを出る前、セラは依頼板をもう一度だけ

 見た。明日の依頼の目星をつけるためだ。


 前世で焦って取りこぼした”最初の土台”を、

 今世は丁寧に積む。


 それが十五歳のセラが選んだ、

 二度目の冒険者生活の始め方だった。

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