第七話 Eランクの日々
登録から数日。
セラは毎朝同じ時間にギルドへ向かい、
依頼を選び、こなし、報告して帰る。
その繰り返しの中に、前世にはなかった精度を
詰め込んでいた。
朝は依頼板を見る前に、広間全体を観察する。
どの時間帯にどの受付が混むか。
報告列の伸び方。
討伐帰りの冒険者の装備の汚れ方。
強い冒険者ほど、依頼以外の動きが整っている。
前世の二年間で覚えたことを、
今度は最初から使う。
◇
この日の依頼は、薬草採取と下水路入口の
小型魔物駆除だった。
どちらもEランクの定番。
前世ではここで討伐系に偏って、
無駄に怪我をした。
まずは街の地理と依頼の流れを掴む。
採取で足場を覚え、雑用で顔を売り、
危険度の低い討伐で腕を見せる。
堅実で、退屈で、でも一番早い。
下水路入口の魔物はネズミ型小型種が三体。
セラは指先に風を集め、細い刃を作る。
一体目の首元。
二体目の足。
三体目は土の突起で体勢を崩して短剣で止め。
静かで、速い。
周辺の汚れも最小限。
「……問題なし」
魔力消費も軽い。
十五歳の身体に、前世の制御感覚がうまく
乗っている。
◇
ギルドへ戻ると、リナが報告書を見て笑った。
「新人でこれだけなら十分だよ」
「それぞれ魔物の急所、きれいに入ってるね」
「必要なので」
「……ふふ、そっか」
リナは依頼板の端を指して、
初心者向けの回し方も教えてくれた。
「おすすめ、助かります」
礼を言うと、リナが少し驚いた顔をした。
礼を言うのは、まだ少し落ち着かない。
でも悪いことではないと、今は知っている。
◇
夜、部屋に戻ると、セラは短い記録を残した。
うまくできたことより、
引っかかったことを先に書く。
前世のことを考えすぎて、
受付で一瞬ぼんやりした。
下水路の帰りに、壁の影を確認し忘れた。
リナの言葉に身構えすぎた。
小さな違和感を拾う癖を、今のうちにつけておく。
前世の記憶は武器になる。
でも、記憶に縛られれば足枷にもなる。
“前はこうだった”のあとに、
“今はどうか”を必ず挟む。
その癖だけは、毎日確認する。
まだ何も始まっていない。
でも、前世と同じ場所に立てている。
それだけで十分だった。




