ep.659 拒絶の毛玉、あるいは「清らかな地獄」からの脱出
調理場を包み込む、あまりにも眩しい和解の光。騎士、サヨ、アリスが後光を背負って「愛と信頼」を語り合う中、その中心で猫二だけが、まるで全身に熱湯を浴びせられたかのように激しく身悶えしていました。
「ひぎィィィ!眩しい!眩しすぎるニャ!空気が……空気が美味しすぎて、肺がびっくりしてるニャー!!」
猫二は自分のテカテカに脱脂されたフワフワの毛並みをかきむしります。彼が愛するのは、裏切りの匂いがする泥水であり、天引きされる給与の悲哀。こんな「誰も不幸にならない空間」は、彼にとっては存在の否定に等しいものでした。
「さらっと。……猫二さんの精神衛生指数が、過去最低値を更新。彼にとっての『正常』とは、誰かが泥を被り、誰かが私腹を肥やす構造の中にしか存在しません。……あ、猫二さん、口から魂の形をした綿毛が出ていますよ♪」
「あはは!猫二ちゃん、そんなに綺麗な空気が嫌なのぉ?せっかくみんな仲良しになったんだから、一緒にハーブティーでも飲もうよぉ~」
うさちぁんが差し出したのは、酒成分ゼロ、100%オーガニックな「真心ハーブティー」。それを見た瞬間、猫二の何かがプツリと切れました。
「ふざけんなニャ!僕は……僕は、わざとらしくピンチに陥って投げ銭を稼ぐ、あの『汚いプロレス』の中にしか居場所がないんだニャ!こんなホワイトな職場……死んでもお断りニャーーー!!」
猫二は、和解した三人が組んだ「友情の円陣」を突き破り、全速力で走り出しました。しかし、咲姫が狂気でハッキングした調理場のシステムは、皮肉にも「逃亡者さえも優しく包み込む」設定に上書きされています。
「にゃうにゃ!?猫二ちゃん、どこへ行くのですかー!咲姫を置いて逃げるのは許さないのです!咲姫もその『正常な悪夢』から連れ出すのですー!!」
天井のダクトから咲姫が手を伸ばしますが、猫二は止まりません。彼は調理場のゴミ捨て場~唯一、わずかに「生活の澱み」が残っている場所へダイブしました。
「これだ……これだニャ!この、ちょっと酸っぱくなった生ゴミの匂いこそが、僕の魂の故郷……。騎士さん!サヨさん!早く僕を罵倒して、時給を15エトスに下げてくれニャー!!」
ゴミ袋に顔を埋めて震える猫二。しかし、浄化された騎士たちは、それさえも「慈愛の眼差し」で見つめます。
「……猫二、照れなくていい。君のその『汚れ役を買って出る献身』も、今なら理解できるよ。さあ、一緒にこのレモンシャワーで、その心の傷も洗い流そう?」
「ひぎィィィィ!来るな!くるなニャー!僕は……僕は一生、泥の中で小銭を数えて生きていたいんだニャアアア!!」
咲姫の「カオスを求めた狂気」が、結果として「全方位・全肯定・超絶ホワイト空間」という名の最大級の檻を生成してしまい、そこに馴染めない猫二と、撮れ高ゼロに絶望する咲姫だけが、この「完璧な楽園」の中で孤独に叫び続けるのでした。
咲姫はどこにいくんでしょう?




