ep.60 最後の灯
島の奥、崖の下に、
ぽつんと埋もれた祠があった。
「……ここだけ、風が止まってる」
瑛里華が、髪を押さえながら言った。
「火も、息をひそめてるみたい」
咲姫が、祠の前にしゃがみこむ。
*
祠の中には、小さな灯壺があった。
蓋は閉じられたまま、灰に埋もれている。
「これが、“最後の灯”?」
果林が、そっと灰を払う。
「火の輪の灯壺と、形が似てる。けど……」
「封じられてる」
イサリが、壺の縁をなぞる。
「誰かが、意図的に火を閉じたんだ」
*
ぽぷらんが、しっぽで◎を描く。
けれど、壺は沈黙したまま。
「……開けていいのかな」
孝平が、手を伸ばしかけて止まる。
「火は、ただ灯せばいいってもんじゃない」
イサリの声が、低く響く。
「これは、“忘れるための火”かもしれない」
「でも、誰かが残したってことは――
いつか、誰かに見つけてほしかったってことじゃない?」
咲姫が、壺に手を添える。
「だったら、今がその“いつか”かもしれない」
*
ぽぷらんが、もう一度◎を描いた。
今度は、火の輪の火を添えて。
壺が、かすかに揺れた。
そして、蓋が静かに開いた。
中には、ひとつの火種と、短い言葉が刻まれていた。
『この火は、誰かを守るために閉じた。
でも、もう大丈夫。――灯していい。』
孝平が、そっと火種に手をかざす。
「……灯そう」
ホムラノワ号の灯が、もうひとつ増えた。
“最後の灯”は、消された火じゃなかった。
守るために、そっと閉じられていた火。
それを見つけて、開いて、灯す。
それが今回の役目だった。
火の輪の火は、ただ広がるだけじゃない。
ときには、誰かの記憶をそっと包み、
ときには、忘れられた場所に寄り添う。
ホムラノワ号は、そういう火も運ぶ舟。
次回は、灯を取り戻したウンヌツギヘが、
“迎える場所”として再び目を覚ます回。
それでは、また火のそばで。




