ep.209 響きの産声
石の門をくぐり、咲姫は一度だけ大きく伸びをして、青空に向かって宣言したのです。
「新しい場所の名前、決めたのです! 『エトスフェリア』にするのです!」
ミナが少し驚いたように、編纂帳を抱えたまま足を止めた。 「エトスフェリア? ……エルシンフォリアと、少し似ているわね」
「そうなのです! みんなが一緒に笑って、みんなが『ここが私のお家なのです!』って言える、とびきり愛おしい場所にするのです。風がそう教えてくれたのです!」
咲姫は天然な自信をにじませて、えっへん、と胸を張った。 リオは呆れたように笑いながらも、その名前の響きを口の中で転がしてみる。 「エトスフェリア……。居場所と、愛、か。咲姫にしては、上出来な直感なんじゃないかな」
リオは記録帳の真っ白なページに、力強くその名を書き込んだ。 これまでの旅は、誰かに用意された場所を巡るものだった。けれど、これからの旅は違う。自分たちの足で歩き、自分たちの手で土を耕し、自分たちの響きで街を築いていくのだ。
「まずは、南に向かうのです! あっちの方から、とってもキラキラした『街の素』が呼んでいる気がするのです!」
咲姫が指差す先には、見渡す限りの草原が広がっている。 三人の足取りは、かつてないほど軽やかだった。 その背中を追いかけるように、エルシンフォリアの町から、小さな、けれど確かな「響き」が風に乗って流れ出していく。
これから出会う誰かが、その響きを聴きつけて、いつかこの一行に加わることになるのを、咲姫はまだ知らない。
新章開始です! 「クラフト主体の物語にするはずが、なかなか始まらない……」とお待たせしてしまい申し訳ありません。
本作(通称:既存版)は、「テンポ・会話・そして余白」を最重視して綴っています。 ここで言う「余白」とは、あえて全てを説明しすぎないこと。読者の皆さんが「これってどういうことだろう?」と妄想を広げられる楽しみや、キャラクターが予定を超えて成長していく「変化の余地」を残すことを主軸に置いています。 その結果、たまにキャラが筆者の手を離れて暴走し、予定からはみ出してしまうこともありますが……それも含めてこの物語の味として楽しんでいただければ幸いです!
―― お知らせ:if版も連載中です ――
既存版とは別に、現在「if版」の投稿も開始しています。 こちらは、既存版ではなかなか重視しきれなかった「グルメ・ラブコメ・心の機微・日常の彩り」などをふんだんに盛り込み、別の角度からこの世界を楽しめる構成にしています。
重視しているのは「会話・掛け合い・心・彩・余白」。そして何より、キャラクターが暴走するのが大前提(!)の物語です。本編とは一味違う賑やかさを、ぜひ併せてお楽しみください。
【if版:クラフト・アルケミスト】 https://ncode.syosetu.com/n2988lp/
―― 裏話 ――
前作『ひげがゆれるとき』に登場した「エルシンフォリア」と「エルシンポリア」。実はこれ、その時のテンポで決めています(笑)。
ネーミングに悩んだときは、AIと壁打ちして多言語の候補をリスト化し、語感の響きで造語にする……という工程を踏んでいるのですが、プロットを作らないスタイルゆえに、当時のメモがよく迷子になります。
現在、設定ファイルだけで20以上、全体では「ファイル数644、フォルダ数15」という膨大な量に……。ゲームのアイテム整理はあんなに楽しいのに、執筆資料の整理となると腰が重いのはなぜでしょうね。いい加減整理します!
ぐだぐだ語ってしまいましたが、いつも応援してくださる読者の皆さん、本当にありがとうございます。新章も、そしてif版も、よろしくお願いいたします!




