ep.207 縁日
広場に、色とりどりの布が張られていた。
町の人々が持ち寄った、古いのれんや風呂敷。
それが、風に揺れて、まるで語りの旗のようにたなびいている。
今日は、小さな“縁日”。
咲姫の語りに触れた人々が、
自分の語りを持ち寄る日。
誰かは、古い写真を並べ、
誰かは、祖母のレシピを読み上げ、
誰かは、昔の遊び歌を披露した。
ミナは、手作りの冊子を配っていた。
「これは、咲姫さんの語りをまとめたものです。
でも、空白のページもあります。
あなたの語りを、書き込んでください」
子どもたちは、絵を描き、
年配の人々は、昔話を語り、
若者たちは、町の未来について話し始めた。
リオは、火台のそばで記録帳を開いていた。
けれど、今日は書く手を止めて、
ただ、耳を澄ませていた。
語りが、あちこちで生まれていた。
咲姫は、広場の端でそれを見守っていた。
誰かが、そっと声をかけた。
「咲姫さん、今日は語らないの?」
咲姫は、微笑んだ。
「今日は、町が語っているのです。
私は、ただ、聞いていたいのです」
風が吹いた。
のれんが揺れ、火台の灯りが踊った。
『縁の章・漆
縁日。
語りは、ひとりの声から始まり、
やがて、町全体の声となる。
語り手は、語る者であり、
聞く者でもある。
語りがめぐるとき、
町は、ひとつの声になる。』
“縁の章”第七話は、縁日。
咲姫の語りに触れた町の人々が、
それぞれの語りを持ち寄る小さな集いが開かれました。
語りは、誰かひとりのものではなく、
町全体が“語り手”となるもの。
咲姫は、語ることを手放し、
聞く者として町の声に耳を澄ませます。
次は、縁の章の締めくくり。
咲姫たちが“語りの共同体”として歩き出す回です。




