二十、二回目の旅
朝は薄いテントの布から入る日の光で起こされた。昨晩のパンを食べるとテントをしまって出発。4人でまた細い一本道を歩き出した。昼頃には熱い日光に頭を焼かれる。
「天気がいいってのも時にはキツイなぁ……」
ヴァンカスがぼやくとシェルメギさんも額の汗を拭う。
「つべこべ言うな、行くと言ったのはお前だ。我慢しろ」
フィーミェンに僕も袋やフードを上げ、日差しを避けようとする。
「ライガンさんって人、エルフの隠れ家見つけられたよね」
フィーミェンが眩しい光に目を半分瞑る。
ヴァンカスは振り返り、僕らの会話に入る。
「そうなんだよなぁ、アイツ」
「どのようにしてエルフの里を探し当てたのですか?」
フィーミェンがテンポよく聞き、彼は嬉しそうに答える。
「俺達は二十年探し続けたよ。この大陸の隅々までな。途中沢山のエルフ族に会ったが、ほとんどの奴は覚えてなくてな。覚えてる奴も忠誠心が強くてよ。なかなか場所を教えてくれなかったんだ」
僕はセリナさんを思い浮かべた。彼女もエルフの里出身なのだろうか?彼女は自分の街が魔王に滅ぼされたと言っていた。ヴァンカスが二十年探し続けたエルフの里が簡単に魔王に見つかるとは考えにくいとすると、セリナさんは里を離れて暮らしていたのだろう。
「どいつもこいつも、北の森くらいしか教えてくれんかったな。エルフの里に行くにはどこにあるかを明白に知ってなきゃいけない。探して辿り着けるもんじゃなかったんだよ」
彼はそう説明したが、僕とフィーミェンの頭には同じ疑問が浮かんだ。
「それじゃあヴァンカスさん達も見つけられないじゃないですか!」
「ライガンさんが知ってたってこと?」
何か新事実が明らかになると踏んで僕とフィーミェンは彼に問いかけたが、当たり前のように返ってきたのは期待外れの返答だった。
「いいや、そうだ。俺、ライガン、シェルメギ、それで他の奴らも誰ひとりとして知らなかった」
「それじゃあ一体どうやって……」
僕が聞くと、シェルメギさんはヴァンカスのこれからの発言を予想しているようにため息をついた。
「知らないなら教えて貰えば良いのさ」
先程彼の言っていることと矛盾した回答に僕は戸惑った。
「でも教えて貰えないって……」
フィーミェンを遮りながら彼は指を振る。
「ライガンみたいな奴は嫌でも有名になるのさ。当然憧れる奴も、嫌う奴も」
彼の話に夢中な僕らを見てニヤけた。それに勘付いてシェルメギさんは横に首を振る。
「気になるだろう?知りたいか?どうしよっかなぁ……教えてやっても良いんだけどなぁ」
勿体振るヴァンカスにフィーミェンと一緒に続きを聞いても彼はずっと歯を見せながら笑っていた。
「教えてやっても良いけど、タダじゃできねぇなぁ……」
そんな彼の髪の毛をシェルメギさんが掴む。
「痛ぇよ!」
ヴァンカスの悲鳴を無視してシェルメギさんは代わりに教えてくれた。
「ライガンは旅をする間、誰でも助ける親切な冒険者として有名になって行った。彼の墓場となった此処、アルフェス王国も、隣国のブルジス王国も、到着する前から噂が行き渡っていた」
「ライガンさんお亡くなりになられてしまったんですか?!」
エルフの里を見つけてからパーティを解散しただけだと思っていた僕は目を丸くしてシェルメギさんに聞いた。
ヴァンカスの口調がライガンという人物が生きているように思えて、これから会いに行くかのような話し方だった。
シェルメギさんは僕の質問に答えるよりも、自分が話途中で遮られたので不愉快な顔をしていた。僕を長身の彼女は見下し、少し歩くペースを速める。
「アルフェスからブルジスに渡り、グアッオ村というところに辿り着いたのだが、作物が全く育たないと言ったんだ。近くの森も木が枯れ始め、植生物がどんどんなくなっていたらしい。当然奴の性格のせいで問題を解決するまで村に泊まるということになった。」
話しているうちにどんどん進み、いつの間にか歩きにくい岩だらけの地形になっていた。
「おわっ!」
僕はシェルメギさんの話に夢中だった。そのためつまずきそうになってしまった。
つまずきそうな足と反対の足を前に出し、体を支える。
「大丈夫か?」
ヴァンカスが僕とフィーミェンに呼び掛ける。
「ああ、はい」
少し高い岩に登ると、草原を背面、左側を山に、進まなければならない方向には沢山の岩が続く。目を凝らせば終わりが見えそうだが、確信はできない。
「ここはアルフェス王国のほぼ最北端だな。ここを越えたら川があってな、その向こうはもうブルジス王国だ」
ヴァンカスが説明する。ここは彼もかつて通った道だという。
「村に行くにはここが最短だ。迂回すれば海か山。ここも村もだいぶ内陸だからな。ここを突っ切るのが一番早い」
僕とフィーミェンは何も言わずにヴァンカスとシェルメギに着いて行った。
「そ、それでグアッオ村で何があったんですか?」
フィーミェンがシェルメギさんに話の続きを聞く。
「やっぱり面倒くさい。着けばわかる」
そう言って彼女は話の続きを教えてくれなかった。
「ええ……」
僕らはペースを落しつつもしっかりと距離を稼いだ。
「そうそう」
ヴァンカスが前から言う。
「ここは隠れる場所が多いからな、夜には魔物が出てくるかもしれないぜ」
「ええっ?!」
僕とフィーミェンは空き家でのことを思い出し、震えた。
「今夜はここだ」
シェルメギさんはそう言って近くの洞窟の中に入った。
「うわー懐かしいぜ」
ヴァンカスが声をあげる。
「この洞窟に来たことが?」
「ああ、ここにはドラゴンがいるんだぜ」
そう言って僕らを脅かすヴァンカスをシェルメギさんは拳骨をくれた。
「いた、だろう。それにあれをドラゴンとは呼べないな。ただの大きなトカゲだ」
この洞窟が大きな魔物の巣立ったと分かると、背筋が震えた。
その夜はシェルメギさんが見張っていてくれたものの、安心して眠ることはできなかった。




