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鎮伏者の条件

最後にちょっとだけ音姫視点。

「ふっ!」


 振り返ったボスの懐に、俺は躊躇なく飛び込む。

 それに合わせて、ボスは蛮刀を袈裟切りに振り下ろしてきた。


 甘いわ!

 たった今思い付いた、緊急加速装置!


 踏み込みだって打撃です!

 だって、大地印が出来るんだもん!


 だから、地面に踏み込んだ足から発勁を放ってみました。


「うおっ!?」


 ちょっと自分でも驚くほどの急加速で、ボスの蛮刀を躱して懐に潜り込む事に成功する。

 目の前に迫ったボスの腹に向かって、両腕でパンチを打ち込む。


『ゴ、ォッ!』


 やや苦悶の声を上げながら、ボスが後退した。


 行ける! 通用する!


 攻撃が機能する事で勝算があると確信した俺は、追撃に向かう。


『ガァアアアアアア……!!』


 俺の反撃に怒ったのか、滅茶苦茶に蛮刀を振り回し始めた。

 これが速いの何のって。

 躱すだけで精一杯で、とても近付けない。


 クッ、これがリーチの差……!

 小柄なゴブリンがナイフを持っていても、成人男性な俺とはリーチが違うのだよ、リーチが!

 と、勝ち誇っていた俺への嫌がらせか!?


 なんとか近付こうと背後に回り込もうとしたりもするが、あっちも俺を近寄らせたらヤバイと思っているのか、巧みなステップで俺を近寄らせない。


 あれ? これ、マズくない?

 このままだと、気功法の限界時間が来ちゃいますよ?


 体感として、あと一分くらいでスタミナ切れで解除されてしまう。

 そうなると、もう太刀打ちできない。

 だって、気功強化してやっと対抗できている状態なのだ。

 それが無くなれば、殺されるのは必至である。

 つーか、逃げる事さえ出来ないだろう。


 逃げも考えれば、あと30秒程度で片を付けるなり、勝ちを確定しなければならない。


「うおっ……!?」


 そんな事を考えていると、足を引っ張られるような感覚があった。

 見れば、殺し損ねていたゴブリンとファングが、それぞれ俺の足を抑えている。


 え? 今? この状況で?

 大ピ――――ンチ!


『グルァ!』


 ボスがチャンスと見て、大上段から蛮刀を落としてきた。

 俺を頭から唐竹割りにするつもりらしい。


 咄嗟だった。

 俺は両手を合わせて、蛮刀を白刃取りする。


「ヌゥオオオオォォォォ!!」


 まさか本当に出来るとは!

 刃は俺の額に少しめり込んだ場所で止まっていた。

 ちょっとだけ切れているっぽい。

 顔を流れる液体の感触がある。


 危ねぇ!

 だが、どうする!? 手詰まりだぞ!


 あっ、そうだ!


 そのまま、俺は両手から発勁する。


 発勁は、よく分からんが衝撃の様な物みたいだから、固体を通せば伝道するんじゃないかな!?

 っていうか、してくれないとどうにもならないよね!?

 さっきの攻防中、蛮刀に発勁してみた時には折れそうな感触もなかったし!


『ガッ!?』


 幸いにも、発勁は思惑通りに伝導したらしく、ボスの握り手まで通じた。

 予想外の衝撃に、ボスは思わずという様子で蛮刀を手放してしまった。


 チャンス到来、ファイナルッ!!


 蛮刀を投げ捨てた俺は、両足に絡みつく雑魚共をそのままに跳躍した。


 ボスの顔面に飛び膝蹴りを叩き込むと同時に、その脳天に肘打ちを落とした。


 肘膝挟み打ち、木霊合わせ……!

 なんちゃって!


『ゴッ……バッ!』

「まだ死なんか!」


 頭部の穴という穴から血を噴き出すが、まだ堪えている。


『ガァッ!』


 ボスの拳が宙に浮いた俺に向けて振るわれる。


 俺はそれを胴体で受け止める。


 刃物じゃなければ怖くないわぁ!


 内臓が揺さぶられるようなきつい衝撃はあるが、痛みには程遠い。


 全身でその腕を拘束し、力任せにボスの巨体をぶん投げる。

 絶対、これ腰に悪いわぁー。

 二度とせん。


 引きずり倒されたボスの頭に、俺は高く上げた足を四股の様に踏み落とす。


 大地印ッ!

 足に食いついたファングの重み分まで喰らうが良い!


 これで終われ!

 っていうか、終わって下さい!

 終わってくれないと俺がやばいんです!


 その願いが通じたらしく、ボスが大きく痙攣した後、その動きを止めた。


 四肢が投げ出され、全身から力が抜ける。

 そして、一拍の後、ボスの全身が光の粒に分解されて消え始めた。


「ふ、ふぃぃぃぃぃぃ……。

 死ぬかと思ったぁー」


 辛勝に、俺は脱力してへたり込もうとして、今更のように絡んだままだったゴブリン君とファングちゃんを思い出した。


 目がばっちりと合う。

 ボスのいなくなった彼らは、なんとなく困っている様に見えた気がした。


「ふんぬっ!」


 容赦なく抹殺!

 よし、完全勝利……!


 やったどぉー!

 でも、疲れたから休憩させてぇー!


 仰向けに倒れた俺は、そのまま眠りについた。

 ちょっと、疲労がマジで限界だったんです。


 ばたんきゅー。


◆◆◆◆◆


 お見事! よく頑張りましたねぇー!


 七段にまで至った私から見れば、彼らの戦闘は少々スローリーでしたけど、それでもお互いに死力を尽くした刹那の死闘でした。


 結果として、義之君が勝利しましたけど、どちらが勝ってもおかしくない、実に見事な内容でしたね。

 まぁ、見殺しにする訳にもいきませんから、ビッグゴブリンが勝ちそうになったら、私が介入するつもりでしたけど。


 でも、まぁ、本人たちはその事を知りませんし、彼らの死闘に嘘はありません。


 いや、繰り返しますけど、見事でした。

 素晴らしい。


 ぱちぱち、と私は拍手を送ります。

 届きはしませんけど、心は大切なのです。


「ふっ、くくくっ……」


 面白くなってきましたねぇ~。


 私の世代は、プロ以上の方々の目からすれば、不作の世代だそうです。

 私もそう思います。


 現時点において、私くらいしか頭角を現している者がいませんからね。

 それなりに頑張っている方もいますけど、どうしても〝それなり止まりだろうな〟という感想しか出てこない小粒でしたから。


 そんな、若干、諦められていた所に、彼――義之君の登場です。


 彼は実に見所があります。

 能力云々ではなく、その精神性に。


 鎮伏者は、どうしたって命懸けです。

 何をどう言い繕っても、その現実は覆りません。


 だから、私たちには必要なのです。

 命が危機に瀕しても、どんな強敵が前に立ちはだかっても、それでも猶、更なる一歩を踏み出す勇気という物が。


 彼は、今の戦いで、それを充分に見せてくれました。


 今時の普通の鎮伏者ならば、安全マージンとやらを気にして、あれだけ不利になれば即座に撤退を選ぶでしょうに。

 にもかかわらず、彼は立ち向かい、勝利をもぎ取りました。


 命知らずの馬鹿野郎でなければ、絶対に出来ない芸当です。


 義之君は、鎮伏者として最も重要な要素を、既に目覚めさせています。

 今は実力も知識も、何もかもが足りていませんが、そんなものは後から幾らでも叩き込めます。


 きっと、彼は登り詰めてくるでしょうね。

 私たちの領域まで。


 私じゃなくても、きっとどのプロの方であっても、そう言ってくれる事でしょう。


「実に楽しみです」


 新たな英雄の誕生に、競い合える同世代の出現に、気分の良くなった私は、鼻唄交じりに虚数領域から立ち去るのでした。


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