ボスへの挑戦、そして戦意の覚醒
「うっし、行くか」
身体が温まってきた所で、俺は背にしていた鉄扉……鉄なのか、これ?
まぁ、鉄っぽい見た目の扉と向き直る。
おそらく、ボス部屋だ。
地図でもそう書かれてるし、中にはちょーっと威圧感がヤバめなゴブリン擬き――あれは絶対にゴブリンではない――が堂々と鎮座していた。
あれがボスじゃなかったら、俺はもう鎮伏者を止める。
虚数領域、怖いぃ~。
昨日の話では、まだまだモンスターが跳梁跋扈していて先に進めないだろう、という事だったのに、今日挑んでみたら何故かやたらと道が空いていた。
うーん、なんかモンスターが突然死するウイルスでも蔓延しているのかね?
あらやだ、怖い。
人間に感染したりしねぇだろーなー?
まぁ、そんな訳で、昼過ぎには何故かボス部屋まで辿り着いてしまった。
そろそろクリアしたいと気が急いて仕方なかった俺としては、ちょいと強そうだからと言って引く理由はない。
いや、一当てして勝てそうになかったら、尻尾を巻いておめおめと逃げ帰りますけどね?
命、大切。
プランとしては簡単だ。
速攻で周りの雑魚を片付けてから、ボスゴブリン擬きとタイマンに持ち込む。
これだけである。
ぶっちゃけ、周りの連中は気功強化状態なら瞬殺できると思うんだ。
あいつらまで強化されてて瞬殺できなかったら、マジで勝ち目が見えないからさっさと撤退。
逃げるが勝ちよ。
あとは、タイマンでボスに通用するのかどうか。
あいつ、強そうだけど、俺に勝てる相手なのかね?
攻撃が通用しないとか言われたら、どうしようもないんだけど。
いやいや、俺の気功法を信じよ。
強化状態での発勁なら、毛皮ガードの上からでもファングを瀕死に出来たじゃないか。
ボスだからと言って、ノーダメージは有り得ない。
多分、きっと、メイビー。
では、いざ行かん。自由の地へ。
いや、違う。決戦の地へ。
気功法を発動させてから、鉄扉を押し開く。
足を踏み入れると同時に、俺はフルスロットルで疾駆する。
ボスは、まだのっそりと立ち上がろうとしている状態だ。
取り巻きも、反応しきれていない。
雑魚の数は五体。
いや、それぞれゴブリンとファングのセットだから十体だけど、大した違いではない。
一番手前にいた一体に肉薄すると、踏み込みの代わりにファングの頭を足で踏み潰し、すかさず発勁を放つ。
地面の砂利が波打ち、深く頭蓋がめり込んだ。
そして、地面と挟まれた状態で打たれた所為なのか、ファングの頭から血が盛大に噴き出して、広範囲を赤く染め上げる。
前に偶然に起きた現象だ。
何度か試して、偶然の結果ではないと確認した事で、俺は第二の必殺技として、これを〝大地印〟と名付けた。
どうでもいいか。
『ギッ!?』
騎馬がやられた所で、丁度良い高さに下がったゴブリンの頭をフックで捥ぎ取り、その勢いのまま別のゴブリンに向かって投げつける。
凄まじい勢いで激突した頭部が潰れ、胸に当たったゴブリンは盛大に血を吐き出しながら吹っ飛んでいった。
あれは致命傷だな。
死んでいないかもしれないが、戦闘に参加はできまい。
騎手を失ったファングの突撃を躱し、すれ違いざまに木霊合わせを打ち込み、内臓を破裂させる。
二騎、撃破。
続いて三組目に取り掛かろうとしたところで、
『グルァアアアアアア……!!』
遂にボスが戦闘態勢に入ってしまった。
僅かに身を沈めたボスは、俺に向かって瞬発する。
ちょっ、速っ。
「うひょう!?」
巨大な蛮刀による縦切りを、半身にしてギリギリで躱す。
マジ怖っ。
やべぇ。
さっさとタイマンに持ち込まないと殺されかねん。
躱した隙を狙って、雑魚が飛び掛かってきた。
『ギヒィ!』
ゴブリンが醜く顔を歪ませて槍を突き込んでくる。
それを紙一重で掴み取って、身を回して肩に担ぐ。
背負い投げしてやった。
頭から地面に叩きつけてやるが、まだ死んではいまい。
こいつら、結構、頑丈だし。
そのまま転がるようにしてその場から離脱する。
その直後には、二本の槍が交叉していた。
多分、刺さったりしないだろうけど、打たれた衝撃はあるんだよな。
それで立ち止まっていては、ボスに隙に見せてしまう。
兎に角、動き続ける事が肝要なのです!
『ガァッ!』
続いて迫ってきたボスの横切りをリンボー回避して、巨体の股下を抜ける。
そして、後ろに続いていた騎手無しファングに、立ち上がる勢いと共に、思いっきり頭突きと発勁を叩き込む。
噛み付こうとしていた事もあって、相対速度込みの痛打は中々の威力となった。
おかげで、ファングの牙が折れ砕けて、口から血が滴っている。
俺の頭もちょっとクラクラする。
止めを刺してやろうと追撃に飛び掛かろうとするが、
「うごふっ!?」
背後からの衝撃でぶっ飛ばされた。
回転する視界の中で見れば、ボスが後ろ向きのまま俺を蹴ったようだった。
あの野郎、俺を足蹴にするとは。
ぜってぇ許さねぇ。
ぶっ殺してやる。
「こほっ」
痛みはないが、衝撃はきつかった。
噎せて咳き込んでしまう。
ダメージにはならないけど、体勢崩しとしては有効だ。
今回は結果として距離を取れる事になったから良かったが、下手に受けると蛮刀の前に無防備に身体を晒してしまう事になるな。
気を付けねば。
吹っ飛んだ俺に、雑魚が殺到する。
まだ無事な二騎だ。
チャンス到来。
全く、脳ミソは原始人並みだな。
大人しくボスの取り巻きをやっていれば良い物を。
突き込まれる二本の槍を躱し、カウンターでゴブリン二体に拳を叩き込む。
突進の勢いはあるが、体勢が微妙だったので確実に倒しきる為に発勁付きだ。
おかげで、ゴブリン二体はファングの上から落ちると同時に光となって消える。
「んぅ……!」
代わりに、俺の両足にファングがそれぞれに噛み付いたけど。
あっ、止めて。
股裂き止めてー!
牙が刺さっていない事に気付いたファング共は、即座に左右に動いて股裂きしようとしてくる。
お前ら、実は頭が良いんじゃないの?
止めてよね。
馬鹿なままでいて下さい。
「ふんぬ!」
『『ギャン!?』』
足に力を入れて、引き戻してやる。
その勢いで、お互いの頭をぶつけ合わせてやった。
二匹がかりでも力負けした事が予想外だったのか、牙が外れた。
チャンス到来、再び!
二つの頭を掴んで地面に叩き付ける。
そして、すかさず発勁!
大地印、二連打!
それで絶命させた。
これでほぼ全ての雑魚は片付いた。
あとはボスのみ!
そう思って顔を上げた瞬間、目の前に肉厚の刃が迫っていた。
あっ、やばっ……。
「がぁ……!?」
強引に顔を背けるが、それでも躱しきれない。
赤の色が目の近くで舞う。
灼熱のような痛みが頬を走った。
口の中に、鉄の味とぬるりとした液体の感触が広がる。
多分、内側まで貫通していやがる。
「こ、この俺の顔にィィィィィィッ!!」
ダンディな傷跡がぁぁぁぁぁぁ☆
とか冗談言っている場合ではない。
こいつ、やべぇ。
俺の気功防御を易々と突破しやがった。見切りをミスると死ねる事が確定してしまったぞ。
これは、ここは、恐怖を抱く場面なんだろう。
痛みに、死の可能性に、身を竦め、怯える場面なんだろう。
だってのに、どうした事だ。
俺の心には、そんな感情は湧き上がらなかった。
脳内麻薬ダバダバで、アドレナリンたっぷりな所為だろうか。
こいつをぶっ殺してやるという気持ちしか湧いて出てこなかった。




