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第八話 悪魔

 僕と河島はゆっくりと城に向かって歩を進めていた。


「わかってると思うけど、きっとこれは……」

「罠、って言いたいんでしょ? でも、それで帰れるような状況じゃなくなっちゃったじゃない」

「……なんか、君はもっと臆病な人だと思っていたんだけど、案外強いんだな」

「だ、だって……」

 河島は少しだけうつむいていた。頬が少しだけ赤らんだのが、暗闇だけれどわかった。

「まあ、このまま帰っても後悔するだけだし、行こうか」

「行く、ってあの城の事よね?」

「ああ……確か、『ドリームキャッスル』だったような」

 僕は、スマホの写真にある地図を確認する。

「夢の城、ね、夢なら早く覚めてほしい……」

 城は、この暗闇に包まれた遊園地には不釣り合いなくらいに荘厳としていた。

 西洋の、まるでそこに今でも女王が鎮座しているかのように……。

「河島、やっぱ怖くないか……」

「こ、怖くなんて、ないよ! あ、あと、呼び捨てはやめてよ」

「え、この前呼び捨てでいいって」

「裕奈、でいいよ、そっちの方が、安心するし」

「な、なら、裕奈、先行ってくれない?」

 僕は引きつった笑顔で一縷の望みにかける。

「い、いやに決まってるでしょ!」

「だ、だよね……」

 こうして、僕の後ろに裕奈がぴったりとくっつく感じで僕らは城に足を踏み入れる。

 大きな、僕らの倍はある大きな扉の目の前にたどり着く。

「あ、開けるぞ?」

 裕奈は言葉は発さずにこくりと頷いた。

 ぎいぃぃぃ…………。

「ひっ!」

 後ろで少しだけ裕奈が悲鳴を上げた。

「こ、これは……すごいな」

 開けて、あたりを見回すと、まさにお城、という感じの内装だった。

 真ん中には大きな階段、絨毯が敷き詰められ、壁には絵画が数点飾られている。

 壁には等間隔に照明として蝋燭が飾られていて、火がゆらゆらと揺れていた。

「なんか、こういうのはゲームとかでしか見たことないんだけど、綺麗なもんだな」

 少し感心して裕奈の顔を見ると、裕奈は眉間にしわを寄せて、とても怖いものを見るような表情で僕を見上げている。

「ど、どうした……?」

「どうした、じゃないって……この状況をみて、よく綺麗なんていえるわね」

 そこまで言われて、僕は自分の発言に驚かされた。

 そうだ、ここは二十年も前に廃園した遊園地なんだ。

 ならどうして。


 どうしてこんなにも綺麗なんだ。


「ご、ごめん……」

 つい、謝ってしまう。が、そう認知すると、この景色が一気に恐怖の対象に一変した。

 今にも動き出しそうな絵画の絵たち。

 ゆらゆらと、僕らを別世界へと手招きするかのような炎たち。

「あ、謝らなくてもいいけど……」

「い、行こう……こんなところ、長居なんてしたくないし」

「でも、あなたこれからどうするつもりなの? さっきのあのお化け、ママ、って言ってたわ。少なくとも、そういう存在が二人の近くにはいるってことなのよ?」

「そ、それは……」

 考えないようにしていた、とは言えなかったので口ごもってしまう。

「何かあったら……恨みっこ、無しだからね?」

 裕奈は、僕の袖を掴み、少しだけうつむきながら言った。

「……ああ」

 僕は、何があってもこの子は守ろうと心に誓った。


 そこからしばらく広間から動けずにいると、突然、お決まりのように僕らの後ろの扉が勢いよく閉まった。

「きゃっ!」

 裕奈の悲鳴だけが、城の高い天井に響いた。

「これは、進めってことなのか、な?」

 僕は、そう自分に言い聞かせ、ゆっくりとあてもなく歩き始めた。

 と、その時

「ぁぁぁぁ……」

 遠くで、悲鳴のようなものが聞こえた気がした。

「なあ、裕奈今の」

 裕奈を見ると、顔が真っ青になっていた。

「先輩……」

「え?」

「今の声、先輩の!」

 裕奈は、今にも泣きそうな顔で僕を見上げる。

 声だけでわかるって、やっぱり、そういう事なんだろうな……。

 少しだけがっかりしながらも、僕はなるべくかっこつけて言う。

「ああ、早く助けに行こう!」


 しかし、それから何度か聞こえる悲鳴に耳を傾けても、いったいどこから聞こえてきているのか、反響してなかなか場所がつかめずにいた。

「ね、ねえ……もしかしたら、なんだけど」

 と、裕奈が小さな声で僕に手招きをする。

 呼ばれるがままに、僕は裕奈のいるところへ向かうと、裕奈が床を指さす。

「ここ、なんか開きそうじゃない?」

 埃を払い、見るとそこにはまるで隙間のような線が入っていた。

「これ、開くのか?」

 僕は隙間に指をいれようと、無謀な試みを繰り返していると、

「うぎゃあああああ!」

 確かに、この床の下から悲鳴が聞こえた。

「健太……!」

「やっぱりこの下よ!」

「ああ」

 それから、僕らはこの床の開け方を探ると、少しばかり、小さなくぼみを見つける。

「こ、これなら」

 僕は持ってきた鞄の中の撮影機材から脚立を引き出し、くぼみに先を押し込む。

 それから、てこの原理を利用して、なんとか持ち上げる。

 と、

 ギギギギギギ…………。

 さっきとはまた違う、金属がこすれるような音を立てながらゆっくりとドアが開いた。

「こ、これって……!」

 そこには、地下へと続く、長い階段が控えていた。

「地下への隠し階段、か?」

 と、僕が見たままを述べていると、裕奈は僕とは違う呼び方をする。

「地下室の、拷問部屋……」

 それが、あまりにも予想外で、僕は少し拍子抜けしてしまう。

「な、なにそれ?」

 しかし、僕とは裏腹に青ざめた表情をした裕奈は早口に説明する。

「先輩がよく言ってたの! あの城の地下には昔、拷問部屋があって、国家ぐるみで秘密を吐かせたいときに使われていた、って。それが、多分この先にあるの!」

「そ、そんな都市伝説、あるわけ……」

「あったじゃない、私たちがここに来るまでに、もう何度も見たわ」

 これ以上に、説得力のある説明はなかった。

「そう、だな……」

 それから僕らはゆっくりと、足音をなるべくたてないように階段を下りた。

 下まで降りると、三つの扉がある小さなホールがある。

「ど、どれも開けたくないな……」

「そ、それは私だって……でも」

「わかってる、左、開けるぞ」

 裕奈の首の動きを確認して、僕らはゆっくりと左の扉に近づく。

 すると

「もうやだぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

「健太!」

 僕は、反射的に悲鳴の聞こえた一番右の扉へ駆け出す。

「待って!」

 後ろで、裕奈の静止の声がしたが、そこで止まれるほど、今の僕は冷静ではなかった。

「健太!」

 ドアを蹴破って、その惨状をみて、僕は後悔する。

 部屋は、ひたすらに鮮血の赤で染まっていた。

 歩くのも、ままならないほどの血だまり。

 そして、むせかえるような腐敗臭。

「あ、ああ……」

 そしてなにより、それらすべてを忘れさせるような光景があった。

「け、健太?」

 部屋の中心には、二つの人の体が、椅子に乗せられ拘束されている。

 一つは、すでに息絶えているのか、ピクリとも動かない。

 生爪をはがされ、指も何本かなくなっていた。

 そして、足元にばらまかれている白い固形物が、歯だと気づくのに、そこまで時間はいらなかった。

「う、うぷ……おえぇぇ……」

 さっき吐いたばかりで、もう出るものなどないのに、僕は必死にえずいた。

 もう一つは、少しだけ肩を動かしていた。

 しかし、左と同じく、指は数本なくなっていて、なにより、局部が血だらけになっていた。

「あ、あ……そ、すけ……?」

 小さな、弱々しい声に目を向けると、一人がこちらに目を向けていた。

「け、健太? ……健太!」

 僕は慌てて駆け寄り、後ろに回り込んで拘束具を外す。

「い、今外すから! ま、待ってて……」

「な、なにしとんのや……はよ、逃げんか……死ぬで……?」

「そんなになっても僕の心配かよ……! いいか、僕は絶対に生きて帰ってやるんだ、だから心配すんじゃねえ」

「……それ聞けて、安心したわ……」

「ふん、当然おまえにだって生きてもらうぞ、健太! お前にはまだ返してもらってない金が山積みなんだ、あとマンガも! そういうの、きっちりしないといつまでたってもビッグには慣れないぞ!」

「……」

「おい、何黙ってんだよ図星か? そうやってすぐに黙る癖、治ってないよな! 全く、お前は本当に駄目野郎だな、おい、何とか言えよ!」

 拘束具を外し終えても、健太は動こうとしない。

「……健太?」

 ずっと考えないようにしていた不安が一気に襲う。

 前に回り込むと、健太の胸には一本の刀のようなものが刺さっていた。

「な、なんで……こんなの、さっきは、なかったじゃないか……」

「そりゃあそうさ、私が今、さしたんだからねえ!」

 背後の甲高い声にとっさに後ろを向くと、そこには白装束を血だらけにした、僕が見上げるほど大きな女が立っていた。

 いつもなら、怖くて逃げだしてしまうのだが、今の僕には、もうそんな気力残っていない。

「な、なんでこんなこと……」

「なんで、おお、いい質問だねえ。そんなもの、私にだって理解できないさ!」

 その女はみるみる顔を歪ませて怒り狂ったように話し出す。

「ここで、あの大人たちは私に数々の拷問を私に加えた! 私は何度だって助けを求めて叫んだ! でも、誰一人として助けてはくれなかった! 私の上司だって! だからさ、これは復讐なんだよ! 大人立ちへの、な!」

 まるで、よくわからない説明をする女の言葉はいまいち耳に入ってこなかったが、その女の横に立っている裕奈から、僕は目が離せなかった。

「ど、どうして……笑ってるの?」

「ああ、この子は私の娘みたいなものなんだ! 私の餌を、いつもここまで運んでくれているんだよ!」

 その言葉さえ、あまり理解ができなかった。

 僕の目に入ってきたのは、さっきまでとはまるで違う、白装束に袖を通した姿と。


 ――――悪魔のように、微笑むその顔だった。

もう、だれも信じられない。

もう、だれもいない。

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