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「まぁ、こんなものでしょうね」

「……」


謁見後。

ディアルドさんは大体において意見を通したのか、機嫌よく大使館へ帰ってきた。

俺? ぶっちゃけ何が起こってるのかさっぱりわからなかったよ……。


結論から言うと、話は先送りになった。

リリアちゃんはまだ12歳。

トールはまだ10歳。

国を継ぐにしても、今のままではあまりにも問題がありすぎるため、リリアちゃんをこっちの国に留学という形にして学ばせようということになったのだ。

王位継承権もそのままで、この国も属国扱いにはならないが、今は様子見みたいな流れである。


実質大国へ人質みたいな扱いであるが、トールがいる限りリリアちゃんは安泰であろう。

運命を見つけて落ち着いたので、トールはリリちゃんの学校通いに合わせて一緒に学校へ通うということで手を打ったのであった。

うむ。トールは飛び級しまくってまともに通ってないから、二度目の学園楽しんできてね。


ちなみにトールの身分はカレスティード家に移動することになった。

まぁ実際血筋として継いでるわけだし、リリアちゃんが国を継ぐとなったら王配になるので身分は高いに越したことはないしね。

実際問題その方が手出ししやすいの一言で、トール君はもらわれていきました。


さ、寂しくなんてないんだからね!

離れてても家族は家族だし……!


「罪を追求しきれなかったのはリリア嬢の名誉のために仕方ありませんから、落としどころとしてはこんなものでしょうね」

「罪? そういや王様の罪っていったい何だったの?」


第一王女のせいにするな、みたいな会話の後はほぼ事務的政治的な話だったので俺はさっぱりわからなかったのだ。

やりたいことはわかるし、終始ディアルドさんは青かったので俺ら家族に不利になることはないからとおまかせしたが……。

ぶっちゃけリリアちゃんの父上はそこそこ赤かった。

そう、定期的に赤かったのだ。何故か。


「ああ、そういえば言葉を濁していましたか」

「うん。リリちゃんの姉上がリリちゃんをはめようとしていたってのは理解したんだが、王様は後手に回っただけ……じゃないってことだよね?」

「ええ。むしろ貴族の暗躍に合わせて、都合の良いように物事を動かしてたんですよ、あの王様は」

「は? え? ……ええええぇ?」


ええ、どゆこと?


「為政者としては間違っていませんよ。この国は王政、しかも一妻多夫、一夫多妻を推奨している国ですから」

「ん……んー?」

「つまりですね、後継ぎとしてはリリア嬢のほうがはるかに優秀でしたが、国としてはリリア嬢の姉上の方が都合がよかったのですよ」

「……あー」


つまり、えーと……。

姉妹を試していたってことか?


「ええ、おかしくない? リリちゃんはまったく国を継ぐ気なかったよね?」

「そうですね、でもトールが来たことで話はひっくり返ったんですよ」

「あ、そっち?」

「ええ。獣人擁護派にも覚えめでたく、国の大半のことを何とか出来てしまいそうな地力の持ち主がリリア嬢についてしまったことで、あの王様は考えたわけです。どうにか取り込めないか、と」

「そんなのリリちゃんを後継ぎにすればいいだけじゃん? リリちゃんの姉上相当おバカなんだろ?」


リリアちゃんが継ぐことを前向きになったら、トールは多分どうにかしたと思うんだけど。

そういうことでもないんだろうな、この流れ。


「どうにもならない大問題があるでしょう、あの子たちには」

「?」

「”お互い獣人”なんですよ。彼らは」

「……!」


獣人と人間が結婚した場合、どちらかの種族に偏って産まれてくる。

だが、それが両方獣人なら当然……どちらかの獣人で生まれるわけである。

俺としてはどっちが生まれても可愛いだろうな、と思う程度。

だけどこの国はきっと、そうじゃなかったんだろう。


「そういえばここは、ヒト至上主義がいるんだっけか……」

「まぁ、そういうことですね」

「……馬鹿じゃねぇの? 獣人は、運命以外と子供を作ったりしないし、何があったとしても運命を見捨てたりしないぞ」

「それがわからないから駄目なんですよ、この国の貴族はね」


だからこその罪、なのか。

世知辛いなおい。

下手すると、すべてリリアちゃんのためだとか言いかねないぞこの案件。


「でも、リリちゃんは俺がいなかったら死ぬところだったんだよな? 魔獣はやりすぎだったんじゃないか?」

「そこは私の推測ですが、貴族の息子たちが襲われてたのはただの証拠隠滅だったのではないかと。おそらくリリア嬢に対しては魔獣は何もしなかったでしょう」


ああ、そういや、一応主がいるのか。

リリちゃんが思い込まされていただけで、ちゃんと指示に従っていただけの魔獣だった可能性は確かにある。


「でも、あのバカ貴族どもは本気だった」

「ええ。でも、そこで何があったとしてもリリア嬢が死ぬことはありません」

「……襲わせてどうする気だったんだ。だいたい正当性がどうのはどこ行った」

「女王には適用されないんじゃないですかね、論理的に。そこを突いて一妻多夫に強引にする気だったんじゃないですか? ――それが許されるかは別問題としてね」


わかんねぇな。

自分の娘に対する仕打ちがそれ、っていうこの国が信じられない。

まぁ、そこに忌たん感があるならそもそも10歳のトールが襲われたり隷属されたりしないか。

そう考えるとだいぶアウトなので今更だった。


「君にはわからないでしょうが、分からないままでいいと思いますよ」

「?」

「大体、親愛持ちの家族にそんな仕打ちしたらどうなるか……そこに気付くのが遅いんですよ。土下座で済む問題じゃないんですよ、ほんとにね……忌々しい」

「……」


最後は呟きだったが、なんだか不穏なものを感じたので俺は見なかったことにした。

きっとなんか不都合があってもディアルドさんが何とかしてくれる!


「そ、それにしてもさ。俺は、トールが王配になる可能性は残さなくても良かったと思ったんだけど、リリアの姉上の廃嫡なしにしてリリアだけかっさらうって出来なかったの?」

「無理ですね。どうも第一王女の周りが腐り果てていたようで、これ幸いとばかりに廃嫡を決めたみたいですし」

「……まじで?」

「こちらとしても、この国が完全に落ちるとその横の完全人至上主義の国との付き合いを密接にしなくちゃいけなくなるので面倒ですしね。属国扱いになるにせよ、リリア嬢が継ぐにせよ、まずはこの国の貴族の意識が変わらないとお話になりません。完全にテコ入れです。あの貴族のバカ息子共も、ちゃぁんと交換留学候補に入れてありますからトールに扱くように言っておきます」

「あ、ハイ」


ちなみに公式記録では誘拐事件もなくなり、貴族の息子ズも口をつぐんだので、トールが一方的にリリアの姉上に横恋慕されてリリアを害したため廃嫡した、みたいなものすごい端的な流れになった。

これからは獣人への意識改革をはじめ、リリア嬢が継ぎやすいように国自体を変えていくことが必須でしょうね、とはディアルドさんのありがたいお言葉である。

トールは別にどっちでもいいや、と言っていたので大きくなったらリリアちゃんが決めるのであろう。


なんだかんだ王さまがまだ現役だからまかり通った感じである。

娘が廃嫡されたことで正妃も合わせて幽閉となり(むしろ正妃自身が積極的に関与していた模様)、一気に貴族の縮図がかわったので、少しはまともな国になるであろう、とのこと。

なお、俺に個人的に何か要望はあったらしいけど俺はトンボ帰りしました。


城壁とか自分で直して下さい。

俺、聖魔法以外はツカエナイナー。

ツカエナイナー、ツカエナイナー、キノセイダヨー?

接待? イルカボケー。



ということで俺はさっくりスネーク君で先に帰宅です。

ディアルドさん頑張って自力で帰ってきてね!

ということでただいま!!



「お父様、おかえりなさいなの!」

「ただいまミナ」

「あのねあのね、リリちゃんがすごいの! ふわっふわなのー!!」


先に来たリリアちゃんと仲良くなったらしきミナが、興奮したように色々俺に報告してきてくれる。

そういやトールは猫だから尻尾しゅっとしてるもんね、違った尻尾に触れてうれしかったんだね。


かわいい。

娘まじ可愛い。

でも獣人の耳や尻尾は恋人以外は触らせないからあまりさわっちゃだめなんじゃないかな。

……ああ、家族だからいいの、なるほど。

じゃあ俺も、


「駄目なのですよ?」

「あ、ハイ」


子供だから許されるんですね、わかりました。

俺はティナの尻尾だけで良いんでそんな睨まないでください。

ちょっとふわふわいいなとか思ったわけじゃないです本当です。


その後は家族団らんしつつ、ディアルドさんが交渉した内容を報告。

トールは難しい顔をしていたが、ぶっ潰した方がいいなら潰すよ? といったところ首を振られた。

カレスティードにお世話になることも、ディアルドさんとよく話していたトールにとっては問題ないことだったようだ。


「やるなら自分でやるから」

「そうか」

「身分はまあ、めんどくさくなったら戻すし」

「そうか」


大人になったんだなー、息子よ。

身分って戻せるものだったかなとか思ったけど、どうにかするっていうならどうにかしちゃうに違いない。


「それに、あの国の悪いところばっかり父さんは見たのかもしれないけど、良いところも多いんだよ?」

「そうなのか」

「うん。リリアの産まれたところだからね。緑も多いし、温泉もあるし、観光地としてはちょっとしたものなんだ」

「へー」


そうかー。

息子よ、大人になったなら隣の真っ赤になったリリちゃんの方向は今こそ見るべきじゃないかなー。

なんか10歳だからかやっぱり無邪気だよね、邪気なさ過ぎて大人の心の汚さが身につまされるよね。

そのまま大きくなってくれ、息子よ。

ナチュラルにタラシだけど獣人だから心配してないよ。


「まあ、学校に入るにせよまだ数か月あるしな。まずはのんびり、久々の家族団らんと行こうか」

「うん」

「はーい! お兄ちゃんはいっぱいいてくれるのね? リリちゃんも一緒ね?」

「良かったのです」



ティナと微笑みあいつつ、俺はようやく平和になったなーとソファに沈み込むのであった。


ということで、息子の運命編、完です。

おつきあいありがとうございました!


構想としては、

おしかけ婚約者を捌く編(過去)←隣国ほろぼしかけエピ

娘誘拐編(過去)←山吹っ飛ばし案件

娘の特攻婚約編

あたりがあるので、気が向いたらまた更新するかと思います。


お読みいただきありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ハーレムが嫌だ。わかる。女の子に泥沼な戦いさせておいてのんびり知らないふりしてる主人公が気に喰わない。 なら全員と結婚しちゃえば?と思って実際にやって失敗した作品がかの有名なスクールデイズ…
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