第1話 座敷わらしちゃんたちのママ
まえがき
座敷わらし――。
昔から、家に住み着くと幸せをもたらしてくれると言われている、不思議な子どもたち。
けれど、もしそんな座敷わらしちゃんたちに、子育てをしている「ママ」がいたとしたら?
しかも、その子どもたちが――。
大のイケメン好きだったら?
「ママ! あの人、イケメン!」
「こっちのお兄ちゃんもカッコいい!」
「ここに住む!」
「ちょっと待ちなさいーーー!」
今日もママの叫び声が響きます。
座敷わらしちゃんたちは、イケメンを見つけると、家のことなどそっちのけ。
「この人の家がいい!」
そう言って勝手に住み着いてしまうのです。
そして始まる、ドタバタ大騒動。
物が勝手に動いたり、家主の恋を勝手に応援したり、家族の秘密をうっかり暴露したり……。
そのたびにママは大忙し。
「もう! あなたたちは私の言うことを聞きなさい!」
叱られても、座敷わらしちゃんたちはニコニコ。
「だって、イケメンなんだもん!」
そんな自由奔放な子どもたちですが、実はとても優しく、人の寂しさや悲しみに敏感な子たちでもあります。
彼らが家にやって来ることで、笑顔を取り戻す人。
恋する勇気をもらう人。
家族の大切さに気づく人。
そして――ママ自身も、子どもたちとの暮らしの中で、少しずつ幸せを見つけていきます。
笑って、怒って、泣いて、時には恋をして。
イケメンを追いかけて大騒ぎする座敷わらしちゃんたちと、そんな子どもたちを一生懸命育てるママ。
これは、そんな彼女たちが紡いでいく、ちょっぴり不思議で、とびきり賑やかな家族の物語です。
さあ――。
今日もどこかで、座敷わらしちゃんたちがイケメンを見つけたようです。
「ママーーー! イケメン発見!」
「またなのーーー!?」
『童子ちゃんはイケメン好き』――はじまり、はじまり。
第1話 座敷わらしちゃんたちのママ
朝。
静かな古い一軒家に、今日も元気な声が響いていた。
「ママーーー!」
「ママ、起きてーーー!」
「お腹すいたーーー!」
布団の中で眠っていた女性は、ゆっくりと目を開けた。
「……朝から元気ねぇ」
まだ眠そうな顔で起き上がる。
すると、布団の周りには小さな子どもたちが何人も座っていた。
髪型も服装もそれぞれ違う。
けれど、全員に共通しているものがある。
それは――。
人間ではないということ。
彼女たちは、座敷わらし。
そして、この女性は、そんな座敷わらしちゃんたちを育てている「ママ」だった。
「ほら、みんな。朝ごはんにするわよ」
「はーい!」
「ご飯!」
「今日は何?」
「昨日のお味噌汁もあるわよ」
「やったー!」
座敷わらしちゃんたちは大喜び。
小さな足音をパタパタさせながら、台所へ走っていく。
ママはそんな子どもたちを見ながら、思わず笑った。
「本当に、毎日騒がしいんだから」
けれど、その顔は嬉しそうだった。
この子たちが来る前、ママの家はとても静かだった。
笑い声もなければ、誰かが「お腹すいた」と騒ぐこともない。
それが今では、朝から大騒ぎ。
「ママ、おかわり!」
「まだ食べるの?」
「育ち盛りだから!」
「座敷わらしに育ち盛りってあるの?」
「ある!」
「……そうですか」
ママは苦笑した。
すると、そのときだった。
一人の座敷わらしちゃんが窓の外を見た。
「あっ!」
「どうしたの?」
「ママ!」
「なに?」
「あそこ!」
座敷わらしちゃんが指を差す。
ママも窓の外を見る。
すると、近所を歩いている若い男性の姿が見えた。
背が高い。
整った顔立ち。
爽やかな笑顔。
座敷わらしちゃんたちは、男性を見た瞬間――。
目を輝かせた。
「……イケメン」
「イケメンだ!」
「カッコいい!」
「ママ!」
「何?」
「私、あのお兄ちゃんのお家に住む!」
「…………」
ママの笑顔が固まった。
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「今、なんて言ったの?」
「あのお兄ちゃんのお家に住む!」
「どうして?」
座敷わらしちゃんは胸を張った。
「イケメンだから!」
「…………」
ママは頭を抱えた。
「あなたたち……」
そして、ため息をつく。
「座敷わらしって、普通は家に幸せをもたらすために住み着くんじゃないの?」
「うん!」
「じゃあ、どうしてイケメンの家なの?」
「幸せだから!」
「意味が違うわよ!」
座敷わらしちゃんたちは大笑い。
「ママも一緒に行こう!」
「行きません!」
「ママもイケメン好きでしょ?」
「私はそんな理由で家を選びません!」
「ほんと?」
「本当!」
「顔、赤いよ?」
「赤くない!」
「赤いよー!」
「もう!」
朝から始まった大騒ぎ。
ママは子どもたちを追いかける。
「待ちなさい! 勝手に家を出ちゃダメ!」
「イケメン待ってー!」
「待ちなさーーーい!」
小さな座敷わらしちゃんたちは、楽しそうに笑いながら廊下を駆けていく。
ママも慌てて追いかける。
その家には、今日も笑い声が響いていた。
そして――。
この日を境に、ママと座敷わらしちゃんたちの、とんでもなく賑やかな毎日が始まることになる。
もちろんママは、まだ知らない。
この先、子どもたちが本当にイケメンの家へ住み着こうとして、大騒動を巻き起こすことを。
「ママーーー!」
「今度は何ーーー!?」
「イケメンのお兄ちゃん、行っちゃった!」
「だから追いかけなくていいの!」
今日も、ママの叫び声が家中に響いていた。
あとがき
『童子ちゃんはイケメン好き』を最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
イケメンを見つけては、
「ママ! あの人のお家に住みたい!」
と大騒ぎする座敷わらしちゃんたち。
そのたびに振り回され、
「もう、あなたたちは!」
と怒りながらも、結局は子どもたちを誰よりも大切にするママ。
そんな賑やかな毎日を描いたこの物語ですが、物語を書き進める中で、だんだんと一つの大切なテーマが見えてきました。
それは――家族とは、血のつながりだけではないということです。
一緒に笑ったり、泣いたり。
悪いことをしたら叱ったり。
悲しいときにはそばにいてあげたり。
そして、どんなことがあっても「あなたは大切な存在だよ」と伝えてあげる。
そんな積み重ねが、家族の絆になっていくのだと思います。
座敷わらしちゃんたちは、最初は「イケメンだから」という理由で家を選んでいました。
けれど、たくさんの人たちと出会い、さまざまな出来事を経験するうちに、人を好きになる理由は見た目だけではないことを知っていきました。
優しさ。
温かさ。
一緒にいて安心できること。
そして、自分を大切にしてくれること。
それはママにとっても同じでした。
子どもたちを育てることで、ママ自身も成長し、たくさんの愛を受け取っていったのです。
もちろん、これからも座敷わらしちゃんたちはイケメンを見ると大騒ぎするでしょう。
「ママ! あの人、イケメン!」
「また始まった……」
そんな声が、これからも賑やかな家に響いているかもしれません。
でも、どんなに騒がしくても、そこには笑顔があります。
そして、家族が一緒にいる幸せがあります。
もしこの物語を読んでくださった皆さんの心にも、少しでも笑顔や温かい気持ちが残っていたなら、とても嬉しく思います。
最後に――。
ママと座敷わらしちゃんたちへ。
これからもいっぱい笑って、いっぱい騒いで、いっぱい幸せになってください。
そして、たとえどんなことがあっても、
「家族だから、ずっと一緒」
その気持ちだけは忘れないでね。
『童子ちゃんはイケメン好き』――。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




