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海繋がる  作者: 加藤無理
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 後宮では皇后も側室達も私を避けていた。嫌がらせもイジメも無かったし、必要事項は宦官が教えたり尋ねたりしていた。仲間達が茶垣国に戻り、更に元の世界に戻って行く。私一人になる。今まで翻訳したり不備や矛盾を指摘したりと皇帝の事務作業を手伝っていたが、それが終わった今、宦官達から作法を教わる毎日を送っている。私は窮屈に感じたし、宦官達も私に期待していない様子だ。


 てっきり皇帝はあてつけの為だけに私を側室にしたのかと思っていたが、意外と皇帝は私を評価していた。私に暴力を振るうことも怒鳴ることもしなかったし、私の知識を何度も誉めている。私が母国や自分の世界を語ると興味津々に傾聴するし、せがんだりもした。


 最高権威なだけあって皇帝は傲慢ではあったが、温和で気さくで場の雰囲気を和ませたりもした。威厳を保ちつつ役人にも武官にも宦官にも尊重した。依怙贔屓せずに皇后や側室達の相手をする。


 少し窮屈な生活だが、私が我慢すれば盤古大陸も海風列島もまほろば帝国も平穏に交易が続けられるようだ。考えてみると私は場違いな立場に置かれている。私は貴族でもなければ為政者でもない。軍人だった。


 皇帝は私の身分と生活を十分に保証している。病気になれば医師が診察するし部屋や寝室は清潔に保たれているし食事は量も豊富で質も良い。皆、私を最低限尊重するので礼儀作法の練習と後宮での孤立は慣れた。寂しさが込み上げ自由が恋しくなるが耐えられないことはない。


 私はこのままこの紅帝国で人生を終えるのだろう。


 部屋の中まで宦官の掛声が響いた。皇帝が来た。部屋で日記を書いていた私は驚いたが、筆を置いて立ち上がり、拱手して頭を下げる。また、皇帝が私の昔話を聴きたがっているのだろう。皇帝は寝床に腰を下ろす。私は椅子に座り直す。


 宦官達は腑に落ちない様子で部屋を出た。いつもは出入口で待機しているのに今晩は私と皇帝の二人きりだ。皇帝は微笑みながら、

「俺の名を覚えているか?」

 「朕」ではなく「俺」。また、皇帝の名前は誰でも避けなければならない。私は違和感を覚えた。皇帝は眉間に皺を寄せて、

「覚えていないのか、オト」

 皇帝が私の名を呼ぶ。私は、

「お呼びしてはいけないのでしょう」

 皇帝は微笑み、

「二人だけの時は呼んでくれ」

「俊学」

 私が呼ぶと俊学は両腕を広げ、

「来い」

 私はそろそろ四十歳になる。躊躇った。しかし俊学は微笑んだまま待っている。


 私が近寄ると俊学は抱く。こんな経験は生まれて初めてだ。俊学は、

「良いか?」

 何故か私は拒めなかった。それどころか、

「どうぞ」

 と、答えた。

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