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妖精姫は赤獅子将軍に嫁ぎたい  作者: 一理。


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15/19

王女と王弟の醜態


 パアン!!


「恥を知りなさい!」


 アーシャはラヴィニアの頬を張った後ラヴィニアとレオナルドの間に立ちふさがった。


「な!不敬よ!不敬だわ!衛兵、この小娘を捕えなさい!」


 ラヴィニアは頬を押さえて喚くが動き出す者はいない。


「黙りなさい!不敬とは尊敬する者に失礼な態度をとる事です。あなたのどこに尊敬できる部分がありますか!?」


 アーシャの勢いは止まらない。


「レオ様は先の戦争を勝利に導いた英雄です。野獣なんかではありません。今だってちょっと頬を切られたぐらいで蹲っている役に立たない近衛に代わりラヴィニア殿下の命を救ったのはレオ様じゃないですか!命の恩人に対してなんという言い草ですか!!」


 鼻息荒く尚も言い募ろうとするアーシャをレオナルドの手が優しく止めた。


「ラヴィニアよ……さすがに今の発言は王として見過ごすことはできぬ」


 疲れ切ったような国王の言葉が聞こえた。


「お父様!なぜ?なぜです!可愛い娘よりこんな野獣や小娘の肩を持つというのですか!?」


「ラヴィニア、ここに集まった人たちの顔を見てごらん」


 ウィスラン王子の声にラヴィニアは周囲の貴族たちの顔を見まわす。

 皆の顔にははっきりと侮蔑の表情が浮かんでいて初めてラヴィニアはたじろいだ。


 国王の静かな声が響く。


「ラヴィニア、お前は自ら王族であることを放棄したのだ。その近衛として何の役にも立たない男に嫁ぐがいい」


「えっ!?なっ!い、嫌です!ギルバートはただの騎士爵しか持っていないではないですか!あっ!お父様、ギルバートを侯爵にしてくださるの?そうね!可愛い娘の嫁ぎ先ですものね」


 どこまでも自分勝手なラヴィニアに皆開いた口が塞がらない。

 国王はため息をついた。可愛い娘がこんなに愚かだとは思わなかった。甘やかしすぎたことを今更ながらに後悔した。


「爵位はやらん。もっともその男の醜態を見れば騎士爵も取り上げられることになろう。一兵士とその妻として一から頑張ることだ」


「そんなっ!嫌!嫌です!お父様!お願いです!い―――や―――!」


 泣きわめくラヴィニアはその場から連れ出された。

 怪我をしたギルバートやスティーブも応急処置をされ連れ出される。

 

 国王は襲撃事件やその後の騒ぎを含め騒動に対する謝罪をし後日詳細を発表することを約束してこの場はお開きとなった。


 捕えた襲撃者や王弟は連れ去られたものの会場となったホールには襲撃者たちの遺体や血の跡がまだそのままであり気分が悪くなるご婦人や令嬢も多数いた。

 とはいえ、襲撃者以外に死者は無く近衛で怪我をしたものが数名と逃げようとして転んだり割れたグラスの破片などで怪我をしたものが数名で済んだのは僥倖であった。






 



 その夜直ちに王弟アルヌルフへの尋問が行われた。

 襲撃者たちは自死などしないように猿轡をかまされ手足を拘束されて牢に入れられた。



 国王はひどい顔色をしている。一夜にして十も二十も老け込んでしまったようだった。

 それに引き換えアルヌルフは拘束されながらも瞳に狂気を湛え口元には笑みが浮かんでいた。


「アルヌルフよ、なぜこんなことをした」国王が力無く問いかける。


「決まっている。無能なお前を国王にはしておけんからだ」


「私が無能だというのなら正式な手続きのもと申し立てればいい」


「うるさい!周りの者も皆無能ばかりではないか!私の高尚な考えを理解できず足を引っ張る無能どもはみんな死んでしまえばいい」


「それであの襲撃者たちを手引きしたのか。あいつらは何者だ?」


 国王のその問いにアルヌルフは嗤って答えた。


「ははっ馬鹿どもめ。お前らがここで悠長に夜会なんぞ開いている間に国境がどうなっているとも知れず。あの地では再び戦争が起こっているだろう」


「隣国トッカーニ王国の軍隊なら来ないぞ」


 今まで黙って立っていたグレンワース公爵が口を開いた。


「なっ!?どういうことだ?」


 初めてアルヌルフの顔に焦りが浮かんだ。襲撃が失敗した時点でアルヌルフの負けはほぼ確定している。だが無能な兄が王座に居続けることは耐えられなかった。王宮の事件に気を取られている隙に国境を越えたトッカーニ王国の軍隊は王都に迫るだろう。できれば王族を二人でも三人でも殺しておけば混乱が長引きトッカーニ王国の軍隊が進撃しやすくなったのだが……アルヌルフは隣国の軍隊に一縷の望みをかけていた。

 突如進撃してくるトッカーニ王国の軍隊に慌てふためく国王を見ることがアルヌルフの最後の望みだった。


「テレンスが今どこにいるか知っているか?トッカーニ王国だ。それに念のために国境では長らくシュヴァリエ将軍の副官を務めたブレイクリーが軍を待機させている」


 グレンワース公爵の言葉にアルヌルフは思わず立ち上がり近づこうとするが騎士たちによって引き戻され跪かされる。

 アルヌルフの瞳に力はなくがっくりと項垂れた。


「ははは……私の企みは全て知られていたのか……」


「全てではないがな」

 

 グレンワース公爵はそう言った。

 

 グレンワース公爵が王弟アルヌルフが何かを企んでいることに気づいたのは一か月ほど前のことである。

 もともとアルヌルフには監視をつけてあったがアルヌルフの宮に怪しい人物が訪れているとの報告が上がったのである。

 グレンワース公爵はレオナルドに相談を持ち掛けテレンスとウィスランを巻き込んだ。

 そして毎朝シュヴァリエ侯爵邸で上がってくる報告に対する検討と対策が話し合われた。

 調査の結果怪しい人物とはトッカーニ王国の人間らしいこと。彼らを使ってアルヌルフが騒動を起こそうとしていることがわかった。

 アルヌルフに接触した者の内数名が再び隣国に戻り接触した人物もわかった。トッカーニ王国の第二王子である。この第二王子は側室の子であり正室の子である第一王子と王太子を争っている。


 隣国の第二王子が演習と称して軍隊を集結させているとの情報を得てテレンスが国王からの全権委任の書類をもって隣国に向かった。騎士団一個師団を率いて。


 この時に国王にアルヌルフのことを打ち明けたのである。

 国王は何とか穏便に済ませてくれと息子に頼み、アルヌルフに関してもなんとか思いとどまってくれることを願った。アルヌルフが何を企んでいるのかはわからなかったが。


 グレンワース公爵は実は本日の夜会より来月の建国祭を警戒していた。建国祭には諸外国から賓客も訪れる。この時に騒ぎを起こすのではないかと予測していたのである。


 それともう一つの誤算は本日の夜会にアルヌルフが招待した者には怪しい者がいなかったのである。

 これは後日判明することだが、襲撃者は全てラヴィニアが招待した者とラヴィニアの従者、小間使いなどであった。


 ゆえに本日の夜会で騒動が起きる可能性は低いと思いながらもアルヌルフの挙動にはレオナルド、グレンワース公爵共に警戒をしていた。そして場内警備の衛兵や近衛にも注意喚起をしていたのである。


「アルヌルフ、お前に近づいた男たちの正体は何だ?」


「ははは……私は知らない。トッカーニ王国に恨みがあると言っていた」


「ラヴィニアの従者をしていた男の名前は?」


「ははは……エルベルトと言っていた。それ以外は知らん」


「ははははは……」


 部屋にはアルヌルフの笑い声だけが空しく響いていた。




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