王女は妖精姫が気に入らない
パーマー侯爵家の園遊会の後、数度のお茶会や夜会に出席した。
レオナルドとアーシャの仲睦まじさは人々の間に広まり、レオナルドが無駄に恐れられることも少なくなった。アーシャと共にいるときは近寄ってくる令嬢もちらほら出始め皆で談笑する機会も増えた。
アーシャも以前は夜会などに出ても男性に取り囲まれるばかりでその外側で令嬢たちは睨んでいるだけだったが、レオナルドと共に出席するようになってから令嬢たちと話す機会が出来て数人友達もできたのだった。
「え?ギルバートもう一度言ってちょうだい」
ラヴィニアの問いにギルバートは答えた。
「アーシュア・グレンワース嬢は婚約者のレオナルド・シュヴァリエ侯爵と最近社交の場に出ているようですよ。二人の仲睦まじさが評判になっています」
「はあ?あの野獣と?ありえないわ」
ラヴィニアは一言のもとに切り捨てた。
「僕もそう思いますね。グレンワース嬢は何か弱みでも握られているのではないでしょうか」
ギルバートはこんなに美しい自分があの野獣に負けたなどと絶対に認めたくなかった。
「あらギルバート、あんな小娘に興味あるの?」
「やだなあラヴィニア様。僕の心は貴女でいっぱいですよ。貴方こそ僕だけでなくスティーブやほかの奴にも寵愛を与えているのでしょう」
ギルバートはラヴィニアの腰を引き寄せながら言う。
「ふふっギルバートは嫉妬深いのね。大丈夫よ、私の一番のお気に入りはあなたなのだから」
「本当に?僕は嫉妬で狂ってしまうな」
そう言いながらラヴィニアに口づけるがラヴィニアにばれないようにつまみ食いにも忙しいギルバートなのであった。
なにしろギルバートの美しい顔で釣れない令嬢などいないのだ。だからあの野獣に負けたなどと絶対に認めたくなかった。
「あの二人を今度の夜会に出席させるようにお父様に頼んでみようかしら」
ラヴィニアも二人のことが気になった。ラヴィニアはレオナルドとの縁談を回避してアーシャに押し付けたのだ。上手くいったのだから二人のことなど放っておけばよいのだが、アーシャが気に入らないラヴィニアは二人が仲睦まじいなどと認めたくないのだ。〝妖精姫〟などと呼ばれてちやほやされているアーシャが醜い傷のある野獣と結婚しなくてはならなくなって泣きわめく様が見たいのだった。
次の日、ラヴィニアは国王のもとに出かけていった。
国王の私室があるエリアに入っていくとちょうど部屋から出てきた人物に気が付いた。
「あら、叔父様お怪我はもうよろしいんですか?」
これは嫌味だ。王弟アルヌルフの失策で先の戦争はあんなに長引いたのだ。五年も前に負った傷はとっくに治っていたが人々に失策を咎められるのが嫌で戦争が勝利で終わるまで自分の宮に閉じこもっていたのだ。
(ふん。相変わらず贅沢と上っ面にしか興味のないバカ娘が……)
アルヌルフは蔑んだ目でラヴィニアを見たがふとあることを思いついた。
「ラヴィニアか。相変わらず美しいな」
「ふふっ叔父様ったら。私が美しいのは当然のことよ」
「そうだ。最近雇ったものがなかなか美形でな。そなたに仕えるに相応しいと思うのだが」
「まあ叔父様!その話とっても興味がありますわ。でも本当に私の近くに置くのに相応しいくらい美しいのかしら」
「それはラヴィニアが判断してくれ。後でそちらの宮にその者を遣わそう」
「うふふ。楽しみにしておりますわ」
にこやかにラヴィニアと挨拶を交わした後歩き出した王弟アルヌルフの目には鬱屈した思いと狂気の光が宿っていた。
国王エイブラハムは凡庸で優柔不断な男である。それに引き換えアルヌルフは幼いころから利発だと言われて育った。だから賢王と言われた父は自分を後継に選ぶだろうとアルヌルフは確信していた。
しかし国王になったのは凡庸な兄だ。アルヌルフは納得がいかなかった。だから画期的な政策で皆をあっと言わせ民衆の心を掴んでやろうと思ったのにアルヌルフの打ち出す政策は悉く叔父であるグレンワース公爵に潰された。
皆に私がいかに優秀か見せつけてやる……十二年前に起こった隣国との戦争でアルヌルフは総大将になる事を志願した。この戦争で鮮やかな手腕を見せつけ国民の英雄になれば民衆が王位の交代を望むことだろう。
グレンワース公爵はアルヌルフが総大将になる事を反対したが王族が総大将になる事は当たり前のことで民へのアピールにもなる。副官に当時のシュヴァリエ将軍をつけることで渋々アルヌルフが総大将になる事を了承したのだった。
アルヌルフの度重なる失策と無謀なごり押しで戦場では多くの兵を失った。とっくに負けて王都まで攻め込まれてもおかしくなかったが前シュヴァリエ将軍のおかげで軍の全面崩壊は免れており何とか踏みとどまっていた。それが戦争を長引かせた要因でもあるのだが……
そしてレオナルドの活躍で少しずつ戦局は勝利に傾いていったのである。
しかしアルヌルフの考えは違っていた。
彼は自身の作戦に絶対の自信を持っており、悉く失敗したのは彼の高尚な考えを理解できない無能な部下たちのせいだと思っていた。
無能な部下たちのせいで彼は怪我を負い周りに軽んじられ無能な兄は国王のままだ。
この国はもうお終いだ。無能な者たちは皆滅びてしまえばいい。
「ふふ……ふふふ……」
瞳に暗い光を宿したままアルヌルフは一人静かに笑っていた。
ちょっと陰謀の臭いがしてきました。
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