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反抗作戦

 ヘリに救われた俺達は、解放軍アライドの基地に来ていた。

 そこはどうやら陸戦部隊のキャンプになっているようで、飛行場横の敷地内は兵士達でごった返している。


「こんなに生き残りがいるのか……」

 広い駐車場から市街地の道路まで。見渡す限りの戦車、装甲車両で埋め尽くされていて壮観の一言だ。

 濃緑の迷彩に身を包んだ陸自の最新鋭戦車一〇式から、旧大戦時の米軍シャーマン戦車、ドイツのティーガーまで、ありとあらゆる時代の戦車が肩を並べている。まるで戦争博物館だ。

 戦車に腰かけて弁当を食べたり、生き残った仲間と談笑しているタンク乗り達の姿もあり、束の間の休息を楽しんでいるようだ。

 いくつも張られた野営テントからは、昼飯時もあってか湯気がどこかしこから立ち上っていた。俺はここまで連れてきてくれたアライド兵士に尋ねる。


「彼らはどうなるんだ?」

「第四歩兵大隊および第六機甲師団は、順次東京方面に撤退する。そこから再編成が済み次第、反抗作戦に加わるだろう」

 兵士は辺りを見渡しながらそう答える。


 ――反抗作戦。

 聞くに雄々しい四文字。追い詰められた俺達が、今度は奴らに意趣返しをしてやるのだ。


「やってやる……今度こそ」

 思わず拳をぐっと握り締める。眼の前に並ぶ陸の仲間達、彼らと共に一挙に戦線を押し返してやるのだ。


「アンタのその格好、空軍だよな?」

 一人で息まいていたら、周りに人だかりができ始めているのに気づいた。

 頭にバンダナを巻いた小銃手、バックルに二丁拳銃を差した軽装の男など装備は様々。

 しかし、彼らの頭上には友好関係を示す青のカーソルが浮かび上がっている。


「空軍のお陰で助かったぜ」

「お、おう」

 数人が寄ってきて俺の手を取る。突然の出来事過ぎて、俺ははっきりしない相槌を打つのがやっとだった。


「対地ヘリだけじゃどうしても戦力が足りなかったんだ。空のエースには感謝様々だよ」

『なあ?』と言いながら他の兵士達と頷き合う。

 地獄の西日本戦線を生き延びた陸戦師団は皆精強と聞いていたが、彼らにはいかにも歴戦の古参兵という風格が備わっていた。


「ところで、皆装備がバラバラなんだな」

 俺は数人の男を見回していった。持っている武器も服装も各々で全く違うのだ。

 一人はあからさまにWW2のドイツ軍のようなフリッツヘルメットをかぶっているし、その後ろの若い男は西部劇のガンマンのような出で立ちだ。

 他にも陸自の最新鋭装備に身を固めた者、驚いた事に女性兵士までいる。

 彼女はゾンビ映画に出てきそうな特殊装備の服装で、太ももや腰に様々なポーチを巻き付け、タイトな防弾チョッキを重ね着していた。筋肉質だが引き締まった体つきが露骨に出ていて、アスリートみたいな雰囲気だ。


「私達は別々のオンラインゲームから飛ばされてきたの」

 特殊装備の女が手を差し伸べる。俺は恐る恐る握り返して挨拶を交わす。


「まさかとは思うけど、西日本にはゾンビ型のアンネームドとかいないよな?」

「ああ、これは別にゾンビゲーの装備じゃないから安心して」

「良かった……」

 思わず胸を撫でおろすと女が手で口元を隠しながら笑った。周囲にもその和やかな雰囲気が伝播していく。


「西から撤退した混乱で部隊編成も指揮系統もバラバラなのさ」

 溜息混じりに答えたのはドイツ装備の大男だった。

 彼の言う話では別戦線で動きがあり、アンネームドの攻勢が弱まったようだ。その間に犠牲覚悟でやぶれかぶれの撤退作戦が発令されたらしいのだが……


「全く、アンタ達が駆け付けてくれたのは本当にギリギリだったよ。もう少しで包囲殲滅されるところだった」

 苦笑するのは若いガンマン風の男だった。カッコつけて肩をすくめる仕草が柄に合っている。


「そうか。まあ、俺も助けてもらったわけだし、お互い様だよ」

 実際、アルプスであの歩兵部隊と合流していなければ、一人で山中を彷徨っていたのだ。アンネームドの群れに見つかって即、殺されていたかもしれない。


「まあ、また墜落したら拾ってやんよ」

 その話をすると若い兵士が冗談交じりに言って見せる。しかし、冗談でも俺は笑えない。


「じゃあね。頼りにしてるわよ、エースパイロットさん」

 別れ際、特殊部隊風の女性が俺の肩を叩く。


「ま、まあ……任せてくれ」

 ぎこちなくそう答えると、女は二本指でピースを決めながら去っていった。

 遠ざかる彼らの背中を、俺は熱に浮いたような顔で見送る。


「随分とデレデレしているのね」

 突如、浴びせられた声に、俺はハッとして振り返る。

 そこにはパイロットスーツ姿の武波瑠希乃の姿があった。地上に降りたばかりなのか、いつも戦闘機に乗っている時と同じように長い黒髪はポニーテールで一本に束ねている。


「べ、別にデレてないし……」

「ふーん。じゃあ命令違反した気分はどう?」

 からかうような口調で瑠希乃が小首を傾げる。あの作戦中に勝手な行動に走ったのはどう考えても俺なので、怒られると思いきや予想外に優しすぎて逆に怖い。


「どうもこうも……最悪だったよ」

「まあ、あれだけ山の中を歩いていたらね。今の大澄君、酷い顔よ。いつも以上に」

「いつも酷い顔って事? ていうか、怒ってないのか……?」

 意味が分からないと言いたげな瑠希乃。俺は続ける。


「だって俺、勝手な行動して墜落して、余計に手間かけさせたんだぜ?」

「大丈夫よ。あの時はハブーヴ相手に私達の隊が全滅するかもしれなかったし」

 そう言って、瑠希乃は苦笑混じりの表情を浮かべた。


「助けてくれてありがとう、大澄君」

「え、あ……おう」

 何と言い返せばいいか分からない。思ってもいなかった感謝の言葉に、俺は頬が熱くなるのをこらえながら息を漏らす。


「ところで……! 何だよ、あの機体」

 そして、何とも気まずい空気を凌ぐため、脳裏に浮かんだ疑問をそのまま口にした。


「俺を助けてくれた時に乗ってたやつ! いつものファントムもどき……ブルーバックじゃなかっただろ」

「ああ、あれは……」

「現実で実用化されてる機体じゃないよね? ダブルデルタ翼だったし、双発エンジンは日本製のATD-Xぽかったけど」

「流石、戦闘機オタク……」

 しまった、脳内に浮かんだ疑問を必死にまくし立てていたら知らず自分の知識をひけらかしていた。

 会話のコツは相手の話に耳を傾ける事なのに。コミュ力ゼロ人間の悪い癖だ。

 黙りこくって様子を窺うと、案の定、瑠希乃の顔が引きつっていた。

 女子が残念な男子相手に、素でドン引きしている時の真顔だ。どうしよう。


「悪い……でも、あんな機体、ゲーム中でも見た事無いよ。一体どこで」

 ふと、言いかけた所で、俺は瑠希乃の後ろに立つ人物に気づいた。

 どうやら、俺が力説しているのも聞かれていたようだ。恥ずかしい……


「誰だ……?」

 その男は高級そうな軍服に身を固め、後ろ手を回しながら屹立して俺を見ている。

 北条敏矢よりも年配の、ナイスミドルと言った風貌で、刈り揃えられた短髪はオールバック、

 皺の無い黒い軍服はよく似合っていて、胸元にはいくつもの勲章がぶら下がっている。

 一目で解放軍アライドの高官である事が分かった。


「あの戦闘機は、この人がくれたの」

「せっかく再会の喜びを分かち合っていた所なのに、聞き耳を立てていたようで申し訳ないね」

 俺と瑠希乃に目をくれながら、その男は心が落ち着くような低い声音で語り掛ける。どことなく気配りが出来る、そんな印象。


「はじめましてだな。奇跡の生還おめでとう、大澄春人くん」

「何で俺の名を……」

 明らかに目上の人間が俺の名を君付けで呼ぶ。その異常さに、自然と後ずさってしまう。


「私は長束紘一郎なつかこういちろう。一応、次の作戦の指揮を執る為に北海道から来たものだ」

 しかし、無礼な作法にも彼は嫌な顔一つしない。挙句、友好的に手のひらを差し出してくる。


「……」 

 俺はその右手を取るか迷い、瑠希乃に視線を向けて助けを求めた。


「とても重要な作戦をやるみたい。是非、君にも参加してほしいって」

 瑠希乃の眼はすごく真剣で、俺は何も言い返す事が出来なかった。





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