バートリ 1
1年3ヶ月ぶり……
私とヴィンセントが?
一緒に!?
別に変なことじゃない。私とヴィンセントは友達だし、なんなら親戚だってこともわかったし、一緒に単に夜会に行ってエスコートされたってそれは全然おかしなことじゃない。
だけど、ソワッとしてしまうのは仕方ない……かなあ。
男友達からだって、夜会に誘われるのは楽しいことじゃない?私は楽しい。
翌日も、ソワソワと考えてみたりする。
竜族の大半を見送ったので私は少しの間暇なのだ。
何を着ていこう。
最近流行りの袖がふわふわしたドレスを着て行くのはどうかなと思ったけれど、あれだと絶妙に似合わない。翠のドレスとかかな?と考える。パートナーの目の色に合わせるのは、よくあることだ。
だけどヴィンセントがもしも私の色味に合わせてきたらチグハグだろうなとおもう。
「何を着て行くのか、聞けばよかったな……」
屋敷の温室で膝を抱えていると、ここにいらっしゃったんですかとスタニスが現れた。
「もう夕食の時間ですよ」
「ええ!?そんなに!?」
私がびっくりして立ち上がるとスタニスは呆れている。
「何をそんなの悩んでいるんです、お嬢様」
「ええと、実は、シモン・バートリの屋敷に行くんだけど……」
私の説明にスタニスはちょっと眉を顰めた。スタニスはあまり人の好き嫌いを表には出さないが、彼のことは嫌いみたいだ。まあ、これは私の親しい人みんな、かな。
私はヴィンセントと一緒に夜会に行くこととを話した。
「ドレスに悩んでいる場合じゃないんだけど。あんまり下手な服を着て、馬鹿にされるのもなあ」
くすくすとスタニスが笑う。
「それなら心配はなさそうですよ。先ほどユンカーの屋敷からお嬢様宛にお手紙が届きました」
「ヴィンセントから?」
抜け目ない私の男友達は、待ち合わせの場所と時間と、それから軍服で行きますとサラリと書いてあった。私が悩むことくらいお見通しだったのかな、と苦笑してしまう。なんだか手紙を書いた顔が目に浮かぶようで笑ってしまった。
「シモン・バートリのお屋敷に行くのは何故ですか」
スタニスが心配そうに聞くので、私は正直に話してみた。イェンとシルヴィアの急接近が……その先にバートリがいるのがどうしても気になる。
「私はイェン様が好きだけど」
というとイェンの弟子は眉間に皺を寄せた。
「なんでかな、シルヴィア様と合う予感がしないんだよね」
二人とも美男美女で話すと楽しい人たちで、私は大好きだ。けれどシルヴィアは気難しいところがあって、人を利用するような人間を嫌う……、と思う。義憤というと語弊があるけれど、優しい人が好きなのだ。別れてしまったドミニクみたいな。
イェンは楽しい人だけれど、相手を振り回して楽しむところがありそう。私は多分……、彼が一番大事にしているスタニスの家族だからか、無意識に優しくしてくれているけれど。
合わないような気がするんだよな。あの二人。
「なのに仲良くしてるのはなんでかな、って」
スタニスのおかげでイェンが私に優しい、のは言わずにスタニスにいうと、たしかにと侍従は呟いた。それに、と声を顰める。
「シルヴィア様は、少し働きすぎな気がします。お母上が途中までなさっていた孤児院の訪問や領地の管理、そう言った諸々を一手に引き受けていらっしゃるとか……。お痩せになられましたし」
「……だね」
従姉の行動が気になる。
直接聞いてみようか。私はため息をついて、決心した。
夜会の当日。
ヴィンセントの瞳の翠に合わせたドレスと髪飾りをつけて登場すると、ヴィンセントは目を丸くした。
「ど、どうしたのそれ」
「どうしたの……って。あなたに合わせたんだけど」
びっくりされて私が驚いてしまう。
「それじゃ。まるで僕が君の……」
何か言いかけて、ヴィンセントは口をつぐむ。恋人、と言いかけたらしいいのに気づいて、私はバンと背中を叩いた。
「痛!」
「違うから!そういう意味はないから!!そこまでの意味はないから!!……迷惑だった?」
おそるおそる聞くとヴィンセントはブンブンと首を振った。
「いや、合わせてくれると思わなかったから……光栄です。レディ。すごく綺麗だ」
褒め言葉がまっすぐで私はどんな顔をしていいのか分からずに上下左右を無駄に見渡してしまった。
改まって手を出されると照れる……。ヴィンセントは微笑む。
「心から楽しめる夜会じゃなくて申し訳ないけど、エスコートしても?」
「もちろんです。ヴィンセント卿」
私がすまして手を出すと、ヴィンセントもいつもの調子に戻って私の手に口付け、さあ行こう、と馬車に乗り込んだ。




