84.やっと会議
「はははっ! 素晴らしい! 勝者、アルス!」
領主さんが楽しそうに俺の勝ちを宣言すると、ダルクストの敗北が信じられない観客もやっと事態を飲み込み、騒ぎ始めた。
特に騒いでるのはマクルシオンだ。
「どういうことだ、ダルクスト!?」
騒ぐだけじゃなく、肩を怒らせてこっちに歩いてくる。怒ってるんだぞ! とアピールするポーズをしっかりとっている。
『あんたも大変だな』
「ふっ……」
やはり祝福者は飛ばした声が聞こえるらしく、ダルクストが俺の呆れた声に苦笑を返してきた。
「アルス!」
フィーナがこっちに走ってくるのが見える。
『じゃあ、俺は可愛いご主人様のところに戻るさ。あんた強かったぜ。死ぬかと思った』
ダルクストが随分と辛そうなので、手首だけ治してやった。
「世界は広いな。アルス、君と戦えたことを光栄に思う」
そいつはどうも!
駆け寄って思いっきりフィーナと抱き合う。
「アルス、お腹に怪我してなかった? 大丈夫?」
フィーナが俺の腹をゆっくりと撫でて心配してくれる。
大丈夫大丈夫! ひっくり返ってフィーナに腹を見せて無事をアピールする。治したてホヤホヤだぜ?
「なんともないのね、良かった……アルスが戦うのを初めて見たけど、みんなが言う通りすごく強いのね。アルスが頼りにされるのがわかったわ」
いやぁ、照れるなぁ! ははは!
『フィーナちゃんに褒められたからって、調子に乗っちゃって……』
『こんなに嬉しそうにしてるの初めて見たわ。今後やる気を出し過ぎないといいけど』
ああ、フィーナの指が心地よい……ん?
「良い物を見せてもらったぞ。アルス」
領主さんがニコニコしながらこっちに歩いてくる。
それを見たフィーナが跪き、俺を撫でるのを止めてしまった。あぁ……
「いやはや、素晴らしい戦いっぷりでした。ありえないほどの魔力の収束と正確な操作! こんなにも探究心を刺激されたのは何年ぶりでしょう!」
ミリルフィアの師匠らしき爺さんはなんと領主さんを追い抜いて走り寄ってきた。あ、やっぱりなんか怖い! 慌てて居住まいを正す。
「ところで先ほど9番系統の魔法を使いましたな? 木札の触媒も無しで! それだけでも驚くべきことですが、同時に魔力を練り上げ、ダルクスト殿への反撃の準備までされていたのは、もう軌跡の御業としか言いようがありません! 是非教え、うぐ」
ミリルフィアが大声で話し続ける爺さんの長い髭を引っ張って黙らせた。ナイスだ。
「領主様、お師匠様、まずは落ち着ける場所に座を移しませんか? ここで話しては無用な憶測、噂を呼ぶかもしれません」
確かに爺さんが俺のやった事を大声で解説したので、兵士たちがざわざわと俺を見ながらなにやら話し込んでいるな。
「一理あるな。勝手な流言飛語は好ましくない。では、会議室に戻るとするか」
気さくな感じの人だがやはりこの領地のトップだけあって、領主さんの声を聞いた後ろの側近たちがすぐに動き、観客になっていた兵士になにか話しかけながら散らしたり、貴族たちに伝言したりし始めた。先導する兵士もすぐに走ってきた。
「ご案内致します」
案内もなにも領主さんも一緒に歩いているし、一度行ったことがあるので、案内不要だと思うのだが、どうやら場内では誰でも先導される決まりのようだ。
すれ違う貴族っぽい人の前には必ず兵士が歩いている。
「さて、アルスの実力は証明されたな。ご苦労だったな、アルス、ダルクスト」
会議室に人数が揃うと、領主さんが満足そうに目元を緩めて声をかけてきた。
それに対し、さっきと同じ位置に控えているダルクストが黙って頭を下げた。俺の電撃を食らったりもしてたから、休んでればいいのに……
俺も、ダルクストを立てた挨拶をしつつ、頭を下げる。
「今後のことだが、アルスよ。オーグラドへの対応に力を……」
「お待ち下さい、ラルコスティン様」
領主さんがなにか話そうとしてたが、横からまたマクルシオンが割って入った。結構失礼な事される領主さんだな……。
「どうした? またアルスの腕試しをするか?」
勘弁して頂きたい。
「いえ、まず日本人に関する情報を開示頂きたいのです。その上で、このアルスの話をした方が皆も話を聞きやすいでしょう」
「ふむ、それもそうか。わしもリーディンとミリルフィアから聞いただけだからな。本人たちも交えて確認するとしよう」
領主さん、本当に鷹揚だな。ここまで差し出口をきかれるとウザいと思うんだけど……
『その辺りの説明はキョーコが適任でしょう』
『え、あたし!? じゃ、なかった、えぇと、その、あたしなのでしょうか?』
俺が話を振るとキョーコが物凄い動揺した。どうしたお前。
「アルスでは駄目なのか?」
『私は日本人であった時のことをあまり覚えていませんし、ずっとココ村で過ごしていましたので、あまり込み入った情報を持っておりません。日本人の話はオーグラドに居たキョーコにしてもらうのが良いと考えます』
「なるほどな」
「オーグラドにいただと?」
マクルシオンを始め、貴族達がざわめいた。あ、これはみんな知らなかったのか。
『あ、あの、あた、わたしは』
キョーコが何か言いたそうだが、可哀想なぐらいに緊張していてモゴモゴ言うだけになっている。いつもの勢いはどうした。
「オーグラドにいたというのは本当か? 間者ではあるまいな?」
マクルシオンがいい加減ウザいなぁ。
『オーグラドの日本人には姿を完全に消して潜む能力を持つ者もいますから、間者ならもう少し上手くするでしょう』
「なに? だが……」
『それにキョーコはオーグラドで失敗が続き、見放されて殺される所を助けましたので、この場にいる事は偶然の産物です。ご安心ください』
「くっ!」
なんで悔しそうなんだよマクルシオン。
『そもそも今の私があるのはキョーコのお陰、という言い方もできるのです』
「ほう、というと?」
領主さんが食いついてきた。キョーコはソワソワしている。
俺はアッセンでキョーコと初めて会った時のことをやや盛って語った。
俺が捕まりそうな時に助けてくれたこと、他に日本人がいる事を教えてくれた上で仲間にさそってくれたこと、俺が断ったせいでキョーコの立場が悪くなったこと……
キョーコが挙動不審だ。俺の方をチラチラ見てくる。別に嘘は言ってねぇぞ? 色々省いただけで。
「なるほど、キョーコが正道を知る者だということはわかった。では、キョーコ。日本人について話してくれぬか?」
『は、はい』
それからキョーコがつっかえつっかえ質問を交えつつ日本人と日本について、オーグラドの同盟について話した。
かなりどもっていたが、通訳される際に爺さんがいい塩梅に意訳してくれたので、領主さん達はさほど聞き苦しくもなかっただろう。
「ふぅむ……日本とは神々の国のようなものなのだな。この世に存在しないとは」
物凄い神々しい例えをされて、吹き出しそうになった。領主さんは、オーグラドの日本人同盟や日本人の能力などはある程度聞いていたのか反応は薄かったが、日本の事については食いついてくる。
「そこからいつのまにか犬になってこの地に生まれたと……ありえるのか? ロクトミリオン」
「あり得ない、と断じたいところですが、法則性がありオーグラドがある程度制御しているとなると、夢物語という訳ではありますまい。銃などの恐るべき技術がもたらされたということは、自分を人間だと思い込んだ犬、という線もありませんな」
「お前の弟子も動員して日本人の転生について研究させよ。オーグラドに独占させていい話ではないだろう。王へは私から話し、予算を頂けぬか打診する」
「承知しました。お任せください」
『よ、よろしくお願いします!』
正に聞きたかったセリフが聞けて、キョーコが大喜びで尻尾を振っている。
それで話が終わるかと思いきや、領主さんは色々と日本の風土やら食べ物、地理などを質問しだした。
未知の国の話というのは興味をそそられるものらしく、あれこれと細かく突っ込んでくる。
テレビやら電波やらの説明はキョーコ自身があやふやな知識しかないらしく、俺やエスタが横から口を挟んだりしながら会話が弾んだ。
妙に感心してくれるので、なんだか自慢をしてるような気になってくるなコレ。
すると、自然にどこでその知識を得たのか、という話から話題がキョーコの身辺のことになった。
「キョーコよ。そなたは日本ではどのような姿だったのだ? 歳はいくつだ? どんな生業についていた?」
『へッ!?』
直接聞こえないとはいえ、その返しはどうよ? 爺さんは聞こえなかったふりをしてくれている。
『え、えぇと、その女性の歳を聞くのは、その』
なんで俺の方をチラチラ見るんだお前は。そんな恥ずかしいもんか?
『14歳です……背はミリルフィア様より少し低いぐらいだと思います。髪の色は黒でした。学生、です』
……
『はぁ!? 嘘だろ!』
『うそぉ! 年下!?』
俺とエスタは驚愕の叫び声を上げた。マジでビックリした。キョーコが中学生? 絶対OLかなんかだと思ってたぞおい。
『な、なによ……』
キョーコが涙目で俺を睨んでくる。いや、だって、なあ?
『自分が犬だと知った時と同じぐらい驚きました』
『妙に上から目線で偉そうな口調だから、20は越えてると思ってたぞ』
『もう! いいでしょ! 別に何も変わらないわよ! 忘れて!』
キョーコがブンブンと頭を振った。うん、まあ、はい……
俺たちが騒ぎ出したので、声が聞こえる人間は唖然とこっちを見ていた。
爺さんが少し遅れて事の次第を領主さんに通訳する。
「ふむ、アルスとエスタはどうなのだ? 歳は? 何を生業としていた? よかったら教えて欲しい」
犬の中身に興味がおありで? だけど俺はあんまり思い出せないんだよなぁ。
『私は正確な事は覚えていませんが、1人で暮らしていた覚えはあるので、キョーコよりは年上かと』
『ずるいなぁ……私もそういう設定にすればよかった』
設定ってなんだこら。本当に忘れてるんだぞ?
『私も、学生です。ミリルフィア様と同じぐらいの背丈だったと思います。17歳です』
女子高生か。
『なんですか?』
『なんにも言ってねぇだろ……』
エスタは若いだろうなぁと思った事もあったから、さほど驚きはない。俺が澄ましているのが気に入らないのか尻尾でペチペチ叩いてくる。なんだよ、もう……
「……協力を感謝する。今日はこれぐらいにしよう。そろそろ、昼食の時間だ。客人達よ、日本には劣るかもしれぬが、ケッセルフの料理もなかなかのものだぞ? 味わっていかれよ」
領主様が話をしめつつ昼食を勧めてくれたので、ごちそうになることにする。ってか今日は朝飯食べてないな。
『ねえ、エスタ……さん』
また兵士に案内されて客室に向かって歩いている時にキョーコがなんか気まずそうにエスタに話しかけてきた。
『ふふっ、今まで通りでいいですよ?』
『うん……じゃないや、ええ、わかったわ。エスタって日本に居た時の事を覚えてるのよね?』
『覚えてますよ?』
『エスタって本名じゃないわよね? なんて名前だったの?』
ああ、自分だけ日本名だから気になるのかね。
『それはですね……か、かつ……あれ? なんだっけ?』
えぇ~
『おいおい、自分の名前忘れるなよ。若いのに』
『いや、ちょっと……へへ』
『カツラギユキノだろ』
『ああ、それです!』
それですって……全然別の名前言ってやれば面白いことになったかね?
『ユキノかぁ。綺麗な名前ね』
『ありがとう。でも、呼ぶ時はこれからもエスタでお願いします。なんか慣れちゃって』
『ええ、わかったわ』
「アルスは日本に帰りたくないの?」
「ワン!」
はい、帰りたくありません。フィーナが居ないし。
即答し過ぎたのか、フィーナがちょっと驚いたように黙った。
「……そう。ありがとう」
お礼を言われることでもない気がするが、どういたしまして。
「ワゥン!」




