78.城下町観光
「凄いね……」
「うん……」
リィザとフィーナが城壁を見上げて感嘆の声をあげている。
城壁に限らず、2人共ケッセルフが見えてから10歩ごとに凄い凄い言い続けていて微笑ましい。
かく言う俺も城門の前まで来てみると城壁の迫力に圧倒された。すげぇ。10メートル以上はあるような城壁がのしかかってきているような気がする。へぇ~……
「リーディン様、ミリルフィア様お待ちしておりました。どうぞお通りください」
ありがとう、とにこやかに門番に応対するとミリルフィアが振り返った。リーディンは番兵に荷馬車を指さしながら何事か指示をしている。
「皆さん、一旦ここでお別れです。担当の方が宿まで案内してくれるはずですので、従ってください。皆さんに精霊のご加護を!」
精霊のご加護を! とか、ありがとうございました、など一緒に避難してきた人たちがミリルフィアに口々に返礼する。腰の低い貴族で、自分たちを守りながら避難させてくれた恩人だろうからな。好感度も高かろう。一応最高責任者はリーディンなんだろうが、ずっと一緒に居たのはミリルフィアだからな。
「ココ村の方々をご案内します! ついて来てください!」
リーディンとミリルフィアが出迎えの上等な馬車に乗り込むと、すぐに門の脇に詰めていた兵士が手を上げながら声を張り上げた。まったく待たされないとは実にスムーズだな。
『わぁ……!』
『おぉ』
門の中はいわゆる日本人が想像するコテコテの西洋の町並みが広がっていた。すげぇな。ゲームの中に入ったみたいだ。いや、なにを今更って感じだが、ケッセルフの町並みには幻想が現実になった感があった。
城門の前の広場から石畳の大通りが真っ直ぐ延びていて、その両脇に石造りで2階建ての建物が行儀よく並んでいる。人通りは多く、荷馬車もかなりの数が通行している。ミリルフィアが乗った馬車はそれらに紛れてもうわからない。高台にあるのか大通りと町並みの向こうにある城がよく見えた。
「こっちです」
案内の兵士は後ろを確認しながら城壁沿いの道へと入って行き、ココ村の人たちはそれにぞろぞろついて行く。アッセンの人たちも案内の兵士に連れられて同じ道を歩いてくる。
ここで強烈に視線が気になった。
門番や案内の兵士は話が通っているのか平然としていたが、街行く人はそうはいかない。俺と兄弟を眉をひそめてジロジロ見てくるし、指差して悲鳴を上げる人までいる。俺たちに取り囲まれているフィーナに良くない視線が向けられるのも時間の問題だろう……ココ村とアッセンは比較的良い人が多くて許容されてたが、こんな都会でそれは期待できない。
ぐ、ぐぐ……うぅぅ……仕方ない……!
『エスタ、キョーコ……フィーナの護衛は任せた……』
『わかりました』
『大変ねぇ……』
黒くない2人にフィーナを任せると、俺と兄弟はココ村の最後尾についた。フィーナはお上りさんよろしくキョロキョロしながら歩いていたが、俺たちが離れていくのを感じるとぱっと振り返って寂しげに視線を揺らした。うう……スマン。
兄弟達は大人しくしているが、あまりの環境の変化にかなり動揺している。これは申し訳ないな……いつかミリルフィアから貰ったベーコンみたいな肉を手に入れて差し入れないとな。
城門から結構歩くと、建売住宅街みたいなところについた。城壁に寄り添うようにまったく同じ形の細長い木造平屋がずらっと並んでいる。ドアがいくつもついているから長屋ってやつか。
「ここがココ村の方の為のものです」
ココ村の人たちがざわめいた。案内してくれた兵士が不安そうに顔を曇らせたが、不満がある訳じゃないと思うよ? 仮住まいがあまりにも立派だからみんな戸惑ってるだけだよ? ココ村は焼け出されてから現在掘っ立て小屋生活が基本だったからなぁ。
「この家に住まわせて頂けるのですか?」
ココ村の村長が、目の前の1軒の長屋を指差す。
「いえいえ違います! ここからあの看板までの10軒がココ村の方に使って頂くものです」
兵士が遠くに立っている十字の看板を指差した。
えぇ!? とリィザの驚く声が聞こえた。他の人たちもどよめく。1家族に1部屋でも余るぐらいだな。快適に過ごせそうなのはめでたい。
「ご不便をかけるかもしれませんが、これ以上のものは準備が間に合いませんでしたので……」
「いえいえ! 立派な場所をご用意頂きまして、皆で驚いているのです! ありがとうございます!」
村長さんが誤解している兵士を慌ててフォローしていた。
「凄く良い家ね……」
「うん、綺麗で広いね」
フィーナとサレアさんの部屋はババ様の一家の隣になった。ババ様に隣にしなさい、と言われたからね。
広いとフィーナは言うが、気持ち広い1Kのアパートぐらいに思える。確かにココ村の家より広いけどね。
ベッドは無いが肌布団みたいなものが4枚ぐらい置いてあるし、簡単な台所に水瓶もあるので、あとは食料があればなんとか暮らしていけそうだ。トイレはやはり共同らしい。
サレアさんとフィーナは早速荷解きを初めた。さほど荷物がある訳でもないが、旅の最中に溜まった洗濯物は片付けるのは大変かもしれんなぁ。
『アルスさん、あんまりじっと見るもんじゃないですよ』
『あぁ、そうか』
フィーナを見てたらエスタに注意された。女の子の洗濯物だもんな、失礼。
部屋の中に居座っても邪魔になりそうだったので、フィーナにひと声掛けてからドアを開けて外に出た。
『怪現象ですよね』
俺が陽炎でドアを開けると勝手にドアが開いたように見えるからな。
外に出ると早速近くの井戸で洗濯物している人がいた。すぐそこに井戸があるんだな。毎日水汲みする必要無し! 素晴らしいね。
兄弟達は住処が決まってある程度安心したのか、今は村の子供たちと遊んでいる。兄弟達の家はフィーナの部屋の隣で、左からババ様の角部屋、フィーナの部屋、兄弟の部屋という並びだ。兄弟の部屋は扉を開けっ放しにしてある。犬に1部屋あてるのに誰か文句を言うかと思いきや、部屋は余っているし、村の人たちはピノン達が好きだしでまったく問題なかった。
キョーコは街の人に怪しまれない外見なので、ちょっと周辺を偵察に行ってもらっている。夜になったら俺も出るつもりだけど、昼の様子も知っておきたい。
……
あれ、困った。やる事が無い。襲われたりする心配が無いと何していいかわかんないぞ? 狩りに行こうにも今は城壁の内側だしなぁ……
『やっと落ち着けそうですねぇ……ちょっとゆっくりしますか』
『そうか……そうだな』
確かに、ココ村を出てから戦いっぱなし、気を張りっぱなしだったからなぁ……ちょっと休むか。
俺がフィーナの部屋の窓の下で丸くなると、エスタも俺の隣で丸くなった。
陽の光と時折聞こえるフィーナの声が心地よい。ふわふわと疲労が解けていくようだ。こんな時間も悪く無い……
「……アオォーン!」
下手くそな遠吠えが聞こえた。
キョーコの声だ。
助けを求めている気がする。
えぇい、なにやってんのあいつ?
『折角ゆっくりしてたのにぃ……』
エスタがゆっくりと身を起こした。
『声を飛ばしてこないってことは、なんか理由があるかもしれん。今から大声禁止な』
『了解です』
「ワウッ!」
「え、大丈夫? あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ?」
窓越しにフィーナに出掛けてくると伝え、キョーコの遠吠えを聞いてソワソワしている兄弟達にはフィーナの護衛を頼んでおく。
「オオォーーーン!!」
答えろ、どこにいる?
「……アォーン」
結構遠い場所から吠えているようだ。方角は城の方。
なんとか見当をつけて、全力で走る。路地を抜け、箱を飛び越え、人ゴミを縫って走った。これが森のなかを走るとは全然勝手が違って結構疲れた。一々悲鳴をあげられるのもストレスが溜まる。
「オォーーン!」
「アォーン!」
近いな。キョーコの声が聞こえてくる路地に飛び込んだ。
「ほう、仲間を呼んだか? ……なんとも禍々しい姿だな。オーグラドの走狗めが」
うらびれた、酔っぱらいが倒れて寝てそうな薄暗い路地に似つかわしくない金髪にピカピカの鎧を着込んだ男が振り返った。
男は剣を抜いていて、キョーコと対峙している。
そしてもう1人、キョーコの逃げ道を塞ぐように路地の奥に魔法使いのような格好をした男がいた。どっちの男も若い。多分10代を出ていないだろう。
「化けの皮を剥いでやるぞ。さあ、喋ってみろ! ニホンジン!」




