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71.陽炎の使い方

 体ヤスリで削られるような激痛。同時に体が滅茶苦茶に振り回され、どっちが上だからわからなくなる。目を開けていられない。悲鳴も上げられずただただ混乱する。陽炎を出してガードするが、爆風のようにソレは陽炎の腕をすり抜けて俺の体を摩り下ろしていく。ジュンジの攻撃のはずだ。だが、あいつは何かを飛ばすことしかできないはず……!?


 攻撃が止まず反撃することができない。実際は数秒だろうが10分以上も食らい続けている気になる。エスタとミリルフィアが心配だ。回復能力でダメージを回復し続けていても辛いってのに……!


『しぶとい……! キョーコ! 近くにいるんだろう? 手を貸せ!』


 激痛の中、ジュンジの声が聞こえた。


『アルスを仕留めればお前の裏切りは無かった事にしてやる! 日本に帰れるかもしれんぞ!』


 くそ! こんな身動きとれない時にキョーコのカマイタチを延々と当てられたら……!


『どうした!? 早くしろ! 日本に帰りたいんだろう! 部隊長に推薦してやってもいい!』


 ちく、しょう……今日は連戦してるから、能力の効きが、悪くなって、きやがった……やば……


『早くしろ! 東の部隊が近くまで来ている今がチャンスなんだ! 日本に帰りたく……!』


 ふっと、攻撃が止んだ。左肩から地面に激突したんで、どうやら俺は宙を舞っていたらしい。小石と砂塵が降ってきて俺の体に当たり、パラパラと音を立てた。


『日本日本って五月蝿いのよ。バカの一つ覚えみたいにさ』


 目を開けると、瓦礫の山が見えた。煙幕のように細かい砂埃が待っていて周りがよく見えなかったが、急に吹いた風で流されていった。


『お、お前、日本に、かえ、りた……ない、のか』

『帰りたいわよ! でもね、あたしにだってプライドってもんがあんのよ! 舐めないでもらえる!?』


 倒れているジュンジを、少し離れたところからキョーコが見つめていた。


『馬鹿、が……』

『ふん、あたしはバカで要領が悪いのよ。知らなかった?』


 回復を続けてなんとか立ち上がれるようになった。完全回復は後回しだ。

 ジュンジはばっさりと背中から腹にかけての切り傷っから大量を出血をしている。キョーコが、助けてくれたのか。


『キョーコ、お前……』

『私はジュンジを見てるから、あんたはエスタとミリルフィア様を回復しなさいよ!』

 確かに今急ぐのはエスタとミリルフィアだな。


 2人は探すまでもなく、元々立っていた場所の近くに酷い有様で倒れている。エスタもミリルフィアもまるで皮を剥がされたような姿だ。ミリルフィアは服までボロボロ。近寄って確認してみると、2人共なんとか息があった。すぐにエスタを回復してやる。筋肉剥き出しの状態から全快まで回復させるのは今は無理なので、呼吸が安定するまで回復させてからミリルフィアに移る。

 

「アルス、君……」

 仰向けで倒れていたミリルフィアが薄っすらと目を開けて俺を見た。体が俺やエスタよりも大きい上に服を着ていたからダメージが小さかったのか? 軽く回復してやると、起き上がれるようになったので、自分で回復してもらおうとしたら、札が無くなってしまったという。ええい、死ぬ恐れが無いなら後回しだ。


『くそ……くそ……父さん……』

 ジュンジの罵りが弱くなってきた。このままでは助からないだろうな。

『助けてやろうか?』

『もう、終わり、だ。帰れ……ない』

 ジュンジの呟きはか細いが、込められた絶望の気配が濃く滲んでいた。

『僕は、もう日本に、帰れない。お前の、せいだ!』

『俺がそんなんで怯むと思ってんのか? お前が殴りかかってきたから返り討ちになっただけだろうが。それで人のせいにしてんじゃねぇ』

『くそぉ……じゅり……』


 誰かの名前を呼び、ジュンジは死んだ。



『そう、よね。こいつは自分から向かってきた。だから、返り討ちになっただけよね』

『そうだ。戦って負けたから死んだ、でもいい。適当に流せ』

『うん……ありがとう』

『礼を言われる理由がわからんね。さて、自分ちの納屋が吹っ飛んだのにラオルが姿が見えないのはなんでだ?』

 キョーコがくくっと口の中で笑ってから俺の問いに答えた。

『中ではどうだったかわからないけど、ジュンジの能力は実に静かだったわよ。納屋が崩れちゃったからその分の音が立ったぐらい。ちょっと騒がしいなぁとは思ってるかもね』

『静かだっただと?』

『ええ、不思議な感じだったわ』

『こいつ、なんでこんな能力を使えたんだ……?』

 陽炎を薄く伸ばして広げていたから陽炎の扱いに長けていたのは間違いないが……

 考えこんでいると、俺の毛皮に食い込んでいた大きめの砂がパラパラとこぼれ落ちた。あー、くそ、毛皮はあちこち剥がれていて、無事な部分の毛皮も砂まみれだ……砂、砂か。

 もしかして、照準や細かい制御を捨てて広範囲に能力を使いまくったのか? 砂やら小石やらを使って。


「うぅ、酷い目に会いました。アルス君は途中で回復止めちゃうし……」

 ミリルフィアがヨロヨロと立ち上がった。案外元気そ……おおぅ。


『ミリルフィア様! 服が破けて見えてます! 隠して!』

「わっ!?」

 立ってみてミリルフィアの服がどんなにボロ雑巾になってるかわかった。もう前も横もベロンベロンである。やっぱり外人さんだけあって、結構あるな、こいつ。

『アルス! ガン見してんじゃないわよ。このエロ犬!』

『ちょ、これは男の本能っていうか』

『黙れ変態!』

 酷い言われようだ。


 その後、様子を見に来たラオルに羽織るものをミリルフィアが借りてから、伝令の話しを聞き、回復魔法の木札を分けて貰いに村長の家に向かう。エスタはラオルに抱えて運んで貰った。

 俺は正直暫く寝込んでしまいたいぐらいに疲れているが、色々と聞きたいことがある……


『ミリルフィア。ジュンジの話だと、やっぱり日本人を呼ぶ魔法があるっぽいけど、どう思う?』

『正直そんな事はできないはず、としか言いようがありません。ですが……私のお師匠様ならなにか見当をつけられるかもしれません』

『そのお師匠様はケッセルフに居るのか?』

『はい、ケッセルフ家お付きの魔術師筆頭ですから』

 ケッセルフは疎開先だからその内着くよな。じゃあ、この件は後回しでいいか……



「ミリルフィア様! そのお姿は一体!?」

 村長の家に着くと、ミリルフィアの姿を見た村長が悲鳴に近い驚きの声を上げた。軽く回復したとはいえ、顔に大きな擦り傷が残っているし、髪もバサバサだ。村長ならずとも慌てるだろうな。

「少し戦闘に巻き込まれました。大事はありませんが、回復の札が無くなってしまいました。わけてもらえませんか?」

「はい、少々お待ちを」

 

 村長さんに貰った札でミリルフィアが回復魔法を使ってエスタをかなり回復させてくれた。エスタの体はまだあちこち怪我が残っているが、意識を取り戻したからもう大丈夫だろう。

『ミリルフィアさん、ありがとうございます』

『いえいえ、いいのよこれぐらい』

 自分より先にエスタを回復してくれた。ふむ、実はまだ疑っていたが、ミリルフィアはもしかしたら裏の無い良い奴なのかもしれんな。


『ほら、アルス君も』

 俺は良い。その内自分で治す、と言いたいところだが、すぐには無理だ。フィーナに酷い姿を見せる訳にはいかんよな……

『すまんが、頼む』

『はいはい。起動しなさい治癒の2番……』



「非常事態に失礼しました。先程の話を詳しく聞かせて頂けますか?」

 村長やウルクストは大怪我してた俺たちの事を聞きたそうだったが、すぐに本題に入ってくれた。


「アッセン東の守備隊はほぼ全滅だそうです」

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