66.アッセンに到着
俺たちがなんだかんだと話していると、遠巻きに俺たちを見張っていたアッセンの守備隊3人組が近づいてきて、ミリルフィアに声を掛けたそうにそわそわし始めた。
向こうからしたら輸送隊を連れて現れたミリルフィアが静かに犬と向かい合ってるようにしか見えんだろうからな。
お陰で俺がキョーコとのことでいじられてた会話が中断されたので非常に助かった。女ってのは好きだ惚れたって話しが好きだな、ほんと……
「ミリルフィア様とお見受けします。私はアッセンの守備隊に所属しておりますラオルと申します」
「こんにちは、ラオル。ミリルフィアです。なにかお話しでも?」
お、ニヤニヤして俺を攻めてたところを中断されて、ミリルフィアが若干不機嫌だな。笑顔の裏に棘がある。
「はい、色々とお話ししたいことがございますが、アッセンの門が見えているところで立ち話もありますまい。まずはアッセンまでおいで下さい」
「そうですね、先導をお願い致しますわ」
「はっ! 承知しました。 ……お前達、アッセンに戻り、ミリルフィア様が来られる事を知らせよ」
ラオルの指示で後ろに控えていた若い2人がアッセンの北門に向けて走っていった。指示出される側は大変だなぁ。
伝令の先触れと、ラオルの先導により、実にスムーズにアッセンの北門を潜れた。
んーしかし俺たちに向けられる視線が非常に煩わしい。さっきの戦闘をバッチリ見られてるからなぁ。それでなくても犬が8匹も群れてれば目立つか。
北門を抜けてすぐは大きめの広場になっていた。こういうところはココ村と同じだな。この広場、普段は賑やかな人通りが多い場所なんだろうが、歩いてるのは兵士ばかりで一般人っぽい人はあまり歩いていない。さっき戦闘があったばかり、というのもあるのかね。
ココ村の人たちはアッセンに無事に入れてホッとしているようだった。さっきまで黙々と歩いていたのだが、アッセンに来たのは何年ぶりだ、とかわりと呑気な声も聞こえた。
「フィーナ、疲れていない?」
「ちょっと疲れた。お母さんは?」
「こんなにずっと歩き続けたのは生まれて初めてだから、私もちょっと疲れたかもしれないわ」
「ケッセルフまではもっと遠いんでしょう? 大丈夫かな……」
きっと大丈夫よ、とサレアさんがフィーナの頭を撫でた。大丈夫だ俺がついてる、と俺もフィーナの手を舐めて主張しておく。
「ココ村の人たちを休ませてあげることはできますか? いきなり連れ出してしまったから、色々大変だったと思うのです」
ミリルフィアが広場で休み始めるココ村の人たち見ながら告げると、なるほどとラオルが頷いた。
「おい」
すぐにラオルは若い兵士に声をかけた。さっと近づいて兵士は小声で何事か指示を受けたようですぐに走っていった。部屋の準備をしろ、とでも言いつけられたのかなぁ。
「すぐに場所を用意させますので、村の方々はこの広場でお待ちください。ミリルフィア様は村長の館までご足労頂けませんか?」
「はい、わかりました」
ふむ、じゃあ俺達はゆっくりするかね。
「フィーナちゃん、アルス君も連れて行っていい?」
えぇー……
「普通の話し合いにアルスが必要なんですか?」
フィーナが怪訝そうにしている。
「多分ねぇ、さっき起こった戦闘について聞かれたり、説明されたりすると思うから、戦ってた本人に居て欲しいかなって。あ、大丈夫よ、家の中で話すだけだし、絶対に危なくないわ」
「そうですか……わかりました」
あっさり説得されてしまった。危険が無いのは明らかだからな……く、フィーナの膝でゆっくりするつもりだったのに……!
フィーナにも来てもらえば……と一瞬考えるも、一瞬で打ち消す。フィーナは長旅で疲れてるんだ。休ませてやらないといかん。膝で休みたいのは俺の我儘だからなぁ。くっ!
『じゃあ、私も行っていいですか? アルスさんだと極端な事言うから』
『確かに。じゃあ、エスタちゃんもお願いね』
うぐ、言い返せない……
「フィーナちゃん、エスタちゃんも付いて来たいって言ってるけど、いい?」
「はい、アルスだけだと乱暴しないか不安だし、丁度いいです」
そんな……フィーナ酷い……
「じゃあ行きましょうか」
『いや、ちょっと待て……』
このままだと、兄弟達とキョーコとフィーナを長時間一緒にすることになる……別に信用しない訳じゃないが、どうするかなぁ。
『なによ、信用できないならあたしも行きましょうか?』
俺の迷いの内容を視線から察したのかキョーコが半ギレで声を飛ばしてきた。
『いや、お前がこの隙にフィーナをさらったりするとは思ってない。お前腹芸できないし』
『なっ!』
『つか、俺はお前の身を案じてるんだが』
『え……?』
『兄弟達に噛み殺されないようにしろよ。まだ、お前は半分敵認定されてるからな』
『う、うそでしょ!?』
キョーコは急におどおどしながらチラチラと兄弟達の様子を伺い始めた。フィーナの周りをウロウロしている兄弟達はキョーコと目を合わすと軽く唸る。
『ひぃっ!』
しょうがない、村長の家に連れていくか、と思っていると、フィーナが動いた。
「新しいアルスのお友達でしょう? 挨拶が遅れてごめんね。私、フィーナっていうの」
キョーコの前に跪くとフィーナが腕を広げた。
「仲良くしましょう? おいで」
キョーコは緊張した様子もなく、ふらふらーとフィーナの腕の中に歩いて行って、収まった。そのままフィーナに背中やら頭やらを優しく撫でられているが、されるがままだ。その様子を見た兄弟達は、ボスが受け入れるなら……と、先ほどまでのトゲトゲした警戒の態度を改め始めた。流石はフィーナだ。
『あぁう、うぅあ~』
キョーコがフィーナの指使いに気色悪い声を出し始めた。まあ、大丈夫そうだな。
フィーナは兄弟達とキョーコが付いているし、キョーコは兄弟に襲われない。よし、問題ない。
『待たせたな。いくか』
『はいはい』




