63.文明の利器
銃だと!?
それは確かに銃だった。種子島銃みたいな感じだから連射は効か無さそうだが、それでも、銃だ。本能的な恐怖が俺の身を震わせた。
轟音
一列に並んで構えられた銃が一斉に火を吹き、銃弾が俺たちに襲いかかった。
ピノン、パプル、ペペルが銃弾を食らって崩れ落ちる。エスタもよろけたので食らったようだが、命中弾ではなかったのか倒れない。
倒れた兄弟3匹を陽炎で掴み、回復を能力を使いつつ丘の向こうにぶん投げて射線から外す。
再度逃げろと鳴き声を上げ、エスタの体を丘のピノン達を投げた方へと押す。すると、とりあえず、全員丘の向こうに走り去っていった。ちゃんと逃げてくれるといいが。
兵隊達は抜刀した奴らがこっち目掛けて丘を駆け上がってきていた。
ちらっと確認すると最初に俺の矢を食らった2人の兵隊は矢を抜こうとしていた。今引き抜いた。それをそれぞれ放り投げる。よし、良い角度だ。
バヂヂヂヂッ!
「ぎっ!?」
「ぐあぁ!?」
矢に繋がったままの陽炎を使って、3方向に全力の電撃を流すと、巻き込まれた兵士たちがバタバタと倒れた。ふむ、こんなもんでも行動不能になるのか。
「ク、クゥ……」
足元でなんか鳴いてると思ったらキョーコだった。運の悪いことに腹に銃弾を受けていた。
一瞬悩んだが、何度か見逃してきて、今ここで見捨てるのもなんか気持ち悪い。ええい! 陽炎でキョーコの体を掬い上げると回復能力で傷を塞ぎ、丘の向こうにぶん投げた。か細い悲鳴を残してキョーコが消える。
さて。
兵士たちは混乱しているようだ。俺の電撃を見て、もう1回銃を使うか迷っている。
「逃げたかのがいるな……命令変更!4、5、6班は私と黒い犬をやるぞ。残りはアッセンを落とせ! 急げよ! 犬へは銃撃をしかける! 用意!」
混乱に付け込もうと思ってたら、隊長格の奴の号令が先に飛んでしまった。ふむ、あいつは小隊長じゃなくて、隠れてた兵士の部隊長か。
よし、死ね。
矢を部隊長に向けて適当に3連射する。が、革張りの盾で受けられた。ああ、その対応は嫌だな。外れて地面に刺さってくれたら兵士を巻き込んで電撃撃てるんだが、なっと。
俺は部隊長の後方やや上方に転移した。俺の居た場所にハーネスと、めり込んでいた銃弾が落ちる。すぐに陽炎で部隊長の首筋を掴んで全力の電撃を流して感電死させる。黒焦げになった部隊長の周りの兵士が息を呑んだ。
ふむ、日本人が横槍を入れてくるかと思いきや、なにもしてこないな。姿を透明にする能力とジャミング以外に居ないのか? そいつらも見当たらないが……また透明になってるのかもしれんな。
これならどうだ。
陽炎を伸ばし、地面に沿って薙ぎ払う。俺に斬りかかろうとしていた兵士がバタバタと倒れたが、犬が姿を現すことは無かった。これは逃げられたか? なら、とりあえず、周りの奴らを片付けるか。数だけは多いから面倒だが。
『緊急! 街の14番から周囲へ。事態の3。事態の3ッ!』
俺が襲いかかってくる兵士を全て片付け終わると、アッセンの方から声が飛んできた。ジャミングが切れた?
『あ~、テステス』
ふむ、声が飛ばせるな。
『エスタ、無事か?』
『大丈夫です。何人かこっちに来ましたけど、倒しました。それよりも、ペペルが苦しそうにしてるんです。回復してもらえませんか?』
『わかった』
丘の向こうに行ってみると、エスタ達はだいぶ移動していた。意外なことにキョーコも一緒だ。あちこちに手足が凍った兵士が倒れているので、逃げながら戦ったんだろう。む、確かにペペルが辛そうにしてるな。ぐったりと倒れこんでいる。
近づいて見てみると、俺の回復で肋骨付近の傷の血を止まっているが、当たりどころが肺だったらしい、呼吸が不規則で血を吐いていた。
『ペペル、大丈夫ですよね?』
エスタが不安そうに尋ねてくるが、安易に返事できないな。多分肺に残った弾だろう。俺が食らった分は転移した時にその場に残されたので傷を塞ぐだけだったが、肺の中に弾が残ったままは辛いだろう。
……荒療治になるな。敵兵もウロウロしてる状態だ。手早く済ませなければ。
『エスタ。周りを警戒してろ。横槍が入るとペペルが助からん』
『はい』
エスタが目を逸らした隙にペペルに電撃を食らわせ、昏倒させた。
次に心臓マッサージの時のように陽炎をペペルの体にめり込ませ、体内を探る。異物はすぐに見つかった。俺も食らった丸い金属球。それをしっかりと陽炎で掴み。引き抜く。
『ひっ!?』
キョーコが悲鳴をあげた。
何も知らない人間からしたら、球が勝手にペペルの体内から飛び出てきたように見えるだろう。
すぐに全力で回復能力を使う。ペペルの傷が塞がり。呼吸が元に戻った。これで大丈夫だろう。
『あなた、見る度に妙な能力を増やしてるわね……』
『まあ、これは応用って感じだけどな。エスタ、ペペルはもう大丈夫だ。お前も頭に掠めてるみたいだな。治してやるからこっち来い』
エスタも顔の半分を血で染めていて、結構凄惨な見た目になっていた。
『はい、すいません。あまり痛みは無いんですが』
陽炎を伸ばすのを省略する為に、直接鼻面でエスタの右目の上に触れて、傷を消す。血が目に入ってそうだったので、舐めとってやった。
さて、と。
見回すと、とりあえず全員無事だ。ピノンとパプルは見た目は平然としている。
『キョーコ、手短に聞こう。隠れてた奴らの中に日本人は何人居た?』
『な、なんでそんな事話さないといけないのよ!?』
『いいか。単純に考えて、お前はもう同盟には帰れないぞ』
『そ、そんな訳ないじゃない!』
『さっき声を掛けてきたのは俺を言いくるめてやり過ごすとでもいったのかもしれんが、結果は部隊の存在をばらし、隊長を始め損害を出した』
『そっ!』
『それに、俺に殺されずに庇われたことも目撃されている。このまま帰っても完全にスパイ扱いだぞ。これから1人で戦場をウロウロするか、ここで俺たちに協力するかどっちが得だと思う?』
『で、でも、日本に帰れないんじゃ、うぅ……』
『俺たちが偶然この世界に来た訳じゃないって話、聞いたことある?』
『な、なによ、それ……?』
やっぱり同盟でも信用されてねぇなぁ。こいつ。言うこと聞いても報われるかどうか……
『ジュンジがそんなこと言ってたんでな。これではっきりしたが、キョーコ、お前は同盟に信用されてない。このまま御用聞きしてても報われないぞ』
『あんたが原因でしょうが!』
まあ、それは申し訳ないと思っている。
『キルグフィッツでも日本に帰る実験をさせるってのはどうだ?』
『へ……?』
キョーコは目を丸くしてポカンとしている。そんなに意外なことか?
『ジュンジ達を捕虜にとってるし、そこから情報を引き出して、キルグフィッツの魔法使いに研究してもらった方がオーグラドに帰るよりは芽があるんじゃねぇの?』
『う、うぅ……き、キルグフィッツが協力してくれる保証なんてないじゃない!』
『あるさ』
おれは自信満々に答える。
『俺たち日本人について、キルグフィッツは情報が欲しくて欲しくて堪らない様子だぜ。日本人が持ってる能力が戦争で使われて押されてるようだしな。日本人がオーグラドについてるのは、帰れる手段を用意する、って報酬があるからだろう? キルグフィッツからでも帰れますよ、となったらどうなる?』
納得がいったのか、キョーコが頷いた。
『オーグラドを牽制する為にも研究はするはず、ってことね』
『そうだ。あ~、長くなっちまった。で、ここに来てる日本人の人数は? 多分攻撃系は居ないんだろうが』
『そうね、当たりよ。仲間の姿を消せる能力を持っている日本人が10人と通信妨害が3人。のはずよ』
10人も居たのかよ。まあ、1人であの人数を消せるわけないか。
よし、この前みたいに出会ったら命の危険があるようなのが居ないとわかっただけでも、気が楽だ。
『緊急! 街の14番から周囲へ。事態の3。事態の3ッ!』
アッセンから再び声が飛んできた。さっきよりも差し迫っているな。
『俺はアッセンを助けにいく。お前たちも来い。変にバラけるとよくない気がする』
『あ、アルスさん、偵察だけって約束じゃ?』
『アッセンが陥落なんかしたら、夕方やってくるフィーナが危ない思いをするだろうが』
『……そうですよね』
『あたしは戦わないわよ?』
『まあ、お前は兄弟達に襲われないようにな』
『確かにちょっと怖いんだけど……なんとかならないの?』
『手はあるんだが……』
『……』
エスタさん、黙って睨むのは怖いから止めて。
『一応言っておくから大丈夫だろ』
『本当に大丈夫でしょうね……』
じゃあ、行くか。




