56.名案
俺は今までなんとなく能力を使っていたが、ジュンジのを真似できたってことは、試せばもっと色々できるんじゃないの? 実際射程距離が伸びたりした訳だし、色々と実験してみるべきだろう。
『……まあ、そうかもしれませんねぇ』
朝食の後に語ってみたが、エスタの反応は芳しくなかった。昨日の今日で疲れてるのかもしれんが、穴だらけになってた俺が全快してるんだぞ?
『ちょっと考えたいことがあるので、今日はフィーナちゃんの傍にいることにします』
『そ、そうか。わかった』
ああ、これはあれだ。日本に帰る術がないってミリルフィアに言われたのが効いてるのかな。そういや、あれから少し情緒不安定だったからなぁ。攻撃的になったり、落ち込んだり……ここで日本に帰るつもりが無くなった俺が何を言っても駄目だろう。そっとしておくか。
キルグフィッツの補給隊キャンプの近くの森にジュンジの撃った矢が転がっていたので、何本か回収する。
矢を銃身をイメージして伸ばした陽炎の中に取り込み、押し出す。カツン、と硬い音を立てて、狙った木の隣の木に矢が突き立った。
うぅむ、発射するタイミングで、伸ばした陽炎と押し出す陽炎が干渉してブレてしまうようだ。陽炎同士が干渉しないようにするにはどうしたら……んん? ボソボソ声が飛んでる気がするなぁ。
『ねぇ、本当に無理なの……?』
『俺の力は相手を麻痺させるだけだ、知ってるだろ……』
『僕も矢を取り上げられていて、どうしようもない。だが、殺されなかったってことは、生かしておこうとするはずだ。食事もあるだろう。その時に』
『随分大きな声で相談してるな』
俺が声をかけると、ジュンジ達が押し黙った。ふむ。
ジュンジ達は縛られて箱に入れられてるってことだったが、その箱は纏めて倉庫に入れられているようだ。この倉庫にはなんか縁があるな。昨日ミリルフィアが魔法をかけた倉庫の裏に俺は寝そべった。
『食事の時には気をつけろって言っとく。まあ、俺が付き添ってもいいし』
『酷い……』
幻影使いだろうか、随分細い、女の声で非難された。はは、酷いねぇ。
『アルスさん、やはり日本に帰りたくはないのか?』
ほう、俺を説得するつもりか?
『帰りたくないねぇ。行ったり来たりできる扉があるっていうなら何度か潜ってみたいとは思うけどな。まあ、罪のない人間を殺してまで帰る気は無いね』
『人の気も知らないで……!』
また幻影使いが刺々しい声を飛ばしてくる。お互い様だろ?
『聞いていた通りで日本に帰る気が薄いのはわかった。なら……この世界での生活の安定に興味はないか?』
生活の安定? 何言ってんだこいつ。
『アルスさんは日本で仕事は何をしていたんだい? なにか覚えていることは? 日本……いや、地球の知識を高く買ってくれるところがあるんだ』
知識を買う、ねぇ。
『フィーナちゃんに豊かな暮らしをさせてあげたいと、思わないかい? 知識によっては一生遊んで暮らせる程のお金になる』
『フィーナちゃん、なんて呼ぶんじゃねぇ』
『……失礼』
『豊かもなにも、お前達を逃したら、即フィーナの命の危機だろうがよ。話しにならんな』
『……僕達の目的は日本に帰ることだ。人殺しがしたい訳じゃない。さっき、僕達が人を殺したことがあるような口振りだったけど、殺人なんてしたことはない。指示されたことも無い。信じてくれ。頼む、こんなところで死にたくないんだ。』
『指示ね……そもそも帰れる保証なんて無いだろうに、どうして言われるがままに従ってるんだ?』
『保証は、ある』
『へぇ、魔法がある世界だから可能性はゼロじゃない、ぐらいだと思ったら言い切るねぇ。誰か日本に帰ったりしたのか?』
『……アルスさんは日本に帰りたくないんだろう? なんでそんな事を聞くんだ?』
『単純な興味さ。保証も無いのになんで全面服従してんだろって不思議に思ってたからな』
『服従する理由は簡単だよ。俺たちは偶然この世界に転生した訳じゃ無いからだ』
は?
『……え?』
『どういうことだ!?』
偶然じゃない? 幻影使いとアヤトの驚きっぷりを聞くとこいつらも知らなかったっぽいが……
『つまり、誰かに召喚されたってこと?』
『これ以上は話せない。僕が何か知っていることはわかってもらえたと思う』
お前が口からデマカセを言ってない保証はないがな。
得るものがあったような、無かったような……
こんなもんかね?
俺は隣にしゃがみ込んでいるミリルフィアに目配せする。
ミリルフィアはなにやら木札に書き込みつつ頷いた。
俺たちがぺちゃくちゃ話してて、気が付かれない訳ないよね。ジュンジがフィーナの名を呼んだ辺りでコソコソと近づいてきて、話しを長引かせてくれ、と小声で指示された。ミリルフィアが話しかけてもこいつらは黙って話さないらしい。
『ああ、そうだ。矢を飛ばすコツとかある? 俺がやると命中率が悪いんだよね』
『……銃身をイメージすることです』
駄目だろうなぁと思って聞いてみたら、予想外に答えてくれた。銃身ねぇ、そのつもりで伸ばしてるんだが……。
『サンキュー。じゃあ、飯に一品足してもらうように言っとくわ』
『それはどうも』
「いやぁ、まさか自主的に来て尋問してくれるだなんて思いませんでしたよ~」
倉庫から十分離れると、ミリルフィアがホクホクと笑いながら小声で話しかけてきた。声を飛ばさないのは万が一にも聞かれない為か?
『そんなつもりなかったんだがな』
「またまたー! お礼はお肉でいいですか?」
え、マジで? あのベーコンみたいな肉、まだあるの? 最後は兄弟達と取り合いになるほど旨かったんだよ、また食いた……あ、そうだ。
『じゃあ、ちょっと頼みたいことがある』
『うわ! アルスさん、なんですかそれ!?』
落ち込んでいたエスタが俺を見て思わず素になった。いいだろ?
俺はミリルフィアに頼んで、ジュンジが装備していたハーネスを手先の器用な兵士に俺に合うように補修、調整してもらって着てみた。これがなかなか上手くできていて、陽炎の大雑把な動きでも固定できるように作られていた。ジュンジは自分の陽炎で物掴んだりできないようだから誰かに咥えて着せてもらってたのかなぁ。
『矢の練習するのに、持ち運ぶのが面倒だし、いざ使うとなったらやっぱり必要かなぁと思って』
『うわぁ……フィーナちゃんが見たらなんていうか……』
え、フィーナが?
「アルス、それ、どうしたの?」
ぞくりと、背骨が凍りついた。尻尾が固まる。え、なんで、え、えぇ……?
フィーナが家から出てきて、俺の前に立った。
動けない。フィーナさん、どうしたんです……?
「戦争に行くの? ミリルフィア様に貰ったの?」
え、あ、そういう勘違いか。違う違う! NO NO!
俺がブンブンと頭を振るも、フィーナは無表情のまま俺が身につけてるハーネスをテキパキと外して、家の中に持って行ってしまった。
えぇ……
『アルスさんってたま~に空気読めませんよね』
『うぅ……』




