55.これから
ミリルフィアに連れて行かれたのはさっき魔法を使った倉庫だった。完成してるので人の出入りが無いから落ち着ける、とのことで、兵士に敷物を持ってこさせて倉庫の前に座り込んだ。椅子を持ってこさせて座らないのは何故だろうと不思議に思ったが、俺とフィーナがくっついて座れるように、という心配りなのかもしれない。
「さて、さっきアルス君達と話したことは、ソルバさんに聞いてもらうとして~」
フィーナが横座りに腰を降ろし、俺がその膝に頭を乗せくつろぎ、エスタが座り込むと、ミリルフィアがさっそく話しだした。
「ねぇ、フィーナちゃん、私の家に来ない?」
はあ?
「……あの、それはどういうことなのでしょうか?」
「あぁ、ごめんなさいね。ちょっと気が焦っちゃった」
フィーナが身を硬くすると、ミリルフィアがパタパタと両手を振った。
「さっき話したけど、戦争がね……長引きそうなのよ。そうなると、前線付近の村が危ないから、住民の方々は近くの街まで避難してもらおうって話しがあるの」
疎開みたいなもんかね?
「……」
「その時、フィーナちゃんには私の家に遊びに来て欲しいなぁ、なんて思ってて……あの、フィーナちゃん?」
声をかけるも、身を硬くしたままのフィーナにミリルフィアが不安げに語尾を震わせた。
「アルス達になにか御用なんですか?」
まあ、そうだろうな。なにかしら俺たちに用があるに違いない。フィーナが行けば自動的に俺たちも来る訳だからな。
エスタが油断なくミリルフィアと周囲を見回し出した。いいぞ、その意気だ。今全力で戦えるのはお前だけだからな。頼むぞ。
「あの、ちょっと、3人共、なんか、空気が硬いよ?」
俺たちの殺気じみた警戒に、ミリルフィアが口を引きつらせた。
「うう、多少は私たちの事、信用して欲しいなぁ……」
腹芸できない感じが逆に信用できそうな気がするぐらい会話が下手だなこいつ。いきなり家に来いって言ったり、信用してくれって口に出したり……
『フィーナの質問に答えないつもりか?』
『あっ、そうよね!』
別に仲を取り持つ気は無いが、ミリルフィアには喋らせた方が今後の為になる情報が聞ける気がするんだよな。
「アルス君達に用がある、のは事実よ。色々お話しをしたけど、もう少し深い話を私のお師匠様としてみて欲しいし、捕虜の犬たちについても協力してもらいたいことがあるかもしれないし……」
『まったく俺たちに関係ねぇ~』
『ですよねぇ……不意をつかれて箱に詰められたりしてね』
お、エスタがなんかやさぐれてるな。さっきの帰る魔法は無い発言が効いたのか?
ミリルフィアの頬で汗の粒が光った。焦ってる臭いがプンプンするわ。
「私たちの都合でのお願いではあるわ。だけど、ここが危ないのはわかるわよね? アッセンがまた落とされたら、兵隊とあの犬達がくるかもしれないし」
「……はい」
「村の人達と一緒にケッセルフの街に来てもらったとしても、どうしても完全に安全とはいえないわ。でも、私の家、ケッセルフ家の中なら大丈夫よ! 兵士が1日中見張ってるし、魔法使いも沢山いるのよ」
ふ~ん?
「だから、安全を保証する代わりにちょっと色々手伝ってもらえないか、というか……」
やっぱりこいつ、話すのが下手だな。フィーナの家に尋ねて来た時はそんなでも無かったんだがなぁ。交渉が駄目だとか? 隣を見ると、げんなりした顔のエスタと目が合った。頷き合う。
ケッセルフ家が俺たちにとって安全かどうかがわからん。まあ、家の人間が全員リーディンとミリルフィアのコピーみたいな人格だったら問題ないかもしれんがね。現時点では交渉にならんな。
「お家にお伺いするのでしたら、喜んで。ですが、アルス達は私の持ち物ではありません。私の都合で苦労をかけたくないのです」
なにを仰る!? フィーナが私の為にやれ、と言うならなんだってやってみせますわ! うぐっ。
起き上がろうとしたらフィーナに顔を抑えられた。
「そう、ごめんなさい……そうだ! アルス君達が協力してくれたら、フィーナちゃんのお父さん達も早く帰ってこれるかもしれないわよ?」
ちっ! 今度はそういう方向でくるの? 肉親を人質にとるみたいな言い方すんの? あぁん!?
「ち、ちょっと、アルス君、怖いから!?」
俺はまだ何も言ってないのにミリルフィアが仰け反った。
「い、いい、言い方が悪かったわ。でも、その、事実というか……捕まえた犬達が協力的に色々話してくれたらいいんだけど、その……」
まったく、ブツブツと。だが、確かに事実ではある。フィーナの父ちゃんラッツやフィンはもう2ヶ月以上も留守にしている。国境の警備と言われてたし、戦ったりもしてるだろう。そこで日本人が前線をウロウロしてるとか聞くと、非常に心配ではある。ゼークストみたいな人間ならともかく、普通の人間が日本人に勝てるとは思えん。
「私もキルグフィッツの国民で、ケッセルフの領民です。ご協力ができることは致します。ですが、私はただの小娘です。なにとぞ、過剰なご期待はされませんよう……」
ふふ、フィーナのコメントから凄い壁を感じる。ミリルフィアは涙目である。こっちみんな。お前の失言なんか知らんがな。
まあ、さっき普通に話してたから、ミリルフィアは仲良くなれた感触でも感じていたのかもしれんので、ちょっと可愛そうではある。
が、フィーナの前では些事である。
『じゃあ、ここらで帰らせてもらうぞ。疲れたからな』
「わかりました……色々無理をいってしまってごめんなさいねフィーナちゃん」
「いえ、私も失礼なこ「そんなことなかったから! ね、今度は普通にお喋りしましょうね?」
今度があるのかぁ。
「はい、喜んで」
おや、これは割りと普通に楽しみって雰囲気で答えたな。フィーナは良い子だなぁ。
その日の夕方は護衛のお礼に、と燻製肉がどっさり届いたので兄弟達も呼んで美味しく頂いた。




