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【エスタ2】死の匂い

 なんだか凄くおっかないけど、この黒い犬は普通の犬じゃないことは確かです。今まで会ったことないけど、もしかして日本人? 恐る恐る声をかけてみます。

『あ、あの、日本人の方、でしょうか?』


「……」


 返事をしてくれない……


『私、カツラギユキノって言います。あの、アルスさんは敵対とかしてるみたいですけど、私は中立のつもりなので、いきなり攻撃とかしないで頂けると嬉しいです……』


「……」


 なんか、言ってよぉ……それとも、聞こえてないのかな? まったくの無反応ってそういうこと? 


 じわり、と、5匹の犬が私に向かって近づいてきました。いや、気のせいかもしれません。見回して見ると、あまり動いていないようにも見えます。ですが、とにかく凄い圧迫感で息が詰まりそう……! これは非常事態ですよね?


『アルスさん! たす』


 私がアルスさんに向けて全力で助けを求める声を飛ばそうとした瞬間、後ろと右の犬が同時に襲いかかってきました。息が詰まって声が途中で止まってしまいました。


 明確な殺気。殺す? 私を殺そうと思っている! 訓練中にアルスさんをおっかないと思った事は数あれど、こんな風にお腹の底が冷えるような感情をぶつけられたことはありません。これ、怖い、いや、避けないと、死んじゃう!?


 訓練の成果でしょうか。私は咄嗟に左手を軸にして体を旋回させ、向かってきている犬を視界に収め近い方、後ろに居た犬に能力を使いました。ごめんなさい、足を凍らせます!


 集中、確かに能力が発動した手応えを感じます。次の瞬間、後ろに居た方の犬がぱっと左に飛び退いて氷結する地点を避けました。


 え、なんで!?


 まるでアルスさんのように、私が力を使う前兆が見えているようです。本当に見えていたらどうしよう。避けられてしまう時は、どうするんだっけ?


 私は避けられた事に動揺して考えすぎてしまいました。


 あっ、と思った時には、右に居た犬が目の前で口を開け、私の手に噛み付こうとしています。私の前に能力を発動。噛み付こうとしていた犬は体をくねらせてすぐに飛び退きました。やっぱり、見えてます。


 考える暇も無く、後ろに居た方が私の左側に回りこみ、跳びかかってきました。今だ。犬の体が宙に浮いた瞬間を狙って能力を発動。足が地面についてないのだから避けようがありません。狙い通り犬の右前足が凍りつきました。


「ギャンッ!!」


 右前足を凍らされた犬は悲鳴を上げ、着地に失敗し、私の方に転がってきます。うぅ、ごめんなさい! 私は転がってきた犬を飛び越え、そのまま包囲を抜け……られませんでした。


 いつの間にか別の犬が私の移動を遮るように移動してきています。攻撃に参加しない3匹は、私を逃がさない為の包囲役のようです……どうしよう、どうしよう!


『エスタ、どうした?』


 アルスさんの声が飛んできました。応えたいのですが、声を大声で飛ばすのに意識を向けるのは危険な状況です。なんとかあと1匹無力化できれば! 私はさっき飛び退いた右にいた方の犬を牽制しようと集中しました。


 これがいけなかった。


 左足に激痛。振り向くと、右前足を凍らされた犬が倒れたまま私の左足に噛み付いています。しまった! 足を凍らせただけで無力化した気になって……


 バヂッ!!


 目の前に火花が散りました。これは電撃!? なんでアルスさんの技をッ!? 混乱と電撃の痛みで気が遠くなりかけますが、咄嗟に噛み付いてきた犬に氷結の力を使います。倒れたままの犬は避けられず、顎を中心に凍りつき、能力が止まりました。自慢じゃないですがね、私、アルスさんと散々模擬戦やって電撃を我慢するのは慣れてるんですよ!


 勝ち誇った次の瞬間、飛び掛かってくる気配。右にいた方の犬です。まずは避けて……避けられない! 噛み付いた状態で凍らせてしまった為に倒れた犬が足枷のようになってしまっています。 しまった!? 首に衝撃、殺気の篭った牙が私の首に食い込みます。


 死にたくないッ! 私の首に噛み付いている犬の腹を横目で睨みつけます。 視界に入った犬の腹が凍結。 かふっと口から吐息を漏らして噛み付いてきた犬が崩れ落ちました。


 死んでしまったでしょうか? いや、気にしてる暇はありません! 私は左足に噛み付いている方の犬の腹も凍りつかせました。ビクリと震えて動かなくなったので、無理やり左足を顎から引き抜きました。


 食い込んだ牙に引き裂かれて血が出ますが、自分より大きな犬を左足にぶら下げていては逃げることもできません。我慢します。


「ウウゥ!!」

 バヂッ!


 私の後ろと右前方、左前方に移動した犬が唸り声を上げます。バチバチいってるのは電撃の空撃ちでしょうか。殺気の篭った声と威嚇に身が竦みそうになります。


『攻撃役はこの通り、もう動けません。あ、あなた達もこうなりたくなかったら、逃がして貰えませんか?』

 さっきアルスさんに聞こえるように声を飛ばしたら襲いかかってきたので、やっぱり声が聞こえるのかもしれないと思い、呼びかけてみますが、唸り声が返ってくるだけでした。

 

 じわり、と私を中心に3匹が時計回りに回り始めました。速度は一定ではなく、いきなり速くなったり、ほぼ止まったり……なに、なんなの!?


 私が速度変更の度にビクビクしていると、死角に入った1匹がすっと、私に近づいてきていました。


 うわっ! と思わず凍結能力を使うと、近づいてきた犬と逆側にいた犬が私に跳びかかってきました! 振り向くと、開けた口の歯並びが確認できるほど近くにいるます。このっ! 威力も精度も無い、とにかく発動すれば良いと能力を使います。


「キャンッ!」


 口の中を僅かに凍らされた犬が仰け反りますが、息をついている暇はありません。残りの2匹が向かってきています。振り向き、飛び退いて、向かってきている2匹に先程と同じく、早さだけの氷結能力を放ちます。


 土壇場の思いつきでしたが、この早さ重視で能力を放つのは有効でした。連射すると犬達は回避に精一杯で私に近づけません。包囲網も解けています。隙をついてなんとか後退をしないと。


 私がじわりと後退すると、逃がすものかと3匹が私に近づいてきます。能力の連射を警戒して、距離は詰めてきません。よし、3匹が同じ方向にいる今なら、氷の霧を広めに張って逃げきれるかもしれません。


 3匹と私の真ん中辺りの空間に意識を集中して、霧を発生させます。させるつもりでした。あれ、なんで出ないの……え、打ち止め!? 私、そんなに疲れてるの!? 疲労を意識した途端足がもつれて、尻もちをついてしまいました。そんな、今、能力が使えなくなったら……! 3匹の犬達は私の隙を見逃さず、すぐに走り寄ってきます。


『アルスさん!』


 なんとか声を飛ばしてみますが、そこまでで、先頭に1匹に右腕に噛みつかれ、振り回され、引き倒されました。


 なんとか、なんとか、噛みつくなりの抵抗をしようと、右腕に噛み付いたままの1匹の首に噛みつこうとするのですが、残りの2匹が次々と噛み付いてきました。


 背中と首に牙が食い込む感触。あまりの痛みに叫び声もあげることができません。首だけは、と首に力を込め、捻って抵抗するのですが、他の2匹に体を抑えこまれてしまっているので、大した抵抗になりません。


 痛い、痛い! 背中が何度も噛みなおされ、痛みで燃えているようです。痛みに藻掻いた瞬間、牙が首にぞっとするほど食い込んできました。次の瞬間ひやりと、体が芯から重く、鈍くなります。


 そん、な、このまま、食べられて……


 真由子、おねえちゃん、わ、たし、もう、会えない


 ……アル、ス、さ……




 ふっと、いきなり首が軽くなりました。


 えっ?


 私の首に噛み付いていた犬がかなり遠くでもんどりうって転がるのが見えます。次の瞬間には、背中と腕に噛み付いていた犬が吹っ飛び、転がっていきます。

 

 あぁ……


『おまたせ』


 アルスさんが、来てくれました。

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