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44.クールビューティ

 リーディンとガスコンは翌日すぐに帰っていった。


 徴兵される男達は1人残った騎士と一緒に後からアッセンに向かうことになったらしい。


 最近、以前のまったりとした雰囲気に戻ってきていたココ村は、男達の準備に慌ただしくなった。

 準備って何をするのかと思えば、アッセンまでの食べ物の準備と、防具作りだ。


 狩人ならともかく、村の大半は農家なので、殆どの人が身に付けるものは野良着しか持ってない。なにか身を守るものが無ければ命に関わるとのことで、皆一生懸命に防具を作っている。

 と、いっても鎧みたいな立派なものではなく、とってあった獣の革を繋ぎあわせて羽織れるようにする感じだ。だが、これがまたバーサーカーみたいで妙に強そうに見えた。

「お父さん、ちょっと怖い……」

 フィーナはバーサーカーになった父を見て、ちょっと怯えていた。

『なんか叫び声を上げて斧振り回しそうですね』

『お前もそう思う? なんかゲームに出てきそうだよな。実にファンタジーだ。剣やら全身鎧を見た後で改めて言うのもなんだけど』

 ファンタジーを感じたのは、ある物をごちゃっと着込んだ感じが生々しいからかなぁ。どうだろうね。

『アルスさん、ゲームとかやってたんですか?』

『RPGはやってた気がするな……ぼんやりとしか覚えてないけど』

『里心がつきそうなんで、あんまり考えないようにしてるんですけど、ゲームしたいし漫画も読みたいです……』

 日本人2人は部屋の隅で、サイズ調整を行う親子を眺めて過ごした。


 準備期間中は、フィーナは俺やエスタじゃなくて、ラッツとくっついて寝ていた。心細いんだろうな……寂しいが、我慢しよう。

 朝起きるとエスタが俺の尻尾を抱きまくらにして寝ていた。こいつも寂しかったんだろうが、尻尾を締め付けられたせいでいつもより早く目が覚めちまった。俺は尻尾をそっと引き抜いてネズミ退治に向かった。


 


 ついに徴兵された男たちが出発する日がやってきた。

 朝からみんな総出で広場に集まり、それぞれ一時の別れを惜しんでいる。悲しみの色が見えそうな風景だ……が、程度の差はあれど、みんなバーサーカースタイルだから、すっげぇ強そうな一団に見えるな。引率の騎士は人が集まり始めた以降になにか思うところあるのか、若干離れたところに移動した。

 フィーナとサレアさんはラッツにしきりに気をつけて、怪我をしないで、と話しかけていた。

「……」

 それを眺めていると、ラッツと目が合った。ん? なにか御用で?

「アルス、サレアとフィーナを頼むぞ」

「ワンッ!」

 任せといて。なにがあっても、守ってみせるさ。


「アルス、村をよろしくな」

「ワン」

 フィンが人を掻き分けて挨拶にきた。え、フィンも徴兵されるのか? 本当に男が居なくなるんだな……

『アルスさん、この人は?』

『フィンだ。リィザの兄貴。フィーナの事は諦めたんだと思ってるんだが、挨拶にかこつけて顔を見に来るとは油断ならんな』

『へ~、フィーナちゃんをねぇ……。この人カッコいいのになんでこんなおじさんっぽい格好してるんですかね?』

『単純にセンスの問題だろ。俺が思うに、いつも着ているあの毛皮のベストがいかん。初めて会った時は着てなかったんだが』

『確かにベストが浮いてますよねぇ。あー、話せたらアドバイスできるのに~』

 おお、女の子してるな……。


「では、出発します! 皆、私についてきてください!」

 村長さんが出欠を取り終わり、それを騎士に報告すると、出発の合図があった。特にファンファーレなどがある訳でもなく、進みだした騎士に皆がぞろぞろついて移動し始めた。

「気をつけてね!」

「頑張って!」

 見送りから激励の声を背中に受けつつ、バーサーカー軍団は戦場に出発していった。


 家族と暫く会えない訳で、湿っぽい雰囲気になるかと思いきや、見送りが終わると皆はサバサバと仕事をしだした。おお、逞しいな。

「フィーナ、今日はどうする?」

「焚き木をそろそろ拾わないといけないから、山に行くつもり」

「ウチもそろそろかなぁ……じゃあ、山に行こうか。アルスも来るよね?」

「ワン!」

「キャン!」

「あら、エスタも? 大丈夫?」

 俺と一緒に返事をしたエスタにリィザが驚き、フィーナを見た。

「まだ小さいけど、最近走れるようになったし、言うこともよく聞くし、大丈夫だと思うよ」

「やっぱりフィーナは犬を育てる才能があるよねぇ」

「騎士様にも聞かれたけど、特別なことはなにもしてないよ?」

「じゃあ、フィーナから犬を賢くする何かが出てるのかも」

「何かって……なに?」

 そりゃあ、慈愛のオーラだろ。声に出してないのに、何故か隣でエスタがため息をついた。



 フィーナ達は家に帰り、新しく作った背負子を背負って北の山に出かけた。エスタもトコトコ着いてくる。待ってるのは暇だそうだ。

 不意に北の山の方から犬の遠吠えが連続で聞こえた。1匹2匹じゃないなぁ。野犬の集団なんぞ、この辺りでは見ないが、移動してきたか?

『うわー、山って、なんか、山!って感じですね』

『何言ってんのこいつ』

 あ、しまった。思わず思考が漏れた。

『ちょっと! その言い方は酷くないですか!?』

『ああ、スマンスマン。ちょっと言葉が足りなかった。お前、出会った時より馬鹿になってない?』

『酷くないですかッ!?』

「キャンキャン!」

 実際に吠えてまで抗議された。

『最初の頃は、こう、緊張してたんですよ。で、今は飾らないそのままの感想を言っただけです』

 あまりフォローになってないような……。

『へえ~、そうなんだ~』

 いつものお返しに適当に流すと噛み付いてきた。甘いわ。ひらりと躱す。むきになって噛み付こうと追ってくるが、当たらん。ケツに殻のついたひよっ子めが! ふはははっ!

「ふふっ、仲良しなのね」

「可愛いよね」

 どうやらじゃれ合ってるように見えるらしく、リィザとフィーナが焚き木を拾う手を止め、俺らを見て笑っていた。笑ったフィーナもはいつもより一層可愛いなぁ。


『隙ありッ!』

 あ、余所見してたら死角から右脚に噛みつかれた。なかなかやるじゃない。全然痛くないが、手加減してくれたのかね?


 右脚を見てみると、俺の右脚と、噛み付いたままのエスタの顎が凍りついていた。


 は?


 一瞬新手の日本人かと思いかけたが、範囲が限定的過ぎる。エスタの能力?

『お前、氷を使う能力だったのか!? いくら腹立てたからって、能力を俺に当てるのは酷くない?』

『そんなつもりなかったんですよ! アルスさん、助けて! 顎の感覚が無くて、動かなくて、冷たいんですよ!?』

『お前、自分の能力を食らったのか。馬鹿だなぁ』

『ううぅ~~……!』

 しかし、なんてタイミングで使ってくれるんだ。見られてないだろうな? フィーナ達の様子を伺ってみると、俺たちを見るのを止め、焚き木拾いをしていた。ほっ。よかった。

 急いで右脚に向けて回復能力を発動させる。これで凍りついた脚が……溶けない。

 よく見れば、エスタの顎の周りに陽炎が発生し続けていた。

『おいこら! 能力を使うの止めろ!』

『つ、使ってないですよ! どうしたらいいんですか!?』

 力が入りすぎて能力が止まらないか。どこかで覚えのある状態だな。エスタのガス欠まで我慢すれば力尽きて止まるだろうが、待ってられないなぁ。右脚が芯まで凍りついてモゲたりしたらヤだ。

『やむを得ん。恨むなよ』

『え、ちょっと、なにするんですか!?』

 エスタの首に俺の尻尾乗せる。


 パチッ


 エスタが物も言わずに気を失ってぐったりと伸びた。陽炎が霧散したので、改めて尻尾で回復能力を使うと、みるみるエスタの顎が解凍されていった。ふう、やれやれ。



 フィーナとリィザは焚き木拾いを続けている。辺りに危険な気配は無い。 

『目が覚めたようだな。クールビューティ・エスタよ』

『はい、ご迷惑をお掛けしました……』

 エスタはシュンと項垂れている。

『さて、クールビューティ。お前の能力は氷だった訳だが~』

『あの、クールビューティは止めてください』

『能力に合わせた良い二つ名だと思うのだが』

『良くないですよ!』

 我儘な奴め。


『また凍らせたりできるか?』

 拾ってきた枝をエスタに咥えさせる。

『やってみます』

 エスタが気合を入れて力んだ。すると、あっさり枝が凍った。

 エスタの顎ごと。

『つ、冷たい! アルスさん、助けて!』

 これは前途多難だな。

 エスタの額に右手を当てて回復してやる。エスタが回復した顎を開くと、凍った枝が転がった。


『あの、前から疑問に思ってたんですが』

『ん?』

『アルスさん、いくつ能力持ってるんですか?』

 あれ、言ってなかったっけ?

『電撃、念力、回復、転移の4つだ』

『……』

 エスタが黙りこんだ。

『どうした?』

『頑張れば増えるものなんですか?』 

『増えないんじゃない? 複数使ってる奴見たこと無いよ。俺も電撃以外は同盟の日本人から奪ったやつだし』

『奪ったって……』

 エスタが怯えるように、1歩引いた。

『なんか、めちゃくちゃ怒ったりした時じゃないと奪えないっぽいから安心したまえ。お前相手なら滅多なことでは怒らんよ』

『は、はぁ……ありがとうございます』

『まあ、そんな事より、能力発現おめでとう』

『ありがとうございます!……アルスさんの爆弾発言で自分の能力がちょっと霞みましたけどね』

『いやいや、結構強力な能力だと思うぞ』

『そう、ですか?』

『自分を凍らせたりしなければ』

『うぅ……』

 エスタがガックリと項垂れた。俺が回復使えて良かったな。

『使えるなら練習すれば上手くなるよ。俺もネズミ相手に練習したし』

『そうですよね、最初から上手くはいかないですよね!』

『じゃあ、明日から特訓だな』

『はい!』

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