40.教えて!アルス先生
なにから教えるか……カツラギが混乱したりするとうるさくて堪らんので、声の飛ばし方からかな……いや、いきなり心の壁とか言われてもポカーンだよな。よし、最初からいくか。
俺はフィーナの隣で丸くなった。今は夕食の前のマッタリタイムである。
『では、落ち着いて聞いてくれ』
『はい』
『ここは日本じゃない』
『それは……なんとなく察してましたけど……どこなんです? 日本語が通じるからハワイとか?』
その発想はなかったなぁ。つかハワイも日本語が通じるだけで地元の人は英語で話すだろ……
『実は地球ですらない』
『なにを言ってるんです? なにこの人? やっぱり変な人なんじゃ……』
『あー、あとな、お前の考えてること筒抜けだからな』
『う、うそ、だよ、そんな。あ、本当に変な人だ。どうしよう、エッチなこととかされたら……』
『変な人で悪かったな。エロいことなんぞするかよ』
フィーナの腕の中でカツラギが震えるのが見えた。
『え、え、本当に? そんな、困る! どうしよう、ええと、暗証番号、成績、0828、植木鉢!』
『0828、がなんだって? いいから心を落ち着けてくれ。やかましくて頭が痛くなってくる』
そうは言っても心を無にするなんて簡単にできないよね。なんか、心を読まれるとわかってかえって秘密を思い浮かべしまっているようだ。
『こんなことが起きるのは、ここが異世界だからだ』
『……異世界?』
『そうだ。魔法とかある世界に、お前は転生してきたんだよ』
『う、うそだ。私、死んでない、よ?』
『そうなんだよ、実は俺も死んだ覚えが無い。だけど、事実として異世界に生まれ変わってしまったんだ』
『そん、な……それじゃ、私が動けないし、目が見えにくいのは赤ちゃんになったから?』
『半分当たりだ。ちょっとショックを受けるかもしれんが……転生すると犬になってしまうみたいなんだ。お前は今子犬になっているぞ』
『え……? 嘘ですよね? そんなこと……』
『まあ、信じられないのはわかる。そうだな、自分の手を咥えてみろ』
カツラギがまた身動きする気配。
『え、なに、指が、形、え、え、え……手がこんなに膨らんで、体の感覚が鋭く、耳が、場所が、毛が、無駄毛、大きい、なんで!』
あー、あーうるさい!
『落ち着け! 騒いでもどうにもならん』
『そ、そんなこといったって、なんで……!』
『なんでこうなったか、は俺にもわからん。が、とりあえず、この世界のことを教える、というか、声の飛ばし方を教える!』
順を追って説明するつもりだったが、我慢ならん!
『……これで、できてます?』
『ああ、ちゃんと声だけ聞こえてるぞ。……ふう、やれやれ』
カツラギはあっさりと声の飛ばし方を身につけた。バリアの説明がわかり易かったらしい。まあ、日本人が皆やってることだからな、信じてたぜ。これで静かになった。
『で、あの……私はどうしたらいいんでしょうか……』
『まずはこの世界の知識を身につけつつ、大人しく体の成長を待ってくれ。俺はお前をここに縛り付けるつもりは無い。なにか目的が出来たら好きにするといい』
『目的って、言われても……あの、日本に帰りたいんですけど、なにか、方法の見当ってつきませんか?』
あー、あいつらならここで勧誘するんだろうな。方法ならあるかもしれない、協力してくれ! なんて今言われたら、カツラギは疑いもせず仲間になるだろうな。
『いいか、よく聞け。結構な人数の日本人が転生してきているようだ』
『え、そうなんですか!?』
『ああ、なんか同盟とかいって群れてるよ』
俺の言い方に険を感じたのか、少しカツラギが黙った。
『なにか、あったんですか? その、同盟にはアルスさんは入ってないってことですか?』
『そうだよ。入ってないどころか、敵対してる』
『敵対って……』
『転生した日本人は皆日本に帰りたがる。それの思いを利用して日本人を集め、悪さをしてる奴がいるようなんだよ』
『悪さ……?』
『戦争を起こしたりとか、村を襲ったりとかな』
『うそ、ですよね?』
『お前、言うことを聞いたら日本に帰してやるって言われて、突っぱねられる?』
『それが、本当に帰れるなら、聞いちゃうかも……しれないですけど、できるんでしょうか?』
結構冷静だな。話してて落ち着いてきたか?
『集まってる奴らはできるって信じてるようだな。何人かと話したことがあるが、研究中だって言ってたぞ』
『怪しい……詐欺じゃないんですか?』
『お前もそう思う? 俺も同じ意見。ああ、そういやちょっと前、誘われた時に突っぱねたんだけどさ。そしたら、絶対に来いって襲われてさ』
『襲われたって、なんでそんな?』
『なんか転生した日本人を見つけてくる、っていうノルマがあるらしいぜ』
『……怪しい』
カツラギとは上手くやっていけるかもしれんな。俺が思考を誘導しちゃってるかもしれんが。
『話しを戻すと、日本に帰る方法ってだけなら、その同盟が唯一の手掛かりだな。言った通り、怪しいけど』
『そうなんですか……』
『まあ、同盟に入りたいって言うなら好きにしたらいいけどな。俺を誘おうとはするなよ』
『アルスさんは、日本に帰りたくないんですか?』
『なんか記憶が曖昧でなぁ。そんなに日本に思い入れが無いんだよね。あと、ここが居心地が良くてな』
『ちょっと、わかる気がします……』
フィーナの胸に頬ずりするカツラギ。
『フィーナの素晴らしさがわかるのはいいが、動けるようになったら、そこからどいてもらうからな』
『……この子の事が好きなんですか?』
『そうだよ?』
『返事はやっ。よく見えないですけど、この子結構、若いっていうか……』
『多分、10歳前後だと思う』
『ロリコン、なんですか?』
ええい、どいつもこいつも!
『違う! 幼い女の子が好きなんじゃなくて、フィーナが好きなんだよ!』
『……』
今、心の中でうわぁって言わなかった?
『俺、転生して死にかけたところ、拾われてさ、命を救われたんだよ』
『……恩返しってことですか?』
『まあ、最初はそんな動機だったけどな。フィーナの母性を目の当たりにしていたら、フィーナが居ないなら日本に帰ってもしょうがないやって思えてきてな』
『あ、わかったんで、もう大丈夫です』
いや、わかってねぇだろう!? ぐぬ、まあいい、暫くここで暮らして俺の言葉の真実を知るがいいわ。




