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37.来訪者

 1度村人全員で村に降りることになった。準備もなく、焼け出されたように山に入ったので長期間は元々無理だったし、村の安全が確認されたからだ。当初の心配であった兵隊が略奪にくる心配は今では低くなっているし、もし来たとしても俺がなんとかする、と俺がババ様に保証したのも判断材料になったのかもしれない。


 村に降りてからは、皆が忙しそうに片付けや、死んでしまった人の葬儀などを行っていた。俺は手伝おうと思えば手伝えるようになったのだが、瓦礫だとかが俺の前でふわふわ浮かんだら流石に気味悪がられる気がするので自重し、連日警備と食料確保に務めた。


 元々食料が豊かではなかった村なのに蓄えがほぼ0になってしまったので、食料が足りない。もうウサギだとかタヌキだとか区別なく、狩りまくって配りまくった。俺1人で村全体を養うのは無理だが、腹を空かす人が少しでも少なくなればいいがな……腹が減るって辛いから。


 そうやって後片付けを続け、9日が過ぎた。


 

 片付けられるものは片付き、畑も手入れが始まっているが、家が再建されたりはしていない。そもそも、家を建てれる人が3人ぐらいしか居ないらしく、全然人手が足りないのだ。なので、フィーナ、サレアさん、おっさんは焼け残った家の壁を利用した掘っ立て小屋で寝泊まりしている。この小屋、おっさんが見よう見まねで作ったもので、見た目は割りと普通なのだが、雨が降ると凄い雨漏りする。寝てらんない。木の下の方がマシなレベル。幸いそんなに雨が降らないからよかったものの、なんとかしないとなぁと思って、日が暮れてから陽炎を伸ばして屋根を直したり、骨組みを整えたりしていたら、随分と器用に陽炎を使えるようになった。同時に3つまで物を持つことができるようになって、射程距離も2メートル程度から3メートルまで伸びた。非常に便利である。

  

 偵察は3日に1回やっている。アッセンまでの道を全力で半日走って、戻ってくる、という内容で、もし、この時に兵隊に出くわしても俺が全力で走って知らせれば、逃げる時間が十分にある算段だ。


『ババ様、行ってくる』

 今日は偵察の日なので、ババ様に門から声を飛ばし走り始めた。気分よく走り続けていると、行程の半分辺りで妙な視線を感じた。怒りのような熱い敵意なんだけど、殺意自体は無い、みたいな……なんだこれ? 


『ココ村にいたのね……』

 俺が立ち止まると、視線の元から声が飛んできた。この声は……

『キョーコ?』

 俺が呼びかけると、銀色の狼が森から出てきた。視線の通り、実に不機嫌そうだ。前に次は容赦しないと言ってあるので、俺も怒りたいんだが、なんだか言い出せない雰囲気だ。

『……』

『なんか用か?』

 ぶるり、とキョーコが震えた。あれ、なんかマズいこと言った?

『用、ね。もちろんあるわよ……』

『な、なんだよ?』

『あんた! 日本人に会う度にあたしの名前出したでしょ!?』

 あー……

『会う度ってそんな……2回ぐらいだぜ?』

『十分よッ!』

 歯を剥いて歯ぎしりしてる。

『そんな事わざわざ言いに来たのか?』

『そ、そんな事ですって……?』

 あ、ヤバい、なんか本気で怒らせたか?

『あんたがあたしに同盟の機密を聞いた、みたいに言ってくれたお陰で、あたしは裏切り者扱いよ!』

 あー……ショウゴか。やっぱり生きてたかぁ。それで話しを聞いて来たってことはそういうことかねぇ……

『ショウゴから聞いたのか?』

『そうよ! あんたねぇ、この世界で生きて行きたいってのは100歩譲って良いとして、あたしまで巻き込むんじゃないわよ!! 同盟からハブられたら日本に帰れないじゃない!!』

 確かにお怒りごもっともだな。

『それはスマン』

『謝り方が軽いッ! あたしはね、どうしても帰りたいのよ! どうしてくれんのッ!?』

『どうするもなにも……』

 ちょっと落ち着けよ。その同盟とやらの可能性とか信憑性の話をしたら水掛け論になりそうだしなぁ……話しを反らすか。

『この先のココ村、どうなってるか知ってる?』

『どうって……ショウゴ達があんたを勧誘しに行ったんでしょ? そうよ、そうだ! あんた、タイチ達を……!』

『聞け』

 殺気を出して黙らせる。タイチ達を俺が殺したのをショウゴから聞いたんだろう。だが、自分たちがやったことは知らせてないようだな。

『……なによ』

『村が焼き討ちにあった。死人も出ている』

『え……?』

 キョーコはポカンとして俺を見返してきた。

『なんで? 誰に?』

『ショウゴ達が連れてきたクズ共にだよ! 俺が戻るのが遅かったら、皆は殺されるか奴隷にされるかしてたんだよ!』

『そ、そんなことするわけないじゃない! わけわかんない!』

『じゃあ、、焼かれた家と新しい墓の数を数えに来るか? あぁ?』

『……っ!』

 話してると怒りがぶり返してきた。そうだよ、俺に用があるんなら、あんな方法を取る必要は無かった。

『そんなことするはずない、って言うけどな、お前だって俺がついて行かないって勧誘を断ったら襲いかかって来ただろうが』

『あれは、その……ノルマが』

『ノルマだと?』

『い、いや、なんでもない!』

 勧誘のノルマ? 知れば知る程胡散くせえな。

『じゃあ、ショウゴの奴らも同じだろ。手っ取り早く日本人を捕まえたいから最初から強行手段って訳だ』

『そんな訳ない!』

『あいつは、俺たちは村を襲っている奴らとは無関係だ、なんて言って近づいてきたぜ?』

『……』

 なんか面倒になってきたな。考えてみりゃ、こいつが納得しようとしまいとどうでもいいじゃないか。

『まあ、信じなくてもいい。ムカついて仕方ないなら、ここで俺を殺して首でも持って帰れば裏切り者の疑いも晴れるんじゃないか?』

 俺が投げやりに話を振ると、キョーコが驚いたように身を引いた。

『な、なんてこと、いうのよ……!』

『そもそも、お前が裏切り者がどうって言った時からそういうつもりだと思ってたんだが』

『そんな、殺すとか殺されるとか、いやなのよ、あたし! なんで男ってどいつも……!』

 じゃあなにしに来たんだこいつは?

『じゃあ、どうしたいんだよ、お前は』

『あんたがあたしの勧誘を受け『嫌だね』

 俺が言葉を遮ると、キョーコがまた歯を剥いて怒りを露わにした。

『いい加減にして!』

『こっちのセリフなんだが』

 思わずため息をついてしまった。ふむ、いい機会だから実験してみるか。

『さっき裏切り者だと思われてるって言ってたな?』

『そうよ、あんたがあたしに聞いたのなんだと言ってくれたお陰でね!』

『お前、俺に会いに来て、このまま帰ったら、本当に俺についたと……裏切り者だと思われるんじゃないの?』

『あ……』

 キョーコ、こいつ本当に考えなしだな。なんかオロオロしだしたぞ。

『え、あ、ど、どうしよ……あ、ああぁ……!』

『で、どうすんだ?』

 俺が急かすと、キョーコの気配が変わった。その気になったか。

『いいわよ。そんなに戦いたいならやってやるわ。いっておくけどね、あたし、結構強いのよ』

『そいつは怖いなぁ』

『このっ!』

 俺の挑発に反応してキョーコから陽炎が吹き出した。へぇ、前の時は確認し損ねたけど、他の犬の能力の陽炎と見え方が違うな。薄く糸のような陽炎が周囲に散ってなびいている。なんとなくイソギンチャクを思い出した。ん? なんだ陽炎の糸が集まって……ぱっと散って……うおッ!?

 いきなり俺の右肩がぱっくり裂けた。そんなに深くないが、範囲は広い。

『なんだ、まったく見えなかったぞ!? 一体どうやって……!』

『ふふん。見て躱せるもんじゃないわよ。首を落とされたくなかったら、大人しくあたしと来なさい』

『え、カマイタチってそんなに威力でるもん?』

『え……』

『あ……』

 しまった、もっと色々使わせて観察しようと思ってたのに。こうなってしまっては仕方ない。

『あんた、なんでわかって……』 

 陽炎の動きと、以前キョーコが風使ってたので見当つけただけなんだけどね。さて、と。


 転移する。


『は?』


 俺はキョーコの頭上に出現し、容赦なく、キョーコの陽炎に噛み付いた。薄く広がっているので、大きく首を振ってなるべく口の中に入るようにしてみた。そしてキョーコの背中におぶさるように着地。


『な、なん……!?』

 消えていきなり降ってきた俺に、キョーコは混乱の極地だ。そんな銀色の狼を押さえつけ、念じてみる。風よ吹け。


 …


 ……なにも起こらんな。


『あんた! ど、どうして!? ど、ど、どきなさいよッ!』

 やはり、ちゃんと食べないと駄目なのか?

『なんとか、言いなさいよ! え、あっ!?』

 キョーコを押さえつけながら、首に噛み付いた。ぐっと力を込める。

『あ、あぐ……た、たすけ、て……』

 口の中に血の味が薄っすらと染みだしてきた。それを丹念に舐めとる。

『ひ、ひっ……!』

 首を開放すると今度は肩口に噛みつく、同じように傷を負わせて今度は肉の一欠片も頂く。

『あ、あっ! ひぃっ!』

 それからキョーコの上からどいた。


『お願い、助け……え?』

 願い通りに助かったというのに、ポカンとしているキョーコの傷を治してやる。

 それから、また風を吹かせようと頑張ってみるが、思い通りにいかなかった。

 んー、駄目かー。実際に食べる量じゃないよな? タイチの能力は食いついてる最中に奪ったし、ショウゴに至っては触れてもいない。やっぱり、結界ってやつが無いと奪えないのかな。実験終了。


『一体、なんなのよ……』

 キョーコはヨロヨロと立ち上がると、力なく俺を見つめてきた。

『ちょっと実験をね。ショウゴから聞いてない?』

『なんのことよ……』

 俺のことも秘密か。キョーコは裏切り者だと思われてるから話さなかっただけか? 判断がつかんな。

『俺、日本人の能力を奪えるみたいなんだよね』

『は……?』

 キョーコが口をかぱっと開けた。

『やっぱり珍しいのか?』

『え、っていうか、本当なの!?』

『今ワープしたの見ただろう? こんなことが最初からできるなら、アッセンで追い詰められたりしなかったぜ?』

『そ、そうよね……で、でも、奪えるなんて……そんなの、聞いたことも』

 やっぱりかー。俺がレアものなら、また来るかもなぁ。ショウゴとかそこの辺が。


『って、奪えるってあんた!? まさか、あたしの能力を……!』

『いや、ちょっと失敗したわ。調子悪かったみたいでな。不安なら使ってみろよ』

 キョーコがすぐに風を起こした。

『よかった……能力まで奪われたら、あたし……』

『はい、よかったね。じゃあな~』

『待ちなさいよ! あたしはこのまま帰る訳にはいかないんだって、あんたも言ったでしょうが!』

 あー面倒臭い。ここでキョーコを締めあげて本拠地の場所を話させるのも手だけどなぁ。こいつのキャラのせいで拷問とかやりずらい。しょうがない、次善策だ。

『いいか、お前は身の潔白を証明する為に俺に挑んだが負けた』

『な、なにを言って』

『いいから聞け』

『は、はい』

 なんだ、妙に素直になりやがって。

『それで、二度とお前たちと関わりあいになりたくない、静かに暮らしたい俺は、お前にメッセージを託した訳だ。今度ココ村に近づいたらお前たちの根城を突き止めて滅ぼしてやる。俺の能力でお前たちの能力を全て奪ってやるぞ。ってな』

 キョーコは神妙に頷いた。

『わかった、そういう事にした方があたしも都合が良さそうね』

『だろう? ショウゴが話してない俺の能力をお前が知ってるなら多少の信憑性は出る。わかったならなら行け。言っておくが、何度も使える言い訳じゃない。お前も二度とくるなよ』

『そんな言い方……!』

 なにやら不満そうだったが、キョーコはアッセンの方に走っていった。

 あの言い訳、結構苦しいと思うけど、頑張ってな。言い方によっちゃ、めっちゃ俺のスパイっぽく見えちゃうよね。まあ、それぐらいはキョーコでもわかるだろ。


 さて、結構時間食っちまったな。キョーコがこの道をそのまま走っていったことから察するに、兵隊がこの道を通ってきていないようだし、帰るか。

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