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36.お掃除

 実に豊かな目覚めだった。フィーナの体温、寝息を感じながらの微睡み、起きたフィーナに優しく撫でられながら起こされた。今まで当たり前のようにあったこの目覚めがいかに大切なものか、はっきり理解した。

 フィーナは横になったまま目を柔らかく細め、俺を見つめながら指先で俺の額を撫でた。俺は少し身動ぎして鼻面でフィーナの顎に触れた。俺の甘ったれた仕草をフィーナはただ微笑みで受け止めると、その可愛らしい鼻を俺のそれに押し付けてくれた。はぁん……


 そんな感じでフィーナと戯れていると、ぼちぼち村の皆が起き上がり、身なりを整え始めた。村の人達は隠れているだけでなにもすることが無いので、こんなに早起きする必要は無いと思うんだが、普段の習慣だろうか。ん~、もうちょっとこうしてたいんだけど、そろそろ出ないといかんか。フィンがこっち見てるし……やれやれ嫉妬かい?



 ババ様から精霊様のお告げだ、と昨日の俺の報告を村の皆に発表した。村にとっては良い知らせの方が多かったので、皆が表情を綻ばせ、家族と語り合っている。そして、村の安全の確認にフィンと俺が行くと告げられた。


「もう、アルスばっかり……」

 また俺が別行動する、と知らされたフィーナは不機嫌そうに俺の尻尾の毛をひねっている。まあ、今回は今日の内に帰ってくるからさ……あの、それ、結構痛いんですけど、フィーナさん。

「なるべく早く帰ってくるよ。アルス、今日も頼むよ」

 フィンは既に出発の準備をしていた。弓と矢筒を背負い、鉈を腰に挿して、武装も万全だ。

 さて、行くか。フィンなら俺も気が楽だな。色々既に見られてるし。そういや、フィンは俺のことどう思ってんだろ?


 フィンと一緒に山を下る。どうやら目撃されて小屋の場所を悟られないように、わざと道を通らず、遠回りをしながら下るようだ。流石にもう大丈夫だと思うけど、確かに用心は必要だ。俺はフィンよりも先行し、匂いと気配を探ったが、クズ共を見つけることもなく、村まで下りてこれた。

 

「これは酷いな……」

「ワゥン……」

 村を歩きながらフィンは呟いた。改めて見ると確かに村は酷い有様だった。家は殆ど燃え、畑は火事が燃え移ったり、踏み荒らされていたりで荒れている。特にまずいのは、食料を溜めておく為の倉庫が焼かれてしまったことらしい。フィンが畑の脇にあった倉庫の残骸で青い顔をしていた。確かにひょいとどこかに買いに行こうにも店が無いし、現金もあるか怪しいよな、この村……援助を求めようにもアッセンはココ村よりも酷い状態だし、暫くすると戦場にもなるだろう。そうなると物流は絶望的だよな……無事だった畑の作物でどれぐらい凌げるのかなぁ。詳しくないんで、予想だけど今畑に植えてあるのは葉っぱばっかりで実がない状態の作物ばっかりのような……もしかしなくても、ヤバいのか。


 フィンは村長さんの家に向かっているようだ。俺はタルサの事が気にかかっていたので、丁度いい。

 

 暫く歩くと村長さんの家が見えてきた……家の前に何人かクズ共が居るな。それを見てフィンがゆっくりと身を低くし、草むらの陰に隠れた。急に動くと目を引くからゆっくり動いたのだろう。おお、なんか手練っぽいなフィン。ちょっと見なおしたが、フィーナはやらんぞ。

 

 身を隠しながら近づくと、クズ達の話し声が聞こえてきた。

「……だから十分に待ったって言ってんだよ。マークスと犬共が死んでて、仲間も大勢やられた。ゼークストさんも帰ってこねぇ……なんだか知らねぇがヤバい」

「だからって、ゼークストさんを置いていくってのは……」

「ここに長居したら、犬共をヤッた奴が戻ってくるかもしれないんだぞ?」

 どうも、戻ってきましたよ。俺とフィンはクズ達と村長さんの家を挟んだ反対側に身を潜めた。気配からすると、家の前に5人。家の中には誰も居ないようだ。タルサ達は逃げたようだな。村に居るクズはこれで全部、なのか?

「それは、そうだが……」

「わかってんならいくぞ!……そうだ、村の中に何人か隠れてるようだからよ。そいつらを何人か捕まえて手土産にするってのはどうだ?」

「そうだな……このまま帰ったんじゃ、丸損だからな。ほら、若い女が何人かいただろう。あれを探そうぜ」

「あー、あれな! 結構美人だったよなぁ、へっへっへ」


 やっぱりこいつらクズだな。フィンの方を見ると、次の行動を迷っているようで、目を泳がせている。考えてみれば、向こうは5人、こっちは1人と1匹だからなぁ。不安にもなるか。だが、心配無用だぜ。ゼークストが5人だったら俺も逃げるけど、あんな油断してるクズ5人など物の数ではないわ。俺はフィンをつつくと、顎であいつらの方を指してからニヤリと笑いかけた。フィンは呆れたような苦笑いを浮かべてから、ゆっくりと家の壁に沿って表に近づき出した。俺はフィンとは逆側から回り込む。合図のしようがないので、俺から先制攻撃をかけてやるぜ。ひょいと角から除くと5人のクズは荷物を纏めようとしているところだった。見張りも無く、全員で作業してやがる。本当に隙だらけだな。


 俺はひょい、と出て行って。普通に近づく。


「ん? なんだこの犬?」

「犬……?」

「黒い犬じゃねぇか、お前、これ……!」


 俺が普通に歩いてきたので、クズ達は武器も構えず、相談を始めるような素振りを見せた。俺はその隙に陽炎を伸ばす。1番近くのクズの首に巻きつけ、電撃を流した。


 バヂヂヂィ!


「カッ!?」

 うお、思った以上に派手に電撃が飛んで命中したように見えるな! 掴んでからの電撃だから今までとさほどやることは変わってないんだが、まるで飛び道具を使ったかのようだ。そうか、タナカの炎ってこうやって撃ってたのかなぁ。

 首に電撃を流されたクズは体を強張らせて白目を剥き、倒れた。


「なっ!?」 

「やっぱり堕ちた獣だぁ!」


 失礼な、違うってーの。慌てて逃げようとするクズ共だが、最初の1人に電撃を流して直ぐに、次のクズに陽炎を結んでいたので、すぐに電撃を流す。


「アギュッ!?」


 2人目が倒れるが、残りの3人は悲鳴も上げずに走りだした。駆けっこで犬に勝てると思ってるのか? あぁん?


 俺は小走りでひょいとクズ3人に追いつくと、陽炎で3人の脚を薙ぎ払って転ばせた。倒れたところに飛び乗り、手足4本を使っての電撃を流して2人を無力化。残り1人は電撃を使わず、目の前の地面を思いっきり陽炎で叩いてやる。ズドンっと重い音と共に地面がへこんだ。

「ひ、ひぃぃ……」

 最後のクズ、スキンヘッドの男は、それを見て腰が抜けて動けなくなったようだ。よしよし。フィンが慌てて駆け寄ってきた。結局俺1人でやっちゃったね。


「アルス、あんまり危ないことをするなよ……怪我したらフィーナが泣くぞ」

 こんなの危険の内に入らんよ。だけど、フィーナの名前を出されると弱いな……一応軽く唸って返事しておく。

「お、お前ら、なん、なんなんだよぉ!」 

 泣いても許さんぞ、クズ。さて、尋問は任せた、フィン。



 フィンがスキンヘッドを村長さんの家の側の木に縛り付け、仲間の数やら、捕まえた村人は居ないかなどを尋問していると、その姿をどこからか見たのか、隠れていた村人達が集まってきた。

「フィン!」

 集まってきた村人の中にはタルサもいた。土埃であちこち汚れていたが、フィンを呼んだ顔は輝いていた。……おや? フィンに抱きついたぞ? ははぁ、フィンさんも隅に置けませんなぁ。

 俺にニヤニヤと見つめられてフィンが居心地悪そうにしているが、フィンに抱きついたタルサは何事かフィンに語りかけ、構ってほしそうにしている。ふんふん、ふーん?


 集まってきた村人はタルサも入れて11人。みんな口々にフィンを褒め称えていた。お前は勇気がある、流石はババ様の孫だ、こんな大勢と戦って勝つなんて凄いわ! などなど……なるほど、この人達からすると、フィンが自分たちを助ける為に駆けつけ、悪人どもを倒したようにみえるのか。そりゃ、タルサも感激するわ。

 手柄を取られた形だが、まったく気にならない。というか、アルスがやったんですよ、と本当のことを言うと色々と説明しなければならなくなるので、モゴモゴと相槌だけ打ってるフィンが面白すぎたので、手柄などいくらでも譲ってやるわ。

 しかも、そのフィンの様子が村人達には謙虚な好青年の態度に見えるらしく、さらに評価が上がったのも面白い。

 クズ、お前は黙っていろよ? こちらを伺っていたスキンヘッドにひと睨みしておいた。


 さて、合流出来ていない村人や、隠れているクズがいないか確認しないとな。村を1周してくるか。


 鼻を駆使して探したところ、クズは見つからず、村人3人を発見した。一応俺も村では有名人だったので、怖がられる事無く隠れていた人を村長の家に誘導することができた。


 その日は午後に山に入り、生きている村人は無事合流することができた。

 そうそう、タルサが離してくれなかったので手を繋いだまま現れたフィンを見たリィザが唖然としていたのは傑作だったね。


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