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35.再会

 ゼークストが、身を強張らせて倒れた。あー、しんどかった……


「フィン、大丈夫か!?」

「あ、あぁ……」

 岩の向こうから話し声が聞こえた。フィンは生きてるみたいだな。良かった、フィンに死なれたんじゃ、キッシュに顔向けできねぇからな……

 

 ゼークストに念の為の追い打ちをかけたいところだが、その前に……俺の吹っ飛んだままの右腕を拾いに行く。

 結構グロいな、犬の右腕だけって……さて、陽炎で右腕を掴んで、切断面を合わせて、慣れてきた回復能力を発動させる。

 頭がクラクラするが、なんとか発動し続ける。せめて、くっついてもらわんと、フィーナに無駄な心配かけちまうからな……


 暫く続けると、なんとか繋がってくれた。一安心だ。

 ちと、感覚が鈍いが、あとでもう1度回復かけとこう……今はもう駄目だ、疲れた。


「アルス、どこに行ったのかと思ってたよ。フィーナが心配していたぞ」

 フィンが歩いてきた。怪我は……あちこち切ったり打撲傷があるみたいだが、元気そうだな。さて、フィーナのところにつれてってくれよ!



「アルスッ!!」

 フィーナ! ふぃーーーーなぁあああああ! フィーナの姿が見えた瞬間、全てのことが吹っ飛んだ。ちょっと疲れてるとか右腕の調子とかどうでもいいぜぇ! フィーナに跳びつき、舐める! 舐める!

「良かった、良かった! 心配したんだよ、アルス!」

 俺に顔を舐められながらフィーナは笑い、泣いていた。心配かけてすまんかった。もうどこにも行かないぞ、ふぃーなぁあああああああああいい匂い! いい匂いってだけでない、生命の匂いとでも表現するべき安らぎの匂いがする。あぁ……!

「喜んでるんだか暴れてるんだか、わからないな」

 ええい、フィン、余計な事言って水を差すんじゃない! 道案内ご苦労だった。下がっていいぞ。


 ココ村の人たちは岩場の端にある広い岩棚を拠点にしているようだった。小屋って聞いていたが、実際は小屋というよりは岩の陰に板と布を渡して小屋っぽくしただけの代物だった。大変見窄らしいが、どうやら中はそこそこ広いらしい。その小屋の周りに皆が集まって、さらに家族ごとに集まっていた。今は日も暮れてきて、火を焚く訳にもいかない村人達は保存食料で夕食を済ませ、寝る準備を始めているところだ。準備といっても布を一枚広げるだけだけど。

「落ち着いてきたみたいね?」

 フィーナが膝枕した俺の頭をゆっくりと撫でながら呟いた。そんなに興奮してるように見えましたかね? してたか。してたね。だけど、もう疲れが勝ったというか。考えてみれば、村を出てから殆ど寝てないし、食べてない。フィーナの膝枕の力も相まって、もうダメ。今日はこのまま寝る。

「アルス。ババ様が呼んでるよ」

 そこにリィザがやってきた。おう、お前も無事だったのか……明日じゃ駄目?

「明日じゃ駄目なの? アルス疲れてるみたいで……」

 フィーナが俺の心の声を代弁してくれたが、リィザは渋い顔をしていた。

「それがね、一刻も早くって……」

 不意にババ様が以前言っていた、アッセンまで声を飛ばしたらわしの命が吹っ飛ぶ、みたいなセリフを思い出して、腹がすっと冷えた。すまん、フィーナ、ちょっと行ってくる。立ち上がった俺をフィーナは心配そうに撫でた。

 

『……アルス、ご苦労だった』

 ババ様は小屋の中の1番奥に敷かれた布団に寝かされていた。起き上がることもできないようで、飛んでくる声も弱々しい。

『ババ様、声を飛ばしたから……?』

『はっ! 元々こんな皺くちゃじゃ、声を飛ばさずとも、いつ精霊様に呼ばれてもおかしくないところよ』 

 それより、とババ様は続けた。

『アッセンで、何があった?』

 俺は少し迷ったが、ババ様に全て話すことにした。アッセンが占領されていたこと、ココ村には兵隊が向かっていないこと、日本人が転生した犬のこと、偵察隊がきていたので、近々アッセンが取り戻されるのではないか、ということ……村を襲ったのは日本人であること。そいつらは粗方倒したこと。


『ニホン人とは好戦的なのか……?』

『俺の記憶では平和を重んじる国民のはずなんだが……自分の国に帰りたいって日本人を利用してる奴がいるみたいだ』

 転生した日本人が居ないか、あちこち探しまわって、こんな田舎にまで来るぐらいだ。日本人の利用価値を見出した、かなり重要なポストの人間だろう。

『お前がココ村に居てくれなければ危ないところだったな』

『いや、そんなこと……』

 そうだ、むしろ、今回のことは俺が居たから襲われたようなもんだ。恐らく、市場の時には駄々漏れだった俺の心の声を、商隊の護衛に紛れていた諜報員に聞かれたんだろう。

『孫のフィンの事も助けてくれたと聞いている』

『あれは、キッシュのついでだよ』

 わりと本気で言ったのに、照れ隠しのように取られたのか、ババ様が少し笑った。


 明日、ババ様は俺から聞いたことを村の人たちに話すらしい。

 それから村に偵察に降りてみることになるだろうから、それに付き合ってくれ、と言われた。NOと言えるはずもない。こんな山の上で寝泊まりして、発見されるのを恐れて火を焚かないでいたらババ様じゃなくても体を壊す。一刻も早く村の安全を確認しなくては。正直なところ襲撃してきた奴らの戦力は8割以上壊滅させた気がするが、村を見まわりした訳じゃないから、まだ数が残っている可能性がある。フィーナ達を下山させるのは危険だ。……そういえば村にタルサが居たな。連れてくる訳にもいかなかったが、大丈夫だろうか。

 ババ様の所からの帰り際に、力を振り絞ってババ様を回復してみたら、ババ様は楽になったと驚き、起き上がって、リィザを仰天させていた。このまま死ぬものだと思っていたらしい。本人を前になんてこと言うんだこの孫は。


 フィーナのところに戻った。まったく時間はかからないが、人がひしめいてるので非常に歩きにくい。

「お疲れ様、お肉食べる?」

 フィーナが夕飯を待っていてくれたので、一緒に干し肉を齧った。フィーナと肩を寄せあって食べる肉の美味しさよ。


 そして、その日はフィーナと寄り添って寝た。いつもよりフィーナがくっついてきている気がする。ふふ、この甘えん坊め。なんて思ってたら「クシュン」とフィーナがクシャミをした。ああ、そうか、毛皮もなんにも無かったら寒いよね。俺の毛皮で良ければたんと使うといいよ……

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