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29.炎の犬

「うっ!?」

「なんだっ!?」

 デカイ人とヒゲが声を詰まらせながら怯み、2人が乗っていた馬が驚いて悲鳴をあげた。

 ブルドッグが吐き出した炎はすぐに宙に溶けたが、間を置かず再び吐き出された。


 おいおいおい!!

 あれ、中身、日本人だろ? 妙な力を持ってる犬、だもんな!?

 キルグフィッツ王国の偵察隊を襲うってことは、日本人軍団はオーグライド王国についてるってことか?

 キョーコ、あのアマぁ……1番重要なことを黙ってやがったなぁ……!

 アッセン村襲った国の仲間なら最初から敵じゃねぇかごらぁ!!


「ヒヒィーーーン!!」

 突然の火の波状攻撃に混乱をした馬が立ち上がり、それぞれの騎手を振り落としてしまった。

 おい、大丈夫か!? でかい人、頭から落ちたように見えるぞ?

「これは、堕ちた獣!?」

「リーディン様!」

 ちょっと離れていた3人が馬から降りてヒゲの近くに走り寄ってきた。

 そこに放たれる炎。

「ぎゃあああ!! ああっ!! あぁああ!?」

 駆け寄ってきた兵士1人に火が着いた。地面に転がって消そうとしているが、なかなか消えない。

 兵士達は浮足立って犬に近づけないようだし、連携できないようだ。

 これは見てる場合じゃないぞ!?

 この人達がここで全滅したら、本隊の到着が遅れたりするんじゃないの? そうなると、ココ村に危険が及ぶ確率が高くなるだろうが!

 だが、知らん人達の前で戦うのはなるべく避けたい……よし、試してみるか。

『待て! 予定は変更になった! すぐ戻れ!』

 ブルドッグはすぐ反応した。ぎょっとして炎が途切れる。

『ど、どういうことだ? 導師は今回は遠慮するなと言っていたぞ?』

 ブルドッグはバックステップで偵察隊から距離をとった。

 導師? 偉いやつっぽいな。

 いや、それよりも、どう答える!? えーと……

『お、俺は知らん! とにかく呼び戻せと言われたんだ!』

『知らないって? なにがあったかはわかるだろう!』

 やっべぇ、適当に言い過ぎた。えぇ、と……

『キョーコが大怪我をしたんだ! それが関係してるのかも!』

『キョーコが?』

『ああ、死ぬかもしれない。早く戻ってくれ』

 名前が通じたな。はい、仲間確定。さあ、帰れ帰れ。

『……お前、日本人か?』

 え、どうしたんですか、いきなり……日本人ですれど?

『姿を見せろ』

 いやいや、お目汚しをするわけには……

『どうした? ……見せられないのか?』

 怪しまれちゃった……くっそぉ! やってやらぁ!

 俺は草むらから飛び出した。


「ひっ! こっちにも!?」

 地面を転げまわっている兵士以外の4人が俺の姿を見て驚き竦み、その中の1人が悲鳴混じりに叫んだ。

 向こうからしたら堕ちた獣に挟まれたって感じだもんな。ちょっとそのまま驚いてて。

『お前、何者だ!?』

 なんとかすぐ終わらせてみるからさ。

 ブルドッグは俺を見て、すぐに仲間ではないとわかったのだろう。怒りと戸惑いの臭い。

 俺は近づきながら電撃を口の中にチャージする。

 ブルドッグはなんかやろうとしてるけど、残念、俺の方を見てるなら何しても一緒。


 バァンッ!!!


 口の中で電撃同士をぶつけ、閃光と爆音を発生させる。

『ぎっ!?』

「うっ!?」

「わぁっ!?」

 ブルドッグと同時に偵察隊も怯む。巻添え失礼!

 俺は閉じていた目を開くと、ブルドッグに飛びついた。

 右肩と脇腹にそれぞれ両手をつく。


 パチッ!


 ブルドッグはビクンッと体を跳ねさせ、倒れた。

 流石に殺すのは忍びなかったので、手加減して無力化を目指してみたけど、なんとかなったかな?

 さて、では首でも咥えて引きずっていくか。男の首なんて咥えたくないけど仕方ない。

 俺がブルドッグの首に顔を近づけると、ブルドッグの体の周りに陽炎が舞っているのに気がついた。

 ん? これ、なんかまずい気が……するぞっ!

 俺が飛び退くと同時にブルドッグが燃え上がった。まるで爆発したかのような勢だ。

 手加減し過ぎた! くそ、毛が焦げちまった!

『お前、何者だ……!』

 さっきのセリフを繰り返し、メラメラと燃えながらブルドッグが立ち上がる。

 ヤバい、超強そう……。会話できる相手だからか、イノシシの時みたいな威圧感は不思議と無いけど。

『だんまりか? じゃあ、喋りたくなるようにしてやる』

 俺、相手が金属を身につけてない限り、接触しないと電撃を送り込めないから、燃えられたままだと詰むな……どうしよう。

 つか、俺は自分の電撃食らって大ダメージ受けたことあるのに、こいつは熱くないのか?

 不意に、ブルドッグからもやもやとした陽炎が伸びてきた。

 なにこれ? さっき燃え上がる前に見えたやつか?

 もちろん避ける。すると、陽炎の後をなぞるようにブルドッグから炎が発射された。

 あっちぃ!! 直撃しなくても超熱い。こんなの反則だろ!

 今度は扇状に陽炎が広がってきた。バックステップで距離を取るとすぐに目の前が火の海になった。

 熱風に炙られ、鼻が乾燥して痛み、ヒゲが曲がった。

 こんなん連射されたら近づけない。目眩ましを使っても燃えられてたら触れない、本当にどうしよう。

 焦燥感に鼓動が早くなる。自分から仕掛けておいてなんだけど、逃げたい。

『なぜ避けれる!? くそっ!』

 ブルドッグが苛立たしそうに叫んだ。あれ、なんでこいつがムカついてるんだ?

 また、陽炎がブルドッグの口元から伸びてきたので避ける。

 一瞬の後、火炎放射。

 間を置かず今度は2本。大きく左に跳んで躱す。

『お前、何者だ!?』

 そのセリフ好きだねぇ! さらに3本同時に来たので跳んで這って躱す。

『こんな、避けられるはずが!』

 こんな前フリあったら避けれると思うんだけどなぁ。

 ブルドッグがなんか1人で焦ってる。


「リーディン様、これは……!?」

「縄張り争いかもしれん。堕ちた獣同士の戦いなど初めて見たが」

 駆け寄ってきた兵士の1人とヒゲの人が俺たちから離れながら会話を始めた。

 縄張り争い……この状況見たら確かにそれが一番自然な解釈か。あながち間違ってないしね。


 苛立たしげに特別大きな火炎放射がきたので、また避ける。

 ん? ブルドッグ自身の燃えっぷりがささやかになってきているような?

 ガス欠か! そういやそうだな、俺も全力で放電し続けると出せなくなるもんな。

 よし。

 

 俺は口に電撃を溜め、ガバッと開く。


 ブルドッグはぐっと目を瞑って、自身の纏う炎を爆発的に大きくした。

 残念でした。

 俺は閃光を放たないし、近づきもしない。

 ブルドッグに燃費の悪そうな技を空撃ちさせてやった。コンロの強火はガスの消費量と得られる熱量のバランスが悪いらしいですよ、ブルさん?

 俺のフェイントに気がついたブルドッグは、怒りに目をギラつかせ、火炎放射を連射してくるが、俺には当たらない。

 俺は再度口を開け、今度は本当に光る。


 バァン!!


『クソォ!?』

 目が眩んでしまったブルドッグは纏う炎を強火にせざるを得ない。

 もちろん俺は近づかない。

 おやおや、随分火の勢いが落ちてきましたよ? そろそろ消えそうですなぁ。

 俺、性格悪いかな? いや、これは戦いなんだしょうがない。こんな火を吹くようなのと正面から殴り合える訳ないわ。

 

 火炎放射が5メートル以上も飛んでいたのが、2メートルあるかないか程度とガクッと下がった。

 俺はその分距離を詰める。

 2メートルなんて、一息で跳びかかり噛みつける。牙の射程圏内だ。

 ブルドッグが焦っているのが手に取るようにわかる。

 火炎放射を撃つ回数が減った。……というか、撃とうとして発射できてないのか? ブルドッグの口元に陽炎だけが中途半端に散るだけで炎が出ない場合が2回に1回ほどある。

 仕掛けるか。

 俺は火炎放射の空打ちに合わせて、地面を這うように駆けた。

 で、すぐにバックステップ。

 その直後、ブルドッグが今までで最大級の炎を自身から発生させた。爆発したかと思った。

 当たってないけどね。あんなに陽炎出してたらわかるってーの。

『な……なんで……』

 ブルドッグが呆然とした声を飛ばしてきた。

 こいつ、自分で出してるのに陽炎が見えてないってこと? そんなことあるんだろうか。


『だ、だめ、だ……』

 今ので完全にガス欠らしい。

 まったく炎を纏わなくなり、陽炎がまったく見えなくなった。

 さっきから思ってたんだけど、こいつ声漏らしすぎじゃない? フェイントだったらヤバかったけど、全部素の声だし。

『ネタ切れか? じゃあ、仲間のところに帰れ』

『……ああ、わかった、よっ!』

 ゆっくりと後ろを向く素振りをした後、ブルドッグが跳びかかってきた

 狙ってるのは俺の首筋。


 バヂッ!!


 はい、お返し~。

 俺は電撃を纏って迎撃してやった。

 ぱっくり開けた口の中に電撃を食らって、ブルドッグがのたうち回ってる。

 のたうつのを両手でぐっと抑えると静かになった。

 王手です。

『俺、どれぐらいの電撃で犬が行動不能になるか試してみたいんだけど、実験していい?』

『た、たた、助けて、くれ……』

 本気じゃないんだけど、凄い怯えられた。ちょっとショック。

『もう、こいつらを襲わない。た、助けてくれ。命だけは!』

 ん~、キョーコの時と違ってこいつには借りが無いんだよなぁ。もう襲わないとか言ってるけど、正直信用できない。

 でも、尋問、脅迫しようにも、偵察隊の人がこっち見てるし、あんまり長い時間こうしてられないな。

『まあいいや。日本人を殺すのも目覚めが悪そうだし』

 両手を離してやる。

『さあ国に帰れ、真っ直ぐに全力で。言っとくが俺を見張ろうとしてもわかるからな』

 1番自信のないところを全力でハッタリかましておく。

 ブルドッグはゆっくりと起き上がると、のろのろと南の草むらの方へ向かっていく。

『お前、何者なんだよ……』

 本当にそのセリフ好きだなぁ。

『アルスだよ』

 あ、名乗っちゃまずかったか? まあいいや、キョーコには言っちゃったし。

『俺はタナカだ』

 え、名乗り返してきたぞ。ちょっと可愛いじゃないか。

『じゃあな、タナカ。もうかち合わないことを祈るよ』

『……俺もだ』

 タナカは俺の言った通り、脇目もふらず帰っていった。

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