28.風去って
キョーコの気配が完全にわからなくなったが、油断はできない。
最近、気配を殺して近づかれることが多いからなぁ。俺、気配察知能力はそんなに高くないのかな……犬としての自信なくすわ~。
暫くは見られているつもりで行動するか。
とりあえずココ村に真っ直ぐ帰るのは止めよう。
丸一日フィーナに会ってないとか寂しくて死にそうだけど、止めよう。
まずは移動だ。
地図をちらっと見ただけだが、オーグラド王国ってのは東にあったのは覚えてる。
よし、西だな。
俺は崖を降りると、森の中を暫く西に走った。
森の雰囲気はココ村の周りとさほど変わらない。問題なく走れる。
追跡されている感じはしないが、自分の感覚が信用できない。
急に止まったり、急に引き返してみたり、全力で走った後曲がってみたりと、昔どこかで見た尾行を巻く手段をとってみる。
果たして、このテクニックは森の中でも有効なのだろうか。わからん……相変わらずこっちに悪意を向ける気配は、感じない。
悪意を向ける気配と、限定するのは、森の中に結構人間が隠れてるんだよね。
多分アッセン村から逃げ出してきた人たちだろう。
アッセン村をなんとかできたらいいんだけど、ちょっとあの女指揮官とは会いたくないんだよなぁ。
あ、勝手にあの女を仕留める想定だけど、指揮官を潰したら残された兵隊はちゃんと撤退するのかな? 逃げ帰りそうなイメージだけど、保証も無いしなぁ。
んー、どうしたもんか……
暫くすると隠れている人の気配が無くなってきた。
森を出て位置を確認してみると、アッセン村の篝火が地平線に僅かに見えた。
結構走ったなぁ。よし、ここらで静かに潜伏して朝まで様子を見るか。
追手め、キッシュ直伝の対ウサギ隠れんぼスキルを見破れるかな?
……ウサギ。ウサギか。そういや、腹減ったなぁ。
俺は腹の虫で居場所がバレたりしたらヤだな、とか思いつつ手頃な茂みの中に潜んだ。
夜が薄っすらと開け始めた頃、地面を伝わってくる振動にはっと顔を起こした。
ドドドド、と地響きのようにかなり遠くから響いてくる。
なんだこれ? じっと集中していると、1つ1つの音、足音は聞いたことがある気がした。馬かな。これは複数の馬の走る音だ。
結構な勢いで西の方から近づいてきてるなぁ……ちと様子を見てみるか
ちょいと森の端の木の陰に伏せ、道の方を眺めていると、騎乗した一団が騒がしくやってきた。
騎兵の数は5騎。全員お揃いの革鎧を纏い、剣を下げている。
騎兵達は俺に気付かず、アッセン村の方に走り去っていく。
ふむ、来た方向からしてココ村が所属するというキルグフィッツ王国の兵士だろうな。
あんな人数で何百人もいる敵兵をどうにかする訳じゃないだろう。多分偵察だな。俺と同じだ。
キルグフィッツの兵隊がアッセン村を奪い返しに来るなら、あの外道共はココ村に略奪にくるどころの話じゃないだろう。
このまま帰りたくなったが、俺の想像だからなぁ。確認しておこう。
俺は森に入って騎兵の後を追った。
騎兵隊は俺が隠れていたところからさほど離れていない場所で停止した。
アッセンの方を指さし、何事か言い合っている。
ちょっと聞き耳立てたいけど、遠いなぁ……草の背は結構高いからなんとか近づけるかな?
まあ、見つかったら野犬のふりして逃げればいいや。
俺は無の心で気配を消し、草むらの中を這って偵察隊に近づいた。
「……では、アッセンの村人は!?」
「落ち着け、全滅とまでは言っておらん」
これぐらいでいいかな。偵察隊の5メートル後方まで近づくことができた。
大柄な兵士がヒゲのおっさんに声を荒げている。
ヒゲのおっさんは落ち着かせようとしているようだ。
残りの3人はアッセンの方を眺め、なにか話し合いながら板になにか書きつけている。
「生き残っている村人もいよう。だが、ここで我らがアッセンに討ち入ったところで助けられん」
「見捨てるというのですか!?」
あー、もう必要な情報手に入れちゃった。キレてるデカイ人、ありがとう。
でも、あんたは偵察に向いてないから配置変えた方がいいよ?
この人達はキルグフィッツ王国の兵士で確定。
偵察にきてるってことは、お国はこのアッセン村が襲われたことを知ってる訳だ。
このまま放置ってことはないだろう。ないよね?
今後の事について口走ったりしないかなぁ。流石にそこまで迂闊じゃないよね。
「我々が本隊まで戻ってはどんなに早くても5日は……」
「やめないか! 誰に聞かれているかもわからないんだぞ!」
はい、確かにその通りですね。聞かせて頂きました。
デカイ人、あんた最高。思ったこと口に出し過ぎ。
しかし最短で5日後にキルグフィッツ王国の本隊が到着するのか~、不安な日数だなぁ。
ココ村に略奪に出掛けて入れ違っちゃう時間がギリギリあるんだよね。
仮に向こうに着いた略奪隊がアッセン村が戦場になってるのを知ってココ村に居座りでもしたら最悪だ。
フィーナを山で何日も過ごさせる訳にはいかん。
このまま帰った場合、来るかもしれない略奪隊にビクビクすることになる。
キルグフィッツ王国の本隊が到着するまで見張ってた方が色々確認できて安心だけど、最短で5日でしょう? 孤独死してしまう。
それにババ様に言われた以上のことをするのも心配かけるだろうしなぁ。もう色々したけど。
かえ・・・る? 帰ろうか。よし、帰ろう!
ココ村に帰ってからもこまめに偵察に出ればいいんだしな。
よし、そうと決まれば……
「ん? なんだあの犬は」
不意にデカイ人が不審そうな声をあげた。
え。そんなまさか。
自信無くすわ。気配察知もできず、気配を隠すこともできないとは。
あ、あ~俺は怪しいものではありませんよ? 別に立ち聞きなんか。
「いやに大きいな……あっちに行かんか! シッシッ!」
あれ、犬って俺のことじゃない?
そっと偵察隊の方を伺ってみると、デカイ人の横に大きめの茶色いブルドッグみたいな犬が立っていた。
あ~、良かった。俺のことじゃなかった。
偵察隊はあの犬に気をとられてるようだし、俺はこのまま離れて森に入ろう。そんでココ村に帰ろう。
よし、フィーナいま行くぜ。
と、気合を入れて後ずさりした瞬間。
ブルドッグが火を吹いた。




