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17.市場 後編

 どんな話を聞かされたんだろう……

 つか、リィザも俺のことは隠しておいた方がいい、とか言いながら兄貴に話すなよ。

 まあ、そんなに真剣に隠したい訳でもないが、適当に犬の振りして、フィンから離れた。いや、振りもなにも犬だけどね。

 さて、フィーナはどうしてるかな……あ、まだ服屋に居ますね、はい。

 そのまま適当にぶらつく。

 どの馬車も凄い賑わいかと思いきや、意外なことに調味料と調理用品の馬車はそれほど人が居なかった。

 よく見てみると、調理用具コーナーで鍋の穴を塞いで貰っている人がポツポツ居るだけで、セメント袋みたいなのでどかっと置いてある調味料を買っていく人は殆ど居ない。

 なんだろう、高いんかなぁ。


「なあ、奥さ~ん、旦那で満足してるぅ?」

 うわ、なんだこの不快な声は。

 見てみると武装したスキンヘッドの男が調味料を見ていた女の人に近づいていくところだった。

 すごく大人しそうな女の人は話しかけられてぎょっと身をすくめた。

 広場の端で男の仲間らしきゴロツキっぽい奴らがニヤニヤしながらはやし立てている。

 あ~、嫌なもの見ちゃった。

 どこの世界にでも居るんだな、こういうの。

「あ、あの……」

「ん~? 緊張しちゃってる? 大丈夫、俺、紳士だからさぁ! ちょっとこっちきなよ」

「あっ! やっ!」

 男は女の人の腕を掴むと強引に引っ張り、馬車の裏の方へ連れて行こうとしている。

 調味料担当の商人がなにかモゴモゴ注意してるっぽいけど聞きゃしねぇ。

 おいおい……はぁ。

「い、いやっ……!」

「まあまあ、ちょっと話すだけだからさ」

 思いっきり息を吸い込む。

「ヴォウ!!!」

 うお、自分でもビビるぐらいのでかい声が出た。

 目の前に居た男と女の人は当然ながら、広場に居た殆どの人達がこっちを見る。

 やっべ、超注目されてる。まあ、ここで止めたら駄目だよね。

「ヴォウ! ヴォウ!!」

 歯をむき出しにして、殺気を込めて男を睨みつけながら吠えまくってやる。

「うるせぇ! このっ!!」

 男が蹴りかかってくるが、なんともご優雅な動きである。

 軽くバックステップでかわす。

 思わず電撃パンチをくれてやりたくなるが、これ以上ないぐらい注目されてるから自重。

 俺は吠え続ける。

 男が俺に気をとられている隙に、絡まれてた女の人が逃げていくのが見えた。

 じゃあ、これぐらいにしておくかな。

「なにをしている!」

 俺が逃げる為に走りだそうとした時、ピーヒンが割って入ってきた。

 雇い主の登場にスキンヘッドは流石に気まずそうにしている。

「いや、俺は何も……この犬っころが吠えてきやがって」

 あぁん? こっちが喋れないからって勝手いいやがってぇ!

 ウゥ……と俺が唸っていると、まずいことにフィーナが走り寄ってくるのが見えた。

 あ、やべ。

「アルス!」

 がっちりと抱きしめられた。

「ごめんね、私が目を離したからっ!」

 えぇー……いや、勝手に離れたのは俺だから、そのぉ……

 俺がオロオロしてると、フィーナがグスグスと泣き出した。

 どうすんだ、これ。

「近くで見ていた人に事情を聞いたよ、ピーヒンさん」

 お、伝令の丈夫そうなおっさん、ファインプレイの予感。

「なにがあったんだ?」

「簡単なことだよ。こいつが村の奥方に声をかけてつき纏っていた所を犬に吠えられた。それだけだ」

「ちっ!」

 男が忌々しそうに伝令のおっさんを睨みつけるが、おっさんは涼しい顔だ。

「おい、ゼークストさん、私はあんたを信用して今回きてもらったんだ。信用には応えてもらいたいね」

 ピーヒンは、スキンヘッドではなく、広場の端でニヤニヤしている大男に声をかけた。

 ゼークストと呼ばれた大男は、黒髪で濃い顔、急所部分を金属で補強してある革鎧を着て、デカイ剣を背負っていた。

 やたらと強そうだな。ところで、あんなデカイ剣背中に背負っていざという時に抜けるんだろうか。

「部下が失礼した。謝るよ。どうにも最近退屈してたようでなぁ」

 全然謝る気がねぇな、これ。  

「今後、こういうことが無いようにしてくれ」

「あぁ、言い聞かせるよ。おい、こっちこい!」

 呼びつけられたスキンヘッドがおどおどと近づくと、ゼークストは拳で思いっきり殴りつけた。

 ゴツッ! という鈍く重い音がやたらと大きく聞こえた。

 スキンヘッドはよろけて尻もちをつく。

「っ!」

 突然の暴力に、俺を抱きしめたままのフィーナが身を固くする。

「お前、なにしてくれてんだ、あぁ!? おい、謝れ!!」

 スキンヘッドがなにか言う前に、ゼークストはその頭を思いっきり蹴りつけた。

 抵抗もできず、倒れて動かなくなるスキンヘッド。

 それをさらに踏みつけ、蹴りつける。

 手加減もなにもない、暴力に慣れた類の人間のやりように、胸が悪くなる。

「もういい! そういう体罰もやめてくれ!」 

 このままもう数秒見てると、殺してしまいそうなやりようにピーヒンが割って入った。

 ゼークストはニヤニヤしている。

「……今日は村の外で野営してもらう、いいな?」

「へいへい」

 ゼークストは肩を竦めると、村の入り口から出て行った。

 取り巻きっぽい男達が5人、それを追う。

 スキンヘッドは放置かよ……

「皆さん、もう大丈夫です! お買い物を続けてください!」

 ピーヒンが笑顔を作り手を振りながら、声をかけると野次馬になっていた村人達がこの場から離れていく。

 他所の人はやっぱり物騒だなんだと、ヒソヒソ話すのが聞こえる。

 ピーヒンは笑顔のままだったが、怒りと不安の匂いがする。

 伝令のおっさんは、スキンヘッドを担いで馬車の影に運んでいった。

 一応、広場の賑わいが戻りつつある。


 が、まだ俺を抱きしめているフィーナは目を瞑り、震えたままだった。


 

 

 

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