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レボリティー・レポート  作者: アルフ
魔法学院編
51/55

二日目は終わり

 ランドレット学生寮、グラウンド。


「あーやっと着いた……ってこれ今どういう状況なの?」


 私立ランドレット魔法学院理事長、ジェシカ=ランドレットはグラウンドに広がっている異様な光景に目を疑っていた。

 寮の入り口を囲むように生徒たちが固まっている。普通なら先生が生徒たちを整列させているはずだ。


「はぁ、はぁ、ちょっと理事長! 待ってくださいよぉ~!」


 少し遅れて、ジェシカに目の前の寮での事件を報告した先生も到着する。普段体を動かしていなかったのか、荒々しく肩で息をしている。



「あっ、理事長だ」

「ほんとだ! 助けに来てくれたのかな?」



 後ろのほうで縮こまっていた生徒たちがちらほらとジェシカの存在に気付き始めていた。

 ジェシカは生徒に歩み寄った。


「ねえ、これ今どうなってるの?」


 生徒たちは、恐る恐ると言った具合で口を開いた。


「あっ、あのですね……いつものやつらが……」

「うんおーけー、それだけで全容はつかめた」


 一瞬で把握するジェシカ。伊達に理事長していない。そもそもこの寮の生徒でこれほどの騒ぎを起こせるのは特定の一派だけなのは前からわかっている。


「でも私が聞きたいのはこのグラウンドの状況を作り出したのは誰か、っていうこと」

「……」


 この異様な光景を作り出した張本人。そいつの名前は、生徒の口から出ることはなかった。

 知らないということはないだろう。わからないということもないだろう。

 なのに、犯人が誰かを言わないということは、余程の圧力が掛けられているのか、口にするのも恐ろしいのか――、


 次に、軽快な足音。


「これをやったのは僕ですよ。理事長さん」


 まるで友達に話しかけるような気楽な感覚で登場する犯人。


「あなた確か、鏡利の弟の……」

「正解、僕が竜真です」

「ま、そんなところと思――」



「今の内だァァァァァ!!!」

「急げェェェェェェェェェェ!!!」



 ジェシカと竜真の会話は寮の入り口付近にいた先生たちの怒号に掻き消された。

 竜真のイービルアイから解放されたのを期に一気に先生たちは寮の中へと入っていった。


 そして、生徒たちも、


「に、逃げようぜ」

「ここにいたらどうなるかわかんねー!」

「死にたくねぇ!!」


 流れに乗じてそのほとんどが逃げ去った。

 結果、残されたのは理事長とその付添いと、竜真。


「いいのか竜真くん。君が見張っていたらしい生徒たちは皆いなくなっちゃったよ?」

「そんなこと、どうでもいいんですよ理事長さん。それより、理事長さんはどうしてここまで出てこられたんです?」


 竜真の問いに報告の先生が口を挟むように答える。


「そんなの決まってるでしょ! お前らがこんな事件を起こしたから理事長は出てこられたのです!」

「いんや違う、私は魔界からの要人を追ってここまで来たのよ。竜真くん、百五十センチメートルくらいの可愛い羽の生えた女の子がこっちに跳んでくるの見なかったかな?」


 竜真はしばし考えた後、頭を振った。


「知らないですねぇ……空を飛べるのなら裏口や窓とかから入ったんじゃないでしょうか」

「そう。情報ありがとう」

「いえいえ」


 ジェシカは竜真を横切って寮の入り口へと歩き出した。


「ちょっと理事長!? どこに行くんですか!」


 解っていてもそう聞いてしまうのが性か。

 ジェシカは報告の人に振り返ってきっぱりと言った。


「あのバカな小悪魔に説教しに行くのよ。あなたはここで帰っても構わないわ」


 そういってジェシカは寮の中へと消えていった。

 報告さんと竜真は、凛と歩くジェシカの後姿を何も言わず、何も言えず見ることしかできなかった。しなかった。


「先生はどうするんですか?」

「私は……一先生として、もうこれ以上悪さをしないように、君を見張る役でもしておきましょうかねぇ」


 竜真は一瞬言葉に詰まった。しかしすぐに柔らかな笑みを浮かべる。


「そうですか。だったら僕も先生に見張られているとしようかな。僕の役割はもう終わった……もう、終わりなんだ」

「……」


 あれだけ生徒の間で恐怖の対象として君臨していた竜真と初めて話した先生だったが、このとき先生はあることに気付いていた。

 恐怖とは別の、


「竜真くん……もしかして――」

「――えっ」


 先生が紡いだ言葉に、竜真は素っ頓狂な声を上げるのだった。


                ☆


 件の学生寮……拡声室前。


「私としたことが、寮内放送を聞いた時に拡声室を思いつかなかったなんて迂闊だったわ……でも、ここにいるはずのきょうりを捕えてちぇっくめーとよっ! ふふっ」


 生徒会長、フレアドールは勢いよく拡声室のドアを開く。


「高等部二学年、きょうりくん! 禁術の行使、並びに寮の占領、魔法の悪用もろもろの悪事により生徒会長の私が直接停学処分を下しに来ました! 抵抗しても無駄ですよ」


 笑みを浮かべながらペラペラと台詞を吐く会長。しかしニヤついている場合ではないのはわかっているので、すぐに真面目モードに切り替える。


「俺を捕まえに来たのか? それにしても随分と遅い到着じゃないか」


 鏡利は一冊の本を片手に、狭い拡声室の中で会長と対峙する。


「きょうりくんも私の魔法は知っているでしょう? 無駄な抵抗は苦しくなるだけですよ」

「男ってやつは戦わねばならない時があるんだよ。俺からすればそれが今っていうだけのこと……!」

「……はぁ、わかりました。あくまでも私と戦う気ですか」


 会長は鏡利が引き下がりそうになかったので、仕方なく彼を無力化することにした。

 来る……鏡利は迎え撃つために構える。


 そして、


「はい、終了」

「まあ、こうなるよな」


 決着は一瞬でついた。鏡利が構えた瞬間後には体中にロープを巻きつけられていて、身動きが取れなくなる。

 鏡利は彼女に遭遇した時点でこうなることを確信していた。敵うはずがないのだ、この会長には。


「アナザーストリート……お前の十八番の魔法だったな。あんなのどうやって対策しろってんだよ」

「ふふふ、人類がこの魔法を攻略することは不可能だよ♪」


 会長自身も人類最強と誇る異常系魔法『異時幻空間(アナザーストリート)


 この魔法は活字上では表現に困る魔法である。


 能力の説明をさせてもらうと、この魔法の能力は『一定の空間を支配する』である。そのため、フレアドールが使う『異次幻空間』は数ある使い方の一つでしかない。

 その使い方とはズバリ、自分以外の動きを封じるという使い方である。相手は所謂時止めの状態になる。

 時止めがどれ程強い能力かはよく知っているだろう。あれすらもこの『異時幻空間』の能力の一部でしかないのだ。まるでチートである。


「これにて一件落着ですね。きょうりくんは私の一存で停学にしたいところですが、形式上とりあえずは理事長に指示を仰ぎます。これから忙しくなるから覚悟しなさい?」

「ちっ、わーってるよ」

「うん! 素直でよろしい」


 フレアドールは鏡利に何故このような事件を起こしたのか、なんて聞くことはなかった。

 それは彼女が会長としての役目を鏡利を捕まえることで終えたからである。ただの高校生のフレアドールは鏡利のことなんてまるで興味はないのだ。



「君がフレアドールだね」



 だが、フレアドールが鏡利に興味がなくとも、フレアドールに興味を持つ者はいた。

 赤と黒を基調とした小さくも禍々しい二対の翅を背中に持つ少女。


「そうだけれど……何か御用ですか? ガーゴイルさん」

「おおーっ! 私のこと知ってるの!? 嬉しいなぁ!」


 ガーゴイルと呼ばれた少女は宙に浮いたまま喜びを体全体で表していた。


「会うのは初めてですけど、生徒会長たるもの、あなたほどの方を知らないなんてことはいけませんからね」

「そーかなー? 私なんて全然大したことしてないと思うけどな~」

「御冗談はやめてくださいよガーゴイルさん。あなたは魔界を統べる邪真王でしょう」

「邪真王なんて可愛くないよー。この姿の時は小悪魔ガーゴイルちゃんなのっ!」

「そ、そうですか……」


 小悪魔、ガーゴイルちゃんは「早速だけど」と言いながら翅を戻し、床に立った。


「私と勝負しない? フレアドール」

「なっ」


 フレアドールは卒倒しかけた。

 まさかこっちの世界までわざわざやってきて、自分に勝負を挑んでくる邪真王がいるなんて、と。


「ダメですよ! 私があなたと戦って勝てるわけないじゃないですか! 死にますよ私!?」

「そうだね、手加減して戦うっていうのなら本気で殺すよ。だから生きるためでいいから本気でかかってきて」

「嫌ですよ! そもそも人間が魔物、それこそ最強のあなたと勝負になるわけがないじゃないですか! そんなの勝負じゃない、ただの自殺ですよ!」

「えーっ、いいじゃんいいじゃん戦ってよー!!」


 なかなか了承を貰えず駄々をこねるガーゴイルを人影が覆った。

 ガーゴイルは咄嗟に気付く。


「ハッ! この気配は」

「私の生徒に……なんて無茶させてんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 小さなガーゴイルの頭に理事長渾身のチョップが振り下ろされた。

 ズン、という鈍い音が炸裂し、少女が叫び声を発する。


「いったぁーい!! なんでこんなことするの!?」


 頭を押さえ涙目になりながらジェシカを睨みつけるガーゴイルちゃん。

 一方理事長はカンカンである。


「そっくりそのままその台詞はお返しするわ。なんでこんなことするの!? いくらフレアドールさんが強いっていったってあなたと戦えるわけないでしょ。わかったら会談の続きするよ」


 ガーゴイルの首根っこを摑まえて連れて行こうとする理事長。

 ガーゴイルは涙をダラーと流しながら引きずられていく。


「ヤダー! ふれあどーるとたたかいたい~、ちゃんところさないようにするからぁ~!」

「その言いぐさは何か、普通にやったら殺すような戦いをするつもりだったってことか? あぁ!?」

「うわーん! それはごへいだよ~」


 みるみる二人は見えなくなっていった。


「……なんだったの、今の。まあいいわ、きょうりくん行きましょうか、ってあーっ!」

「わっ! バレた!」

「確保ぉ~!!」


 フレアドールは、鏡利が拘束を解いて逃げようとしているところを発見して、再度アナザーストリートで時を止め、縛り上げるのだった。


                ☆


 こうして、今回の一件は幕を下ろした。

 え? 何か忘れてないかって?


 祐介VSロドノス? フライヤVSエリアキラー?


 まあ、あれだよ。

 そこそこいい勝負してたんじゃないかな? うん、多分。


                ☆


「ほぉ~、そんなことがあったのか~」


 夜、男子寮の廊下でばったり出会った祐介から晴人は今日あった出来事を聞いていた。


「鏡利共ときたらいつもいつも厄介ごとばかり起こすから、俺たちの休まる暇がないんだよ」


 いつもならこの時間は生徒会室でメンバーと駄弁っているはずの祐介も、今日の事件のせいで生徒会室は煙の残りカスまみれになってしまっているので、その原因であるダーミラーに掃除をさせている。なのでこうして悪い意味で時間を持て余していた。


「度を超えた問題を起こすヤツって謹慎だとか停学だとかになるんじゃないのか?」

「まあ、その通りなんだが……お、ちょうどだ」

「ん?」


 廊下の先から騒がしい数人が歩いてきていた。


「放せ! 俺一人でも歩けるから!」

「駄目だ。お前は一週間の隔離が決まった。つまり一週間の間は好きに廊下を歩かせるわけにはいかない」

「おとなしくしていれば、あるいは早めの解放があるやもしれんぞ」

「ぐぅ……」


 彼らは晴人たちを横切って歩いて行った。


「あれか」

「あれだ」


 しばしの沈黙が訪れる。

 二人は、鏡利たちが見えなくなるまで無言で眺めていた。


「隔離、とか言ってたな。大丈夫なのか?」

「さあな、俺も隔離される奴は始めて見た。ランドレットの歴史上でもそんな奴いないんじゃないか?」

「大げさなことをした割にあっさりと終わったよなアイツ。もっとこう、頑張らなくてよかったのかって思うわ。最後の抵抗というか、悪あがきみたいな」

「鏡利もわかってたんだって、会長を敵に回して敵うはずがないってよ」

「馬鹿だなぁ、失敗するってわかってて変なことをする意味なんてあったのか?」

「いい意味で好奇心旺盛、悪い意味で後先考えないだな」


 どうでもいい話を繰り広げるだけなので、この二人はスルー。




 視点は鏡利へと切り替わる。


「一週間隔離されるのか、骨が折れるな」


 何もない部屋の床に寝そべり、大の字になる。


「それにしても、ばれないもんだよなぁ。情報を抜き取る副会長に出くわしたときはどうしようかと思ったけど、気付かれずに済んでよかったぜ」


 ククク、と彼は笑う。


「まさか俺が鏡利さんではないってことを皆が知ったらどうなるかな~。ちょっと楽しみではあるが、ばれない様にしないとな」


 ずっと魔法を行使しているのは疲れるのだろう。彼は、朝から使っていた魔法を解除した。

 そう、その魔法はアギトと似たような能力『他人の姿と声』に変身するというもの。

 彼はこの魔法で、ずっと鏡利を演じてきたのだ。


「はぁ~、やっぱ元の俺が一番だわ」


 思い出してほしい。そもそもこの男と鏡利とでは一人称が違うのだ。

 鏡利の一人称は『僕』なのに対し、この男は『俺』


 果たしてこの些細な違いに気付いたのがどれくらいいたか。

 少なくとも作中のキャラでその違いに気付いた人は誰一人としていない。それもそうだろう。作中のキャラたちは皆、そこまで関心を持って鏡利を見てなどいない。普段の鏡利を知る者はいない。

 鏡利がもし皆から愛されるようなキャラだったのならこの違いに気付いた人がいたかもしれない。


 ちなみにこの男も自分の一人称と鏡利の一人称の相違に気付いていなかった。


「あー、今日は本当に疲れたぜ~……」グースカピー


 男は夢の世界へと旅立ってしまった。変身を解いたままの姿で。

 次の日の朝、朝食を届けに来た係りの人が鏡利ではない誰かが爆睡しているのを発見するのは言うまでもない。

問答


 今回の事件が起こる前日の夜。とある兄弟の仲に亀裂が入る出来事があった。

 それは、兄弟のうちの弟、竜真が病院で体を休めていたときのことだ。


「やあ竜真、耳のほうはもう大丈夫かい?」

「あっ、兄さん」

「その様子だともう大丈夫みたいだな」


 鏡利はベッドの横にあった椅子に座る。


「どうしたの兄さん。兄さんが僕の為に病院まで来てくれるなんて珍しい」

「馬鹿言え、お前が今まで病院送りにされるなんてことが一度でもあったか?」


 鏡利の言葉を聞いて竜真は納得した。珍しく思ったのは今まで自分が病院送りにされたことがなかったからだということ。

 初めてと思わず、珍しいと思ったのは自分ではない他者の多くをこれまで自分の手で病院送りにしてきたことからの罪悪感か……、


「竜真。僕はね、どんな悪さをしようが、それでもお前の兄でいたいんだ。だから、僕はお前を傷つけた柊をどうしても許せない……僕の言いたいことがわかるかい、竜真」


 竜真には、鏡利の言いたいことがすぐにわかった。これまで何年もずっと一緒に過ごしてきた家族だ。ここまで言われて解らないわけがなかった。


 ――どうしても復讐したい、だから手を貸せ。


 鏡利の考えていることはこれ一つだけだ。そこに弟である竜真の怪我なんてただの手段の一つにしか過ぎないことは竜真には手に取るようにわかっていた。


「……」


 しかし竜真は、いつもなら快諾している状況で答えを出せずにいた。

 迷っているのだ。自分の力を悪用するということを、今更になって躊躇い始めていたのだ。


「どうしたんだよ竜真、返事をしてくれよ。いつもみたいに」


 竜真は口を開かない。彼は気付いてしまったんだ。傷つけられ、虐げられ、病院送りにされる者たちの痛みに。


「病室にいると、聞こえてくるんだ。どこからともなく、痛い……痛い、って。まるでこれまでの僕の罪を数えるかのように囁いてくるんだ。兄さん、僕はもう――「うるさいッ!!!」


 竜真の言葉は、鏡利の声で途絶えた。


「いいから言えよ。うんって、わかったって、協力するって言えよ!! ずっと前からそうしてきただろ!? 嫌なことがあったら二人でいつも解決してきた!! 今回だってまたそうするだけじゃないか!!」

「違うんだ兄さん!! 嫌なことに暴力を振るうのは解決にならない! 僕たちは間違った選択をしてきたんだ!! 苦しい正解を恐れて、楽な不正解をずっと進んできたんだよ!! その結果がこれだよ! 普通の学生みたいな生活は送ることも出来ず、みんなから畏怖の対象としてしか見られない。もうこんなの僕は嫌なんだ!!」


 竜真の本心が垣間見えた瞬間だった。誰にも見せたことのない、彼が心に秘めていたこと。

 だが、鏡利にその本心は届かなかった。


「ああそうかい、お前はその選択をするのか(・・・・・・・・・)。僕とは違う道を往く。そういうことだな?」


 竜真は鏡利の異常性を知っていた。彼はある種の人格破綻者だ。

 彼は仲間意識がとても高い。高すぎるが故に敵とみなした者は容赦なく消しかかる。


 どうする……竜真は思考を巡らせた。

 これ以上兄さんに人を傷つけさせたくない。竜真の中でこの気持ちが強くなっていた。


「……違うよ、兄さん。僕がどうかしてた。協力する。兄さん、僕はどうしたらいい?」


 鏡利はこれまでとは打って変わってにこやかな笑みを見せた。


「おお、おお! そうか弟よ! やはりお前は俺の弟だ! …………………………………信じていいんだな?」


 鏡利は目を見開いて竜真の顔に近づいた。

 ここで驚いてはいけない。信頼を保てなくなる。


「うん。僕を信じて、兄さん」

「僕が弟を信じないわけないだろォ~! 冗談はよしてくれよ!」

「ところで兄さん、僕はどうしたらいい?」

「ああそうだったな。一回しか言わないからよく聞けよ?」


 竜真は、鏡利から計画の全容を聞き出した。

 その中に一つ、想像を絶する項目があったのだが、いまはそれどころではない。

 早めに鏡利から離れたかった。


「わかったよ兄さん。じゃあ明日僕はグラウンドで足止めをしていればいいんだね?」

「そういうことだ。それじゃあ次会うときは計画を達成したときだ! またなっ!」


 病室から出ていく鏡利に小さく手を振りながら見送る。

 扉が閉まり一分数える。



 十秒。



 二十秒。



 三十秒。



 四十秒。



 五十秒。






 一分。


「……ふぅ」


 ようやく緊張の糸が解かれたことで、思わず息を吐いた。


「まさか兄さんがあんな計画を立てていたなんて……」


 竜真は問答の時、機転を利かせて鏡利の仲間になることにした。そうすることで油断を誘い、いざというときに止めることができる。そう思った。


「どうしたものか……一番は生徒会の活躍で事なきを得ることなんだけど、その可能性は薄いな」


 鏡利ならいきなり仲間を募ってもある程度の精鋭はそろえることができる。数しだいでは生徒会すら翻弄されかねない。彼女らのすべてを任せるのはいささか不安だ。


「そもそもそれじゃあ根本の解決になっていない。一番ベストはもう一度柊に兄さんを倒してもらって諦めさせて改心させるっていう流れだけど、あの男はそううまく動いてくれる人じゃなさそうだし……」


 竜真の脳裏に晴人との戦闘がフラッシュバックする。


「いや……あの男なら、もしかしたら……」


 無謀かもしれないが、やってみる価値はありそうな手段である。


「あと気になったのが、明日の計画の真意だけど……」


 竜真が鏡利から教えてもらったのは『理事長室に潜入する時間を稼ぐ』ということ。じゃあ果たして鏡利は理事長室に入って何をしたいのか、そのことについて訊きだすことは出来なかった。というか聞き出せる雰囲気ではなかった。


「まあいいや、今考えても仕方ない。明日の事件の流れに任せて柊に頼むとしよう」


 竜真は取り敢えず今日は寝ようと思った。体調が万全な訳ではない。明日に備えて耳の調子を回復させないといけないのだから。

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