ある意味天才
「ほう……俺の拳を受けて生きているとは、驚いた」
ロドノスは、自分の殴った反動で痛めた右手をブンブンさせながら笑みを浮かべた。
彼の前方にはふらついた祐介が立っている。
「ロドノス=フェリオリー、あんたの情報は解析させてもらったぜ。今のは『ブースタリア』の魔法、高速法だろ。高速で動けるようになるがその分体には絶大な負荷がかかる。対価付きの魔法ってのは強力なのが多いから、しっかりと対策させてもらった」
「能力だけでなく、どの魔物の魔法かも解るとは恐れ入る。だが、単純かつ強力な俺の魔法をどうやって対策するつもりだ?」
「そんなこと、簡単だ……ッ!!」
祐介は短く答えて、床を踏みしめた。
「こうするんだ、よぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」
「ぬおっ!?」
叫んだ瞬間、ロドノスは身体の自由を失った。
ロドノスの体の表面は青白い光に包まれている。それがどういった状態なのか、ロドノスはすぐに理解できた。
「物体を遠隔制御する魔法……サイコキネシスか!?」
サイコキネシス。それは祐介の持つ異常系魔法である。
効果の程は誰でも知っている有名なもの。『念動力で物体に作用を及ぼす』ことができる。だが、その効力は自身の筋力に依存する。つまり、現在祐介は自分より図体のでかいロドノスをサイコキネシスで持ち上げているが、それを維持するのは筋力的に考えると相当無理をしているということである。
無理をしてでも、ロドノスを倒さないといけないのだ。
「ふんすっ!!!」
体全身を使ってロドノスを念動力で操り、天井へと激突させた。
「グッ!!」
一瞬視界がぐらつくロドノス。しかし、それを精神力でカバーする。
そして、祐介に限界が訪れサイコキネシスの効力が消え、ロドノスは重力に従って廊下へと落下し、着地する。
「ハァー、ハァー……重すぎだろ、お前」
「フ、鍛えているからな」
筋骨隆々とはまさに彼にふさわしい。ロドノスは高校生にしては、たくましい体の持ち主である。
「ウォーミングアップは終わりだ、副会長。終わらせてもらうぞ!!」
言うとロドノスは床に手を突っ込んだ。筋力によるものではない……その不自然な歪み方は魔法によるもの。
彼は、床の一部を削り取りながら、剣のような形状をした物質を取り出す。
「俺の魔法を解析したのなら、わかっているだろう。この魔法は木属性魔法の『形状変化』。俺の手が触れた心の臓、つまり動物ではないものの性質を木に変え、形を自由に変化させることができる」
木の特性は加工のしやすさ。この魔法は、周りの物質をあらゆるものへと加工することができる能力なのである。先程手を突っ込んだ時の不自然な床の歪みは、加工する前のドロドロに解けた鉄のような、加工のしやすさを現していた。
「変化できるのは剣だけじゃあねえぜ?」
ロドノスの手が壁に触れる。すると、壁はたちまち祐介をロックオンした複数の砲塔へと変化した。まるでちょっとした要塞である。
「俺のこの魔法は、周りがコンクリートの壁とかだった時に一番効果を発揮するんだよ。こんなふうにな!!!」
砲塔から一斉に祐介に向かって弾が発射される。コンクリート色をしているが、その性質は木。
祐介は向かってくる砲弾をサイコキネシスで止めようとした。
だが、飛んでくる砲弾の威力を相殺することは祐介には不可能。素手のまま、砲弾を受け止めろと言っているようなものである。
「クッソ!! なんてパワーだ……っ!!」
自分の筋力に左右されるということが祐介のサイコキネシスを大きく弱体化させている。
……このまま押し負けてもいいのか?
――違うだろ。
「……ッラァァァァッッッ!!!!」
全身全霊だった。
何とか、放たれた砲弾を逸らすことに成功したのだ。
しかし、
「まだまだお疲れには早いぜ? 折角何個も砲台を用意したんだから、全部使わない道理はないだろう!!」
「なん……っ!!」
祐介は驚愕した。
造られていた大筒は、一目見ただけで十を越えて――
「いくぞ!! 大砲の波状砲撃!!!」
容赦なく砲撃が開始される。
一発だけならまだよかった。だが、連続で逸らすなどできるはずがない。全身全霊がそう何分も続くわけがない。
負けるのか? 俺は。こんなところで。何の役にも立たず。
――ふざけるな。
――俺がこんな奴に負ける? 何のジョークだそれは。
俺は、あの人の隣にふさわしい男になる。そうだろう? 橘祐介!!!!
「かいちょおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!」
たかが外れた。
その時祐介は、今の自分の限界を超えたのだ。
連続して迫りくる砲弾を、一つずつ受け流していく。
先程、たった一つの砲弾に手こずっていたのが嘘だったかのように、丁寧かつ確実に、まるで極意の門を叩いた柔道家のように。
ついに祐介は、最後の砲弾を受け流しきった。
流石に祐介も肩で息をしてしまう。しかしそれをロドノスは見逃さない。
「それがお前の限界か? そのようだろうなぁ! だったら――」
ロドノスは勝利を確信し、一気に勝負に出る。
「お前は、ここでリタイアだ! 副会長さんよォォォ!!!」
ロドノスは初めに作り出していた剣を構えて祐介へと斬りかかった。休む暇など与えない。
真上から振り下ろされる強力な一撃。
「ッ!!」
スパァン!! という鋭い音が響いた。
「なっ……」
驚愕の声を上げたのはロドノスのほうだった。
祐介はロドノスの一撃を右手でつかんでいたのだ。
「てっ、てめえ!! そんな防ぎ方があるかよ!? 馬鹿か! 粉砕骨折じゃすまねーぞ!!」
ロドノスは慌てて祐介の手の心配をする。この流れは子供同士で戦闘ごっこをしていたときに、不意に相手の急所に当ててしまった時と似ている。
しかし、ロドノスは違和感に気付いた。
「(なんだ……こいつ、剣から手を離しやがらねぇ)」
一思いに抜こうと力を入れてもピクリとも動かないのだ。
「……念動力、集約」
祐介の呟き声の後、握られていた剣は、割り箸でも折るかのようにポッキリと砕けた。
「この野郎……片手でっ!?」
身の危険を感じ距離を取ろうとするロドノス。しかし、
「……拡散!」
「ぬおお――っ!?」
強烈な衝撃波が、後ろに逃れようとしたロドノスを襲った。
ロドノスはその衝撃波をまともに受け、ノーバウンドで吹き飛んだ。
「初等部に入ってから随分とサイコキネシスを使ってきたが、今漸くコイツの本質が解った」
悟りを開いたような落ち着いた声。戦闘中とは思えないくらい祐介の心は穏やかだった。
そんな祐介は、ロドノスが吹き飛んだ方向へと走り出した。
「俺が、この程度でやられるかよ……ッ!!」
ロドノスは床へと手を突っ込み、簡易的な大筒を作り出し、弾を射出した。
弾は走り迫りくる祐介に一直線で向かっていき、
「集約」
祐介の一言と共に繰り出されたパンチが、鉄すら貫通できる勢いの弾をいともたやすく弾き飛ばした。
「なんだと!? こんなことが、有り得るのかよッ!!?」
焦るロドノスは砲弾を連続で射出した。だが、それらすべては祐介の驚異的な跳躍で躱される。
「なんだってんだよ、人間業じゃねえぞ!?」
祐介の異常な行動を否定しながらもロドノスは接近してきた祐介を迎撃しようと高速法の拳を放った。
祐介もその拳に応えるように拳を振り下ろした。
グキリ、という鈍い音が脳髄まで響いた。
砕けたのは、祐介のほうではなく。
「……っぐああああああああああああああああああああああ!!!!」
喉が張り裂けそうなほど絶叫するロドノス、高速法を使って迎撃に使った拳はひしゃげていて手とは形容しがたいモノになっていた。
一方、祐介の拳には傷一つすら付いていない。
「どうしてっ……そんな急に……!!」
「俺のサイコキネシスは、無意識のうちに俺の筋力の限界ぐらいまでしか制御できないように制御してしまっていたんだ。例えば、扱える力の総量を薄く広げて広範囲まで及ぼすか極限まで範囲を狭めて力を一点に集中させるかの違いだ」
つまり祐介は普段のサイコキネシスを、ちょうど自分の筋力分が力の限界になるように無意識化で広範囲化してしまっていたのだ。砲弾を逸らすときも、ロドノスを浮かせるときも、『このぐらい薄く広く展開したらちょうど自分の筋力と同等ぐらいになるだろう』と勝手に弱体化させていたのだ。幼少期から扱っていたことで、その時の癖がついていたのかもしれない。
しかし、オート弱体化に気付いた今、祐介は、使用目的によって自由に範囲調節を出来るようになった。干渉の仕方を能動的に変えることができる。
もっとわかりやすく言うと、鉛筆の芯は、尖っているときと丸まっているときとでは、尖っているときのほうが刺さりやすい。
つまり念動力を一点集中させたら、干渉する物体に働く作用を増大させることができるということだ。
「結局、さっきのも拳の表面に圧縮した念動力の壁があったってわけか。成程なぁ……物理的ではなく極限ラインでお前は特殊型だったってわけだ」
ロドノスは痛覚が麻痺したのか、ひしゃげた右手を憐れむこともなく立ち上がり、感心するように唸った。
「おかしなやつだな。右手がそんなことになってもまだそんな余裕を保ってられるなんて。俺だったら全力で逃げるんだけど」
祐介に戦う意思はもうない。恐らく利き手であろう右手を使えなくしたのだ。殺し合いをしているわけでもなし、これ以上は無駄だ。
だが、ロドノスは引き下がることはしなかった。
「逃げたいさ。俺だってな……だがさっきも言っただろう、ここで逃げたら後で鏡利さんに何をされるかわかったもんじゃない。何より、お前に負けたくはないんだよ。意地ってやつだ」
「フン。鏡利というより、お前たちを突き動かす恐怖は竜真のほうだろう? アイツは耳を治すのに時間がかかるらしいからしばらくは出てこないと思うが」
「いやいや、そうでもないんだぜ? 実は竜真さんもこの計画に加担しているのだよ」
「なにっ?」
竜真がいる。そのことを知っただけで祐介も冷静さを欠く。
「あの人なら今グラウンドの先生たちを足止めしているんじゃないかな? まったく、恐ろしいお方だ。一人であれ全員を留まらせるに至るなんて」
「竜真までいるのか……こりゃあもうだめかもわからんな」
「安心しな副会長、計画は最終フェイズまで進行した。正直、これを止めるのは至難の業だぞ?」
暗に諦めろと促すロドノス。
彼はわかっているのだ。自分がここで勝とうが負けようが計画はもうとまらないということを。
解りきっているうえで、ロドノスは今を謳歌する。
「だったらせいぜい楽しく戦おうじゃあねーかよ。『どっちが勝っても負けても、変わらない』運命のレールの上でよォ!!」
ズン、と左腕を床へとめり込ませる。瞬時に剣と砲塔、幾多のトラップを張り巡らせるロドノス。
そして、
「『リトルビッグバン』」
「ッ!!」
小規模だが、まともに食らえば危険すぎる爆発が起こった。
闇属性の魔法。その性質、破壊に特化したのがロドノスのリトルビッグバンだ。
しかし祐介にダメージはない。爆発はあらぬ場所で起こっていた。今の攻撃は威嚇のようなものだ。
「勝っても負けても変わらない? そんなわけない。俺がお前に勝てば少しは変わるだろ。ロドノス、お前はそうやってすべて諦めて遠くから離れて見ていればいい」
祐介の背後に電気を帯びた黒色の浮遊物が姿を現す。
「鏡利たちの好きにはさせない。運命は変えられないっていうのなら、『俺たちがお前らを止めるまで』が運命だってことを見せてやるよ」
☆
喧騒がさったショッピングモール某洋服屋前。
「わたしたち、これからどうするん?」
「晴人君、帰ってこないね」
「このような状況を置き去りっていうのだろうな」
アリス、リナ、エルナは三人で晴人の帰りを待っていた。
晴人は偽物のリナを追っていってから姿を見せない。
「そうだ! ケータイがあったじゃん!」
アリスは自分の携帯を手に取り、慣れた手つきで晴人に電話をかけた。
ワンコール……ツーコール……スリーコール。
「……ダメ、全然出やしない」
「晴人君が向かったのって出口のほうだったよね。ちょっと行ってみない?」
「そうだね、探しに行った方がいいかも」
リナの提案にアリスは乗った。だが、
「余はここで待っているから二人で探してきてくれ」
エルナは何やら難しそうな顔をしていた。
アリスとリナは、エルナの言葉に甘えることにした。
「頼んだよエルナちゃん。もしハルくんが戻ってきたら連絡してね!」
「じゃあ私たちは晴人君を探しに行ってくるよ!」
二人が走っていくのを見てエルナは息をついた。
「さて、晴人よ。余は余で敵の動向を探らせてもらうぞ」
ショッピングモールの奥へと歩き出したエルナ。
彼女が目指す先は主の元か。それとも……。
「ハッキリ言おう。これは恐らく無理だ」
ハッキリ言っているのか憶測で言っているのかわからないようなことを言いながら、晴人は人ごみを掻き分けながらショッピングモール内を走っていた。
肩にはアギトから借りた、魔法を感知する使い魔を乗せている。
「ねえ使い魔」
「なんだヨー?」
「ハッキリ言おう。これは恐らく無理だ」
「言い直してんじゃねーヨ」
晴人たちは現在五階を捜索中である。全力で走り回ってたったの五階だけである。
圧倒的に時間が足りない。このペースでショッピングモールを隅々まで調べるには、一日で終わらないのではないかと晴人はそろそろ思い始めていた。
「くっそ~、このままだったら俺たちここから出ることも出来ねえぞ」
「ターゲットもそれは同じだヨー。外が熱いうちは相手も外では行動できないヨー」
「だよなぁ、このショッピングモールにいるのはわかってるんだけど……いや、まてよ?」
晴人は何か思いついたように立ち止まり、眉をひそめた。
「そうか、その発想はなかったぜ」
「どうしたんだヨー」
「こりゃあもう、根本的な探し方を変えるしかないな」
「変えるっていったって、どうするんだヨー」
「発想の転換だ。……相手は俺に見つかりたくないはずだから、それを逆手にとって探すんだ」
「どこだヨ」
「こっちだ」
晴人はおもむろに進路を変えた。
彼が目指したのは、エレベータだった。
「俺たちが最初に思いついたのは、外は熱いだろうからこのショッピングモール内だろうってことだ。この発想のせいで俺たちは無意識のうちに直射日光を浴びる場所は選択肢から除外して探してしまっていたんだ。だったら次は逆をついて直射日光の当たるような場所をしらみつぶしにしていけばいい。このショッピングモールは三階に屋外簡易公園、七階には七階を取り囲むように望遠鏡を覗く広場。そして最上階に……屋上がある」
エレベータは下へ向かう。まずは三階の屋外簡易公園から調べようという魂胆だ。
「これで選択肢は三択だ。待ってろよ名前も知らないクソ野郎。たくさんの罪のない一般人を巻き込んだらどうなるか、みっちりと教えてやるぜ」
☆
ランドレット学院中央区、管理エリア。
「大変です理事長! 鏡利が禁術、地縛解放陣を使うと言って自分たちが使っている寮を占領したと生徒が騒いでおります!!」
理事長室でとある要人と会談をしていた理事長、ジェシカ=ランドレットはその報告を聞いて呆れた。
「あのねぇ、君わかってる? 今私は会談中なんですけど、そういったのは終わってからにしてくれないかしら」
ねー? と会談相手に同意を求めるように促すジェシカ。まるで友人と接するような態度である。
しかし、ジェシカは会談相手から同意はもらえなかった。
「いや、大した用事じゃないし気にしませんよ」
「んなっ!?」
報告に来た教師は安堵したように続けた。
「この事態は理事長のあなたに出てもらわないともう収拾がつかないんです! どうかお力を貸してください!」
「私の力なんて必要ないってば。それこそあそこの生徒会には精鋭揃いじゃない。鏡利くんがやり手なのは知ってるけど、あの子程度じゃ生徒会に敵うはずがないわよ」
「それが……どうやら生徒会が押されているようで、鏡利は既に地縛解放陣を発動したと」
ジェシカはその言葉を聞いて笑った。
「有り得ないってそれは。だって地縛解放陣はこれまで一度も発動が成功していないんだよ?」
「それは……私もわかっていますが……」
発動に成功していない。発動できない。故に禁術と指定された術式。それが地縛解放陣である。
「雑学だけど、ランドレットの今までの歴史の中で禁術になった術式って結構あるのよ。昔の人が魔法を人工的に使えるようにしようと頑張ってきたみたいだけど、全部失敗。開発した禁術のすべては禁術指定されていった。地縛解放陣だって例外じゃない。だからそんな術そもそも発動できないの」
「ですが、それだったらさっきの地震はどう説明するつもりですか? あれは偶然起こる規模の地震ではないですよ」
「地震? そんなの起こったっけ?」
「えっ、それはどういう」
ジェシカは地震なんて知らないと答えた。ここから件の寮はそんなに離れていない。なのに地震を感じないなんてそれこそ有り得ない現象だ。
有り得ない筈だが、
「ねえ、貴女は地震感じた?」
ジェシカは会談相手に訊ねた。勿論帰ってくる答えはNoである。
「おかしいわね。地震なんて大規模な魔法を使える子はいないし、自然発生なら私も感じてるはず……」
ジェシカは一見テキトーに見えるが実際は思慮深い人だ。一度物事について真剣に考えだすと止まらなくなるぐらいには思慮深い。故に一部の生徒からはかなり恐れられている。
「ねぇねぇ」
ジェシカの会談相手は、暇を持て余したのか考え事をしているジェシカに話しかけていた。
「さっきちょっと出たけど、生徒会っていうのは強いの?」
ジェシカの会談相手が生徒会に興味を抱いた。彼女はことランドレットの話になると強い興味を示す。
「そうねぇ、あそこは問題児がいるからってわけじゃないだろうけど、寮の数だけある複数の生徒会でもトップクラスだと思うわよ。特に、あそこの会長は五本の指に入る逸材ね。ゆくゆくは特別魔導師になってもらいたいわ」
「へぇ……その人、名前なんて言うの?」
「フレアドール」
考え事をしながら完結に、淡々とジェシカはその名を口にした。特に伏せていたわけではないが数週間にわたって隠されてきた会長の名が、こうもあっさりと本人のいない場で明かされてしまった。
「フレアドール……それがジェシカ一押しの魔法使いってわけ?」
「そうだけど……それがどうしたの」
彼女は「よし、決めた!」と言って立ち上がった。
「私、その人に会いに行ってくる!」
彼女は窓を開け、淵に手を置いた。そして、人間にあるはずのない二対の翅が背中から生えた。それは天使のような神々しいものではなく、禍々しい黒と赤の色をした小さなモノだった。
「ちょっと待って! まだ会談終わってないって!!」
「じゃーねーっ!」
彼女は勢いよく飛び出していって、理事長室は急に静まり返った。
「……行っちゃいましたね。あの様子だとフレアドール生徒会長と戦う、なんてことになるかもしれませんよ」
「クッソ!! 話は今日中に終わらせとかないといけないっていうのに!」
ジェシカは自分専用の椅子に掛けてあったコートを羽織って外出の支度を始めた。
「向かうんですか!? あの寮に」
「行くわ。地震の件もあるし、何よりあの人と話をつけとかないと明日が大変なの! ホラ、あなたも準備して!」
「ええっ!! 私も行くんですかあの戦場に!?」
「護衛みたいなものよ。私に戦う力はないんだから」
「私だって魔法は使えませんよぉ~」
二人は急いで寮へと足を進めた。
☆
……………………。
……………。
………。
そして無人になる理事長室に、一人の影。
「不用心だなぁ~。そんなだから僕に簡単に侵入されてしまうんだよ」
せせら笑うその男は、かつてない理事長室への侵入を成功させてみせたのだった。
次回『シャイニングオブソーバー』




