アドバンス・ジ・ソーサルウェポン
「いやー疲れたぜー」
風呂上がり。ロンロンミルクを片手に俺は今日の成果を確認していた。
「ハルヒト殿は強いですね!」
「当ったり前よ! 俺はガキの頃に我流の剣術を磨き上げたんだ。あの程度の雑魚共に負けるほど俺は弱くねえぞ!」
「私なんかじゃあのモンスターには太刀打ちできないんですよね」
「善玉は何かのジョブになってんのか?」
「私は大納言使いです」
「大納言? 何だよそれ」
「私もよく理解してないんですよ。だからためしに使ってみようと思ったらMPが足りなかったみたいで……」
「あの時の状況になったってわけか」
「はい。武器を装備しようにも自分にはタイプが合わないみたいで装備できないんです」
「スゲー不憫だなお前」
「ハハハ、ハァ……どうしよう、このままずっとRPGの世界のままだったら……」
「心配すんなよ。これはこの町の侵入者の仕業なんだと。で、俺はそいつを倒すためにいる勇者。この俺にかかればこんなの明日には何とかなるって!」
「勇者殿……。あっエルナさんが戻ってきたみたいですよ!」
「待たせたのう」
「(湯上りのエルナは何かエロいな)いや、待ってないよ。行こうか」
「おい、変な妄想をするでないっ!!」
「してませーん(ホントーダヨー)」
「クソ主が……!!」
「そういやエルナ、あれ使えるようになったの?」
「魔導か? それならもう完璧じゃ! 余に使いこなせぬ魔導などほとんど何一つないわっ!!」
「言ってることが矛盾してるぞー」
「あのぅ、何の話をしているんでしょうか?」
「善玉は知らないんだったな」
「余が説明して進ぜよう!! フフフ、これを見よっ!」
「これは!!?」
善玉、尋常じゃない驚きだなぁ。まあそんなもんか……いーいだろう!! 俺も便乗するぜッ!
「そぉう!! これは伝説のエェクストラオゥーブジェークット!! その名も、アドヴァンス・ジ・ソゥーサルウェポンヌッ!!!!」
「魔導解読書なるものらしいのじゃ」
うおーい! 俺の話は無視なのじゃー?
「余の『じゃ』をパクるな! じゃ」
「ダメだ……語尾が完全にイカれてやがるッ」
クソッ! 遅すぎたんだ!!
「厨二病患者は放っておいて、余はこの魔導解読書「アドバンス・ジ・ソーサルウェポン」……を買ったのじゃが「唸れ! アドバンス・ジ・ソーサルウェポン!」――善玉、しばし待たれよ」
轟ッッ!!
「ちょっ!!」
エルナが殴り掛かってきたっ!! 早っ! 避けれn――――。
「っ……うー。ここは……」
寝室のようだが誰もいない。そういや部屋は三人とも別にとってたっけ。
「トイレいこう」
エルナに殴られてずいぶん時間がたってたみたいだ。完結的に言うと尿意がヤバかった。
「もっちゃうもっちゃうーって、アイツは……善玉?」
実は俺は皆に隠していたことがある。
本当は、この地の文は俺の好きなタイミングで相手の頭の中に送ることができたんだ。
だから俺は頭の中がダダ漏れなように見せていたのは俺の演技ってわけだ。
え? なんで嘘をついたのかだって? そりゃあお前……面白いからに決まってんだろ。
というわけで、この事実を知った君には特別にこれからは本当の俺の心を覗いてもらうとする。これは強制だ。しかし、あまり意味はないので安心してもらって結構。強いて言うならご都合主義だ。
ちなみにこの心の声は善玉には聞こえていない……ハズだ。
「おう、そうだ。ああわかってる」
善玉は何を話してるのかな?
電話の相手の声が聞こえればいいんだが……。
「そっちもたのむぜ、兄貴」
なんか言葉づかいが荒いというか、俺たちといたときとはまるで別人だ。
「ああ、俺もしっかり監視しておく。何をって兄貴、例のアイツらだよ」
……さっきから俺の嫌な予感レーダーがけたたましく鳴り響いているのだが。
「わかんねぇの!? 柊晴人と件の刀女だって! あいつら俺たちの存在を感知してやがったぞ!」
ハハッ、ビンゴだ。
「あーあ、小便が漏れちまいそうだなー」
俺はあえて善玉に聞こえるように大声を出した。
「!!?」
焦ってんなー。エルナ、聞こえたら来てくれー!!
「おっ善玉じゃん。どうした? そんなに冷や汗かいちゃって♪ 風呂上がりだろ? どや、なんならも一回風呂はいるかい」
「や、やあハルヒト殿。どうしたんですかこんな時間に……」
「いやいや、ちょっと用を催しましてねぇ、トイレに行こうかと思ったら善玉さんがいらっしゃったもので」
「ハルヒト殿? いつもと口調が違いませんか? いったいd」
「口調が違う? それはこっちのセリフなんですなぁ~。――――さっき、誰と話してた」
どう出る……。
「ふ」
ふ?
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!! ばれてしまったか!! まあいい。いつ殺そうが結果は同じだ」
天を仰ぎ高笑いを決め込む善玉。なんか物騒なことになってきてんじゃねえか?
「お前まさかッ!!」
「そうさ。私は、いや俺は!! この町に侵入し、町全体ををRPGに変えた犯人だ!!」
なんてこった、コイツは俺たちを騙してたってわけかよ。
俺たちの善意ってやつを踏みにじったってわけかよ。
「そうかい……で、お前の目的は何だ」
早くエルナ来いよ! あのバカ!
「――あの刀女なら来ないぞ」
突然背後から声が聞こえた。
「心の声……貴様が柊晴人か」
「誰だ! 黒タイツ野郎!!」
「兄貴! どうして……」
「どうしても何も、急に電話切れたものだから弟に何かあったのだと思い飛んできたのだ」
「兄貴!」
「弟……」
「兄貴ィ~」
「弟ォ~」
「ホモってんじゃねえ!! おいホモ兄、エルナをどうした……」
ホモ兄は俺に背中を向けた。
「心配するな、刀女なら寝室ですやすやと寝ている」
「何もしてないだろうな……!!」
「心配するなと言っている。俺は刀にぶっ刺す趣味は無い。どちらかというと刀は刺されるほうが好きだ」
「ハッ、ホモ野郎がっ……」
「あまり俺たちを怒らせないほうがいい。俺はここで貴様を殺すことだって可能なんだぞ?」
「へっ、やれるもんならやってみろよ」
「兄貴が見逃すと言ってるんだ! 引いた方がいいぞ勇者~」
「お前なんかスゲー噛ませ臭がするようになったな」
「何だと!」
「善玉(笑)」
「兄貴俺コイツ殺したい今すぐ!!」
もっとだ。もっと動揺しろ、冷静さが消えれば消えるほど俺が有利になる……。
「ここで殺しをしたら一般市民に気付かれる可能性がある。我慢しろ弟よ」
黒タイツのほう、案外冷静なんだな。いや、でももう少しだけ……
「へー敵さん方、細かいとこにこだわるねぇ~。いいんだぜ? 一思いに暴れてくれても」
「戻るぞ、弟よ。ここでのノルマは達成している」
「了解兄貴!」
「おいコラ逃げるのかカス野郎ども!」
「よく吠える……また会おう勇者。我が城で待っているぞ」
「じゃーな、ハ・ル・ヒ・ト・殿! せいぜい足掻いて死んでくれ」
ル○ラの類だろうか、ホモズの姿は一瞬でこの場から消え去った。
「ちくしょう!!」
俺はいてもたってもいられずエルナの寝室に急いで向かった。
☆
――寝室。
「エルナッ!! 大丈夫――」
言葉は途中で止まった。
エルナは小さな寝息を立てて眠っていたのだ。それを俺の声で起こすわけにはいかない。
「みたい……だな」
とりあえず一安心か。
「っ!?」
やべ、安心したらまた小さいほうがしたくなってきやがったぜ……。
「って、のんびり語ってる場合かっ!?」
騒いだらエルナが起きちまうって。
「ん……晴人? どうしたのじゃこんな時間に……」
ほーらーねー☆
「お、おうエルナ騒がしかったなスマン」
そそくさと出口に向かう。
「まだまだ夜は長い、しっかりと休めよ! それじゃ「待て」ハヒィッ!」
僕の腕、掴まれちゃった!
「おぬし何故余の寝室に来ておったのだ? 正直に白状しないと~」
手をゴキゴキと鳴らすエルナ。彼女の顔は……。
「とても……美しいです。(般若そのものだーーーッ!!)」
「よろしい。地に這い蹲って頭を差し出しなさい」
「エルナ様ッ!! しばしのご歓談を!!(もっちゃう! トイレもっちゃうのぉぉぉっ!!)」
「ふーん。漏れそうなのじゃ? 晴人」
「じっ、慈悲を……お慈悲をくださいぃぃぃ」
「問答無用☆なのじゃ」
涙。
俺の頬を伝う一筋の水を、人類は昔にそう呼ぶようになったのであった。
☆
拷問タイムじゃ! 過激な描写がありますので十八歳未満には見せられないのじゃ!
「助……けて…………」
「そぉい!!!!」
「あうすっ!」
☆
数分後。
「ということは、善玉はこの事件の犯人だった、ということじゃな?」
「正確に言うと犯人のうちの一人だ。まあつまり善玉は全然善じゃなくて悪だったってわけだ」
「やはりそうか……」
「ん? 心当たりでもあったのか?」
「うむ。晴人が気を失った後、奴は執拗に魔導解読書について訊いてきたのじゃ。あまりの剣幕になんとなく不信感を感じていたのじゃが……」
「魔導解読書は無事なのか?」
「それに関しては安心していいのじゃ、あれは余が店で購入したものじゃ。所有権は余にあるはずじゃから他人に取られることなどありはしない。それはこのゲームのルール、決まりごとの一つのはずじゃ」
「念のために持ってきてくれないか? エルナ」
「まったく、しょうがないやつじゃのう」
エルナは自分のバッグを探った。
しかし、お望みのものが見つからずエルナは徐々に焦りを見せ始めた。
「じゃ? ちゃんとここにしまっておいたはずなのじゃがのぉ」
おいおい……予想的中じゃねーか。
「アドバンス・ジ・ソーサルウェポンはここには無い」
「どういうことじゃ?」
「ここに無い、ということはおそらくさっきの襲撃のときに盗まれた可能性が高い。いや、十中八九あのとき盗られたんだ。間違いない」
「善玉に?」
「違う。もう一人の方、善玉が兄貴って呼んでいた奴だ」
「なるほど、彼奴らがこの事件の黒幕ならこの町をRPGに変えているのも同じく彼奴らの仕業じゃろう。だから、彼奴らにはこのゲームの裏をかいた行動ができるというわけじゃのう」
「そうだろうな。でも今回のことはラッキーだ。相手が自分からのこのこやってきたお陰で誰をぶっ倒せばいいか理解した」
「とはいってもラスボスじゃぞ。勝算はあるのか?」
「問題ないさ。見ろ」
『柊晴人 レベル・84 職業・勇者 スキル・覇王翔吼拳………』
「84じゃと!? いつの間にこれほどあげていたのじゃ!」
「俺のレべリング技術を舐めてもらっては困る。さんざん姉に鍛えられたんだ……あれは地獄だぜ?」
「あの姉に……あやつは重度のゲーマーだったからのう」
「まっあんな馬鹿姉でも役に立った。変態ホモ襲撃者ズを瞬殺できるぐらいにはな」
「その変態共の居場所は把握しておるのじゃ?」
「変態兄が言っていた。我が城で待っている、ってな」
「城……というと」
情報の町の全体図が載っているパンフレットを広げた。
その全体図のほぼ中央、第八地区と書かれてあるところに大きな建物があった。
「エンドゲイダンス城……晴人よ、余はこのような下劣な場所には行きたくないのじゃが」
「俺だっていやだよ!! ったくあのホモ共め、趣味悪いもの作りやがって」
「でも善玉たちを倒さないとこの世界はとんでもないことになるのじゃろう? 晴人は勇者なのじゃ、勇者が使命を果たさずして誰が代役を務めるのじゃ」
勇者勇者って、エルナは俺を煽るのが下手だな。でも、
「行かないわけにはいかねえよな。こんな汚い城でも、木っ端微塵にして世界の害虫を減らしてやろうじゃないか!」
「それじゃあさっそく行動開始じゃ! エンドゲイダンス城に行くぞ!!」
「待ってろよ善玉……!! 俺たちを裏切った罪は重いぜ」
最強の勇者による魔王討伐戦が今、始まった。
次回『第二章 エールスランディア解放戦線』




