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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第七章 ゾックゾク☆夢見る出会いは遺影の華♡
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82限目 男の人がこわくて死にます

 作中一位二位を争うほどに派手な死に方を披露した藤井ヒナによる、葬式である。


 だがしかし――。


 きょろきょろと辺りを見回すヒナ。

 彼女は葬式の人混みをくぐり抜けながら、眉をひそめた。


「……いらっしゃいませんね!」

「一体誰を捜しているの」

「そんなの決まっているじゃないですか、生徒会長と副会長ですよ!」

「あ、ああ……まあそうだね、やっぱり会いたいのは新キャラだよね」


 それどころか、七海光の姿もない。

 ぷんぷんとヒナは頬を膨らませる。さらに腕を振り乱しながら。


「もうっ、目の前でわたしが亡くなったのにぃ、いけずですよぉ、せっかく会いたかったのにぃ」

「う、うん、なかなかすごいサイコパスっぷりを発揮しておりますね」

「だってお葬式のためのゲームなんですよねこれは、それなのにお葬式に来てくれないなんて!」

「言っておくけど、『乙女は辛いデス』は真っ当な乙女ゲーです。ちょっとコンセプトがはっちゃけているだけで」

「今さらなんですか!」


 確かに今さらだ。ごもっともだ。

 ヒナは黒髪を撫でながら、思案顔に変わる。


「次はもうちょっとダイナミックに死んでみましょうか……ぜひとも葬式に来たくなるような……贅を尽くしたような……」


 こだわりの死亡職人ヒナはううーんと首を傾げる。

 まさしく匠の技だ。匠の技ってなんだ。


 シュルツはため息をつき、ヒナをたしなめる。


「おいおいヒナさんよ、これそういうゲームじゃねえからね。いかに葬式に人を集めるかがコンセプトじゃないよ。自分が幸せになることだよ」

「わたし、葬式にいっぱい人が来てくれると幸せになります」

「でもゲームはクリアできないから!」


 じたばたと――可愛い!――暴れる黒猫のぬいぐるみ、シュルツ。


 辺りにはいつものメンバー、つまりは優斗、凛子、それに樹先生などが辛そうに座っている。

 あ、奥の方に椋さんもいた。ヒナが通っているアルバイトの関係かもしれない。


「ああっ、死ぬときに『お葬式で待ってますね!』って声をかけて死んでみるとか!」

「ひらめいた! みたいな顔するんじゃないよ! そんなん一生モノのトラウマだろ!」


 目の前で突然死んだ少女が、息を引き取る前に言った言葉が「葬式で待ってます」だとか、そんなのホラーかサスペンスの香りしかしない。

 そこから少女の死の真相を探すという、謎の物語が始まりそうである。


「はー、会長と副会長の悲しんでいる姿が見たかった、見たかったんです……」

「最近ヒナさん欲望を隠そうとしないよね。丸出しだよね」


 元からだろうか、元からかもしれない。

 と、そんなときにヒナはパタパタと手を振る。


「って、違うんです、そうじゃないんです、シュルツさん」

「どうしたの。いかに効率的に人の心を抉ることができるかを考え続けていたんじゃないの」

「違います。そんなこと一生に一度も思ったことないです」


 ぴしゃりと言い切る藤井ヒナ。

 一体どの口が、といったところだが。


「そろそろわたし、本格的に『誰を攻略するか』を決める時期だと思うんです」

「あー」


 シュルツは細い声を出す。


 特になにも思うことはない。期待もない。感動も感慨もない。

 間を取るためだけの意味だったが、ヒナはきりっと語る。


「今のところ、攻略対象者は、七人います」

「もうそんなに出たんだねー」

「三島優斗くん、九条椋さん、一ツ橋樹先生、一ツ橋虎次郎くん、七海光先輩、八宮竜旗会長、そして五弥省吾副会長。わたし気づいたんです。攻略対象者さんは全員、名前に数字がついているんです!」

「お、おう……」


 ドヤ顔で言い出したヒナに、わずかに引くシュルツ。


「まあそれで、六日目になってふたり連続で登場したので、残る数字は、2、4、6です」

「まあそうだね、樹先生と虎次郎が兄弟で数がかぶっているから、合計で十人かな」

「あ、あとアールヴさんもいますよね! あの黒尽くめの! 魔法使いの!」

「あれは一応隠しキャラらしいけどね」


 死亡回数が千回以上も前に会った人物をよく覚えているものだ、とシュルツはわずかに感心する。


「さすがクレイジーサイコビッチだけあって、ホレた男のことは絶対に忘れないな……」

「失礼な。女の子のことだって忘れませんよ。平等です」

「そうか、ごめんね。……ごめんか?」


 首を傾げるシュルツに、こほんとヒナは咳払いをする。


「ともあれ、そろそろ誰とのエンディングに向かうかを、考える時期に来ていると思うんですよ」

「んーまあ、早めに決めておくのは悪くないよね」

「ちなみにわたしの好みは、優斗くん、樹先生、七海先輩、それに今回出てきたふたりの人たちです。と言いながらも、椋さんも虎次郎くんもすごく素敵です……」

「全員じゃねえか!」


 ほわほわほわと恋する乙女の視線で頬を染めたりするヒナに、シュルツは汚い言葉でツッコミを入れてしまう。

 彼女を少しでも現実に引き戻そうと思っているのだ。どうせ無駄なあがきなのだが。


「でもその中でも、誰かを選ばないといけないのなら!」

「いけないのなら!」

「わたしはあえて赤の子を選びます!」

「いや無理、絶対に無理、優斗くんは無理。ぶー、だめです。失格」

「どうしてですか!?」

「基本的にゲームの世界に口出しはしないと決めているボクだけど、優斗くんだけは無理です。あと二億回死ぬよキミ」

「たとえ二億回死んでもその先に未来があるのなら……」

「やめようよ、そういうロボットモノの主人公みたいに瞳に情熱を燃やすのは。今は攻略を最優先しようよ。死んじゃうよ」


 シュルツの気弱な発言に、ヒナはちらりとこちらを見下ろして、なにかを期待するような顔で。


「……シュルツさんのために、ですか?」


 うぐ、と声が詰まった。

 言いたくない。すごく言いたくない。


 なんだかすごくヒナを調子に乗らせてしまう気がする。

 ほら、今だってなんか口笛とか吹いているし。


「あー、でもでもぉー、わたしぃー、優斗くんがタイプですしぃー」


 ちらっ、ちらっちらっ。


「どうせ全員タイプのくせに……」

「それはそうですけどぉー、えー、でもでもー、えへへー」

 

 うざい。

 なんだこの子、すごいうざい。うざい!


 でも、そのためにヒナに頼まなければいけない。

 どうかボクのために他の人を選んでください、と。


 シュルツは己に言い聞かせる。

 しょうがないじゃないか、ここに閉じ込められるぐらいなら、自らの主張を曲げなければならないこともある。


 頭を下げるのは一時の恥だ。

 二億回も死なれるわけにはいかないのだ。


 だが、だが――。


 シュルツは爪を立てながら、歯を食いしばる。


「き、キミがそれを望むなら……望むなら……! 致し方あるまい……!」

 

 苦悶に耐えながら、彼(彼女?)は声を振り絞った。

 そこには――命の輝きがあった!


「ボクはキミにゲームを楽しんでもらうためにやってきたんだ……。そんなキミがどうしても優斗くんを気に入ったというのなら、気に入ったというのなら、彼とのエンディングを見るためにがんばってもらうのも、致し方ないということだろう……!」


 こんな状況下にありながら、シュルツは断固として言い張る。

 

 それは徹頭徹尾貫いている、そのポリシーであった。

 ゲームとはゲームをする人のためのもの。シュルツはあくまでもそのサポートだ。


 たとえ相手が、殺意こいの波動に目覚めた、狂オシキビッチであっても。

 スタンスは変わらない。一切変わらない。


 なのだが――。


 ヒナはほろりと目元を拭う。

 感動したのだ。


「ごめんなさい、シュルツさん」

「う、うん……」

「わたし、シュルツさんのことも考えないで、自分勝手でした。わがままを言ってしまって、本当にごめんなさい」

「はい……」


 げっそりとした顔のシュルツに。

 ヒナは胸を叩いてにっこりと笑った。


「だったらわたし、心の底から望むエンディングとして、全員と結ばれる逆ハーレムルートを目指します! シュルツさん、応援していてくださいね!」

「ぶち殺すぞ」


 とりあえず、虎次郎狙いということになった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 虎次郎とは、凛子の幼なじみであり、

 樹の弟の、ちょっとグレている不良キャラだ。


 彼とヒナは帰り道をともにしても死ぬことがなかったほど、気安い仲である。

 虎次郎ルートを攻略するために必須なのは、凛子との関係性だ。


 というわけで。


「りんこちゃーん、りんこちゃーん、りんこりんこちゃーん、りんこちゃん、りんこちゃん、りんこりんこちゃーん」

「藤井さん、朝からなんとかマウス・マーチのリズムに乗せて、あたしの名前を呼ばないで……」


 教室についたヒナは、椅子に逆向きに座りながらニコニコと凛子を眺めていた。

 凛子は文字がびっしりと書かれているめいしを、ひどく辛そうにめくっている。


「ねえねえ、リンコ、きょうは朝礼があるんだよね」

「は、はい、そうですね。全校朝礼です」

「きょうは虎次郎くん、学校来るかなあ」

「あー、どうなんでしょう。虎は一時間目から来ることが稀だからなあ……」


 眉根を寄せる凛子。

 なるほど、ヒナは考える。というと、虎次郎が学校に来るかどうかはランダムなのかもしれない。

 それなら彼の好感度を稼ぐためには、その機を逃さないことが大事なのだろう。


「なるほどー」


 そんなことを言っていると、椋がやってきて、一同クラスメイトを呼びに来た。

 全校朝礼の時間だ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 さすがにもう演説だけで死んではいられない。

 こんなことで死ぬはずもない。会長も葬式には来てくれないし。


 目をつむって耳を塞ぐことなく生き延びたヒナは、スタスタと両足をコンパスのように動かして教室へと向かう。

 その際に、しっかりと自衛も忘れない。


「え、えっと、どうして藤井さん、あたしの後ろに隠れているの……?」

「男の人はオオカミなんです」

「えーっと……」

「わたしは狙われているんです……リンコ、守ってください……」


 凛子は背中にビッチを隠したまま、うーん、と顎先に指を当てる。


「ひょっとして藤井さんって、男の人苦手だったりする?」

「…………そう、ですね。苦手と言えばすごい苦手です、すごく」


 まんじゅうこわいで言うと、相当な恐ろしさだ。

 ペガサスナイトに対する弓兵部隊のようなものでもある。キリキリマイだ。


 そんな風に凛子の後ろに隠れながらコソコソしていると。

 くすっと凛子が微笑んだ。


「……もう、しょうがないですね、藤井さん。いいですよ、あたしの後ろに隠れていてください」

「り、リンコ……っ!」

「もうちょっとで教室だからね。男の人が怖いだなんて、藤井さんも案外、可愛いところがあるんですね」

「……っ」


 エンゲージロックというものがある。


 固定のキャラクターと行動をともにすると、他のキャラクターが出てこないシステムのことだ。

『乙女は辛いデス』はこれが顕著である。椋と一緒に下校すると他のキャラクターが登場しなかったり、凛子と一緒に行動をすると彼女以外のキャラクターが現れなかったり。


 今回もその通りだった。

 凛子と一緒に教室に向かっているからこそ、前回登場した七海光が姿を見せなかったのだ。


 つまり今回は勝ちの目が十分にありえた。

 ありえたのに!


「でも、わたし、今は凛子ちゃんが一番こわい!」


 優しい凛子の優しい優しさに触れて、ヒナはゆっくりと倒れてゆく。

 こてん、と。久しぶりの真っ当な死である。


「……え、藤井、さん……え……?」


 青ざめてゆく凛子の前。

 シュルツは静かにつぶやいた。


「……お後がよろしいようで……」


 1164回目。

 1165回目。

 死因:会長の演説を聞いて。


 1166回目。

 死因:まんじゅうこわい。


 シュルツより一言:会長の演説で死んでんじゃねえか!!

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