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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第七章 ゾックゾク☆夢見る出会いは遺影の華♡
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81限目 昇天(ゴー・ゴー・ヘヴン)

 お葬式である。


「ふー、ひどい目に遭いました」

「キミ以外の全員がそう思っただろうよ」

「???」


 はっ倒したい。

 第一話からずっとひどい目に遭い続けているシュルツはそんなことを思う。


 平凡で地味な女子高生藤井ヒナと、黒猫のぬいぐるみのシュルツは、葬式の催場の片隅にいた。


 本当ならどさくさに紛れてオペレーターのポジションを新たなAIに任せようと思っていたのだが。

 タイミングを外してしまった。しょうがない。


「それにしてもー、いませんねー」

「んー」


 きょろきょろと見物客のように葬式を眺めるヒナ。

 バレリーナのようにつま先立ちをする彼女は不謹慎極まりない態度だが、まあ幽霊のために誰にも見られることはない。


「誰かお探し?」

「ほら、生徒会長さんがいらっしゃったじゃないですか。だからお葬式にきてくれないのかなー……って」

「まあいないよね。自分の学校の生徒が死んだからって、面識もないのにいちいち生徒会長が押し掛けたりしないでしょ」

「きてくれるのならわたし、何度だって死んでみせるのに……」

「なんかそんなサイコパス問題あったな……」


 自分の旦那が死んだ葬式ですごくカッコイイ男性を見つけた奥さんが、その後なんやかんやで子供を殺したりするのはなぜ?という問題だ。

 うろ覚えだが、会いたくて、だとかそんなやつだった気がする。


 シュルツはサイコパスビッチから微妙に距離を取りつつ。


「さ、それじゃあそろそろやり直そう。もう見慣れたでしょ?」

「そうですね。でも何度見てもかっこよくないですか? わたしのお葬式で涙を流す優斗くん。イケメンですよね……」


 はぁ、と桃色のため息をつくヒナ。

 たぶん千回を突破した死因のその半分以上は優斗のはずなのに……。


 そう言うシュルツも、他人事ではいられない。

 先ほどからふたりの近くでは、優斗がヒナの棺にすがりつきながら泣いているのだ。


 そんな痛ましい様子を、シュルツはもはや光のない目で見つめている。

 これはどういうことだろう。なんかもう、すごい、慣れ切ってしまっている。


 一回一回変化があるのならまだ悲しむことができるのだが……。

 

 もはやシュルツの胸は痛んでいない。

 なんか精一杯雰囲気に浸ろうとしてみたけど、だめだ。悲しくないのだ。

 なんだったらもう、ああうるさいなあ早く終わらないかなあ、ぐらいのモンだ。


 だめだ。もうだめだ。だめかもしれない。

 現実とゲームの区別がつかなくなってきた。ゲーム脳だ。


「うう、ボクはボクは……」


 苦しむシュルツの前、ヒナは恋する乙女の視線でキラキラと葬式を見守っていた。

 徹頭徹尾、そのスタンスが変わらない。


 藤井ヒナはまるでぶれない。ダイアモンドのようなメンタルを持つビッチであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「おはようリンコー、ほーら名刺だよー、たーんと食べて大きくおなりー」

「え、ええ……?」


 どさりと机の上に名刺を置くヒナ。その数十三冊。

 凛子はもはや真っ青な顔でそのうちの一冊を手に取り、ぺらり、とめくる。


「は、はい……藤井さんとオトモダチになるために……がんばります……」

「えへへー、よろしくねー」

「はい……ありがとうございます……がんばります……」


 シュルツにも、もはやかける言葉はない。

 ただ彼女の幸福を。これからの人生の平和な生活を願うのみだ。


 せめてきっと大学生にでもなれば、藤井ヒナとは縁が切れるだろうから、それまでは……。


「ひょっとしてこれっていじめなんだろうか……」


 ぼそりとつぶやくと、席に座っていたヒナのアホ毛がぴょいんと反応した。


「えっ、なんですか? いじめですか?」

「うん、ちょっとその現場を見てしまって……気分が悪くなってきてね……」


 沈鬱な顔をするシュルツに、首謀者であるヒナはドンと胸を叩く。


「わたし、そういうのはよくないことだと思うんです。だからわたしに任せてください。みんなをとびっきり仲良くしてあげますから。全員が全員、全員の幸福こそが自分たちの幸福だと信じて、グループ全体の幸福の総量を高められるように努力をし続けられる存在へと昇華させてみせますから」

「しかしすごく身近なところにいるのだ……」

「えっ、も、もしかしてこのクラスですか? いくらリアルなゲームだからって、そんなところまで再現しなくてもいいですよね!」

「そしてまったく自覚がない……」


 うめくシュルツ。

 

 それはいいとして、ホームルームの時間になって椋が呼びにきた。

 いまだにしつこくシュルツにいじめについて問いただしてくるヒナを適当にあしらいつつ、次のステージへと向かおう。


 さあ、講堂(しょけいじょう)へと移動だ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 八宮龍旗が壇上に立ち、マイクを握りしめながらその中村悠一のような杉田智和のような宮野真守のような、まあとにかくひたすらにカッコイイ声で告げる。


「さあ、謳歌しろよ、青春の日々を! 吹き荒れろ! 青春の風」


 講堂の中頃の席に座っていた藤井ヒナは衝動的に立ち上がり、叫ぶ。


「はい! わたし、がんばります!!」


 その次の瞬間、吹き荒れたのは死の風であり、響き渡ったのは周囲の生徒たちの絶叫だった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 実にスピーディーに死と再生を繰り返し、その後、ヒナは講堂からよろよろと這い出てきた。


 生徒たちの波に押されながら、彼女は青い顔でつぶやく。


「はあ……かっこよかったです……かっこよくて死んじゃうところでした……」

「死んじゃってたけどね!」

「危ないところでした……あと三秒……いや、一秒でも壇上からいなくなるのが遅かったら、死ぬところでした……」

「そんなにギリギリだったんだ!」


 歯をギリギリさせながら怒鳴るシュルツ。

 

 そんなヒナが講堂で行なった行動とは、単純なものだった。

 クレイジーサイコパスビッチョロイン(また長くなった)は耳を塞ぎ、目を閉じたのだった。


 次元の壁を破壊するほどの能力を持った少女が頼った原始的手段は、効果的だった。

 ヒナは指をぱっちんと鳴らし、にっこり微笑む。


「結局人間は、イヤなことからは耳を塞いで生きるようにできているんですよね!」

「後ろ向きな発言をそんな良い笑顔で言われてもねえ」

「い、良い笑顔……!」

「わなわな震えるな! 言葉のあやだ!」


 危うくオウンゴールを決めてしまうところだった。

 ヒナのポケットの中から叫ぶシュルツ。


 ぞろぞろと列になって講堂から帰っている最中。

 廊下でのんびりと寄りかかっている上級生に、ヒナは声をかけられた。


「お、仔猫ちゃーん」


 軽薄な印象を受ける、その軽やかなかけ声――。

 そう、超絶イケメンのバンドマン、上級生の、七海光だ――。

 

 幾度となく繰り返し繰り返し殺されたその男を前に――。

 ヒナは認識よりも早くその体が反応する――。


 ――感覚遮断(オンリーアイソレーションタンク)――。



 フローティング・タンクというものがある。

 

 人間が浮かぶ程度の人肌に温められた液体が詰め込まれた、光と音を遮断する小部屋のことである。

 この中に入って仰向けに寝た人間は、聴覚と視覚、温覚、さらに重力からすらも解放されるのだ。


 ジョン・C・リリーが1954年に考案したものである。


 当時は感覚遮断によるその脳への影響を観測するために始められた実験であったが、今は転じて、心理療法やリラクゼーションに使われることすらあるという。

 重力からすらも解放された状況下、カール・ルイスがイメージトレーニングに使用して効果を発揮したことから、一躍有名になった。


 強制的な感覚遮断とは、とてつもなく脳がリラックスしている状態なのだ。

 ありとあらゆるくびきから解き放たれることによって、人はまさしく夢見心地を味わえるという。


 そんな状態に――今、藤井ヒナは自ら埋没した。


 自らの五感を意図的に強制解除(カット)することによって、その状態を誘発したのだ。

 

 三分間、藤井ヒナはその場に立ち続けるだけの人形(ドール)と化した。

 七海光から身を守るための、究極の防御システムである。


 そして彼女は、三分きっかりで、感覚を取り戻す――。


「――ハッ」


 カッと目を見開いた藤井ヒナは、視力を取り戻す。


「危ない、危ないところでした。もうちょっとでなにかすごく素敵な――いいえ、その、イヤなものを見てしまうところでした」

「急に機能停止状態に陥ったキミを前にして、ボクへのストレス負荷ははんぱなかったんだけど」


 動悸を押さえながらねめつけてくるシュルツの見上げる先、ヒナは深呼吸しながら胸に手を当てる。


「こんなときのために、菩薩樹の下で座禅を組んで悟りを開いてて良かったです」

「どう見てもヒナさん煩悩まみれなんだけど」

「初転法輪を説いて回ってきます」

「鹿にでも語ってろよ。じゃなくて」


 シュルツはそそそ、とヒナから離れながら、うめく。


「ぜんぜんピンチ脱してないからね」

「え?」


 ――刹那、気づく。


 ヒナの左隣に、七海光がまだいた。

 (゜_゜)みたいな顔で驚くヒナ。だがしかしそれで終わりではない。


 ヒナの右隣に、あの生徒会長がいた。


「おう、光! こいつがこの学校に来た転校生か! 噂には聞いているぜ!」


 さらにその左隣に、黒髪の美青年が立っていた。

 髪を後ろになでつけた、オールバック気味の男だ。


「……ふむ」

 

 がっしりとした体格に、細い目をさらに瞑っている。

 腕を組みながら立つ彼は、寡黙に佇んでいた。


 イケメンというよりも、ダンディー。

 美形というよりも――もちろん美形なのだが!――男前、そんな言葉が似合うような男だった。


 これまでにいないタイプの男性だ。

 ああ、ああ――。


 ウィンドウが同時にふたつ、ポップした。


『五弥(いつや)省吾(しょうご)。

 生徒会長を陰ながら支える、無口、実直、堅実と三拍子揃った3年生の副会長です。

 口数は少ないながら、彼の想いはきっとあなたにも伝わることでしょう』


『八宮(はちみや)龍旗(りゅうき)。

 自称魔法使いのカリスマ生徒会長。なんでもできてしまう、スーパーマンです。

 彼はきょうも元気に、数星学園とあなたをグイグイ引っ張ってゆくのです』


 数星学園の、生徒会長と副生徒会長。

 これでシュルツが退避していた理由もわかった。


 光と省吾と龍旗。

 三人の視線がこちらに降り注ぐ。

 溶けそう。


 右を見ても美形。

 左を見ても美形。

 振り向いても美形。

 ああ美形。美形ザ美形。美形天国。美形インザヘヴン。ゴーゴー・ヘヴン。

 

 ――ヘヴン状態!!


 たぶんここが天国だと、藤井ヒナは思った。

 恋愛メーターは今までに見たことのない速度で急上昇してゆく。

 加速せよ、加速せよ。己の恋心がささやいているかのようだった。

 天にも昇る気持ちであった。


 長身の三人に周りを取り囲まれて。


 ――恋の嵐が吹き荒れた。


 急速に高まる恋エネルギーの逃げ場がなくなったヒナは、その場できりもみ回転しながら血を吐き出した。

 まるでしめやかに爆発四散するかのように、ひとりの乙女はその場に散った。


 茫然自失の体で少女の末路を見届けていた三人の唇に、真っ赤な血がびちゃりと付着する。


 響き渡る絶叫、パニックを起こす群衆。

 連なる列は崩壊し、生徒たちは我先へと逃げ出してゆく。

 真っ赤に染まった廊下には、おびただしいほどの血液がこびりついた。


『……え?』


 三人の上級生たちは、いまだに微動だにできず。

 唇から滴る血は、ぽとりと床を叩く。


 恋の嵐は――青春の味は、鉄の味がした。


 1158回目。

 1159回目。

 1160回目。

 1161回目。

 1162回目。

 死因:生徒会長の演説に感動して。


 1163回目。

 死因:生者必滅天魔降伏上級生陣(Super Over Kill!!)


 シュルツより一言:ヒナさんは天国に旅立ちました。



 作者より一言:8/30の書籍発売日までつらたんを毎日更新します。できるところまでします。たぶん……します……。

 なお、この期間は作者返信の「やったね!」が1/65535の確率で「買ってね!」に自動変換されます。やったね!

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