解散
青い空に、一隻の飛行船が浮かんでいた。
船内の円卓には、三人の男が座っている。
元々、数時間前までは。この三人を含めて14人もの遍歴騎士団だった。歌にまで成った、語り継がれる騎士達だった。それだとしても、魔獣には敵わなかった。
船長は先ほどまで、この騎士団をどうか救ってもらう様に篤信した神に、長い間祈っていたため痙攣した肘を休ませて行った
「……もう、解散だ」
そう言った男の手には、魔獣の首がぶら下がっていた。
この世界には、魔獣がいる。
人間を喰らい、村を襲い、ときには軍隊すら食い破る怪物たちだ。
そして、その魔獣の首を持った男がいる。
その男は身長は六尺に届くかどうか。
しかし、その数字から想像するような体格ではなかった。
肩幅が広く、首が太い。
鎧の上からでも分かるほど胸板は厚く、腕は丸太を削り出したようだった。
身につけているのは、飾り気のない鎧。
腰にはロングソード。さらには脇差代わりの長い腰鉈。
サレットヘルムの奥から覗く目は険しい。
魔法使いの華やかさも、騎士の優雅さもない。唯一華やかなのは、手に持った聖歌のオルゴール。
ただ、生き残るために身体を鍛え、斬るために剣を携えた男だった。
男は、魔獣の首を床に置いてこういった
「片目のローディも」
「鼠のエドガーも」
「三本腕のジャックも死んだ」
誰も口を開かなかった。
男は三人掛けの円卓を見回した。
「だから、もう解散だ」
二人の騎士は黙って立ち上がった。
そして、それぞれの自室へ向かった。
しばらくすると、船内のあちこちから物音が聞こえてきた。
ガチャガチャ。
ドサッ。
バタン
四十三人いた遍歴騎士達は、その日をもって消滅した。
しばらくして、あたり一面が緑で包まれた大地に、飛行船が着陸した
「それじゃあな、マスター…いや、もう違うか…ウィース。いい時間だった」
「ああ、ロッソ。元気でやれよ」
もう、誰も役職で呼ぶことはなくなった。
…3時間ほどかけ、必要なものには片っ端に施錠して、ウィースが無理やり作った、飛行船内の礼拝堂で神に祈り、ウィースも飛行船を出た。
ーーー
ウィースが地図を開きながら、土手を川に沿って歩いていると、二人の少年が、河原で川に向けて石を投げ、どちらが跳ねたかを競い合っていた。
「ったあ!5回だ〜へへっ」
「ちぇっ、俺の負けかよぉ〜」
「もう一回やろうぜ〜」
「わかった〜!じゃ、今から5分の石集めな〜!」
そんな光景を横目に見つつ、土手を歩いていると…
グシャッッ!!!
鈍い、打撃音が響いた。ウィースではなく、河原の方から聞こえた
「?!」
ウィースが慌てて河原を振り向くと、直径8cmほどの石が、サレットヘルムにゴツ!と当たった。粉塵が入り込み、咳き込んだ
「コホッコホッ…なんだ…なんだ…なんなんだ…!」
粉塵が入った目の痛みを堪え、先ほどの子供達がいたところを見ると…
子供達は口元の皮膚が荒々しく、何か球状のものが通ったように抉れ、残った顔の皮膚は真っ白。気絶しているように見える
「なんだ、なんなんだ…?誰が」
ウィースは腰の鞘からロングソードを抜いて、臨戦体制に入って、サレットヘルムのバイザーをあげて索敵していると…川面から、男の顔だけが浮かんでいた
「お前か?!」
川の男は答えない
ウィースは半歩踏み出し、その膝の水平線上あたりに剣を低く構えた。剣を腰より低く落とす。 プフルーグ)の構えで牽制し、じりじりと近寄っていく
一歩ずつ、自身の質量を地面へ押しつけるように、近づいていく。




