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050 動画投稿!

 説明会の後に正式に応募のあった五名の配信者。

 それぞれの配信が、満を持して始まった。

 

 もちろんすべてをチェックしているけれど、今日は仕事の合間に最新の配信分を一つずつ聞いてみることにした。少し気分転換にもなるし、全く興味を持って無さそうなハウンドにも聞かせてみたかった。


 まず最初に流してみたのは、ハイム食堂の看板娘であるマインちゃん五歳の配信だ。ハイム食堂も配給のお手伝いをしてくれることになって、放送は彼女が担当してくれた。


『今日のはいきゅうは、十二時から教会で行います。それと、今日のハイム食堂のランチメニューは、なんと! ロベリアさまもだいすきなお好み焼きです! みなさん、ぜひ来てください!』


 ほっこりする声と微笑ましい配信内容はすでに多くの人に癒しを提供しているようだ。食堂に商品を卸している食材店がスポンサーになりたいと名乗りを上げてくれたのも嬉しい成果だった。


 次に聞いたのは、監視塔にも付き合ってくれた考古学者マーカスさんの歴史授業だ。


『ミュゼ公国の歴史は古く、膨大な魔力を背景にしながらも、発展と衰退を何度も繰り返してきた一族です。謎のヴェールに包まれた国ではありますが、今日の授業では初代当主の時代に遡ってみましょう……』


 淡々と語る彼の講義は、内容の深さに魅了されて思わず作業の手を止めて聞き入ってしまうほど。

 そして、彼の口から紡がれる低音ボイスには女性ファンが多いという。配信ペースはゆっくりだと言っていたけれど、映像がつけばさらに理解しやすくなるだろう。映像付きの授業が待ち遠しい。


 露天商のメイソンさんは、その日仕入れた商品の紹介をしてくれる。それだけではなく、彼は各国を飛び回っているから滞在地の情勢にも触れてくれるのがありがたい。


『――はい、今日仕入れた商品は以上です。この配信を聞いていただいた方は、その旨を私にお伝えください。一割引きで提供させていただきます』


 さすが商人。教えてもいないのに自らアイデアを見つけるところがすごい。実際に配信を聞いて店に足を運ぶ人が増えたという話も聞いている。


 女冒険者のリリーさんは各地で受けたクエストの内容やその日のフィールドワークを紹介するのがメインだ。この人がライブ配信を始めたら、間違いなく爆発的な人気が出るだろう。


『はぁー、びっくりした! いやぁ、まさか監視塔から外れたところにも魔獣がいるなんてね。皆も旧ランヴェール領周辺に行くときは気を付けて! でも、謎の焼け跡の原因については結局わからなかったなー。あんなところで自然発火なんて起こるわけないし。ま、今回の依頼内容は被害範囲の調査だから、そんなに深入りはしないでおこっかな。それじゃ、まったね!』


 この話を聞いて内心ドキリとしてしまった。その焼け跡の原因に心当たりがありすぎるからだ。

 位置を確認していたハウンドもきっと私が関与していたことを察しているのだろう。彼の視線が鋭く私に突き刺さる。


「……この依頼は王都の研究所からのものだそうだ。手つかずの地で急速な魔力の干渉があったから調査をしてほしい、とな」

「へ、へぇ、そうなんだー」


 なんとかしらを切ってみたけれどハウンドにはお見通しのようで、呆れたようなため息が響いた。


 最後にチェックしたのは、サントスさんの恋愛相談。ムーディなBGMは自前で用意したものだろうか。擦れた吐息混じりの声がなんとも色っぽい。横目でハウンドを見ると、露骨に嫌そうな顔をしているのが見えた。


『ごきげんよう、サントスよ。今日で五回目の相談だけど、悩める子羊ちゃんたちからたくさんのお手紙を頂いているわ。まずは最初のお便り……あら、前に相談をくれた方からね。ええと……まぁ、告白がうまくいったんですって! やっぱり、変なプレゼントよりも真心が一番ね。いい? みんなも、サプライズと称して相手が欲しくないものを押し付けちゃだめよ。それじゃ、次のお手紙は……』


 わお、告白がうまくいったんだ。前に聞いたときは「彼女の顔を掘ったペンダントをプレゼントしようと思っている」なんて言ってたからどうなるかと心配していたけど、サントスさんのアドバイスが効いたんだね。


「良かったねー、告白上手くいって」

「心底どうでもいい。そいつのチャンネル登録は解除しておけ」


 やーだよ、と言いながらベッと舌を出すと、ハウンドは忌々しそうにエコーストーンを睨みつけた。

 時計を見ると、午後三時。そろそろ私の配信が流れる時間だ。


「大丈夫かな、ちゃんと映るといいんだけど」

「テストはしたんだろ。なら大丈夫じゃねぇのか?」

「そうだけど、心配は心配なの!」


 そんなやり取りをしているうちに、あっという間に午後三時。エコーストーンが点滅して配信の受信を知らせた。

 私はドキドキしながら自分のチャンネルを開くと、新しい動画がちゃんと配信されている。それをタップすると、いつも通り画面は真っ黒なまま私の声が流れ始めた。


『どもどもー、リカちぃでーす! みんな、今朝のアップデートはちゃんと確認してくれたかな? なんと今日から……動画配信が始まるよ~! 開発チームの皆さん、ありがとう~!』

「……映ってないんじゃないか?」

「あ、これは演出でね、この後にちゃんと表示される――はず!」

『それじゃあちょいと失礼して……パっ、とね! どうどう? 私の姿、ちゃんと映ってる?』


 真っ黒だった画面が切り替わり、映し出されたのはお屋敷の庭園をバックにしたリカちぃの姿。――うん! やっぱりロケーションが最高。瞳の色に合わせた空色の衣装が庭園の真っ赤な薔薇と絶妙にマッチして、リカちぃの可愛さが際立ってる。


「あ、ほらほら、映ってるでしょ? 可愛い? ねぇ、可愛い?」

「お前、自分のことをよくそんな風に言えるな……」

「自分だけど自分じゃないしなぁ……画面越しだと余計にそう感じるっていうか?」


 そう、画面に映るリカちぃは国宝級の可愛さだけど、自分だって言われても未だにピンとこない。もうフレデリカとして過ごすようになってからそこそこの月日が経ってるはずなのに、鏡を見るたびに「可愛いなぁ」と他人事のように感じてしまうのだ。


『来月には他の配信者も動画投稿できるようになるから、楽しみにしててね! もし「私も配信者になりたい!」って人がいたら、ギルドに申し込み用紙があるので、ぜひ送ってください♪』


 とはいえ顔出し配信ってやっぱりハードルが高いかも。もちろん、顔出しに拘らずとも動画が流せるようになっただけでも革新的だし、音声だけでも全然OKなんだけどね。


『さて、今日の内容はこれだけじゃありませんよー。みんなに安定して高品質な配信をお届けするために、クラウドファンディングを開催しまーす! ……なんぞそれって思うよね? 簡単に言うと、みんなから支援をいただく制度なんだけど――』


 その後はクラウドファンディングの説明が続いていく。支援をしてくれたメンバーに対する返礼品についての説明になると、ハウンドがふと反応を見せた。


「……この、シルバーメンバーの『歌が収録されたチャーム』ってやつには、あの歌は入っているのか?」

「あの歌? どの歌?」

「あの……お前が歌っただろう。説明会があった夜に」


 ハウンドが少し言いづらそうにしながら話している。その言葉を聞いて記憶をたどると――ああ、子守唄のことかな?


「あれは入れてないんだよね。配信してないし、あの歌は短いし」

「そうか。ならいい」

「あれ~? あれあれあれ~~? もしかして気に入っちゃった? なによもう、言ってくれたらいつでも歌って寝かしつけてあげるのに――」

「ふむ。しばらく外出はやめておくか?」

 

 遮られるようにそう言われて、私はぴたりと口を閉じた。ちょっとからかっただけなのに外出禁止はひどくない?


『クラウドファンディングに賛同してくれる方は、こちらもギルドに申し込み用紙があるので配信ギルドまで送ってください! 追って支援金の支払い方法についてご案内させてもらいますね』


 みんな、楽しんでくれたかな。クラウドファンディングにも参加してくれるかな。この世界での反応がどうなるのか不安はあるけれど……今から感想のお便りが待ち遠しい。


『今日はこんな感じでおーしまい。また明日も楽しみにしててね。それじゃあ、今日も元気なリカちぃでした。ばいば~い♪』


 プツリと画面が暗くなり、配信が終了した。うん、やっぱり時間に余裕があれば充実した内容を届けられる。

 しかも動画配信もできるようになった。ストックしているものもいくつかあるし、しばらくは一日一本のペースで投稿を続けていきたい。


 次のステップはライブ配信だ。スポンサーも集まりつつあるし、広告の導入時期もそろそろ決めなきゃ。マナをポイントに変換する仕組みも整えて……やることが、山積みだ……!


「終わったか。さぁ、いつまでもサボってねぇでさっさと仕事に戻れ。配信に現を抜かしてる間に出店計画書が山程届いてんだよ」


 それに加えてハウンドが容赦なく領の仕事も振ってくるものだから、たまらず計画書から目を逸らしてしまう。


「……ねぇハウンド、文官を雇う予定ってないの……?」

「長く続かねぇから教育するだけ時間の無駄なんだよ。……だが、今なら多少は保つかもしれねぇな。フォウに連絡してみるか」


 お、よく分からないけどちょっとその気になってくれたようだ。光明が見えた気がしたのに――、


「引き継ぎはお前がやれよ」


 そんなあんまりなお言葉に、再び頭を抱えてしまった。


 

 翌日の夕方。早速配信ギルド宛のお便りが屋敷に届けられた。

 数は――これまでの倍以上。フォウローザ内だけでも反響がこれほどあるなんて。他国からのお便りが届くは数日後だろうけど、すでにこの盛り上がりならば動画配信も成功だと言っていいだろう。


 明日からは文字の勉強配信も始める予定だ。それが定着すれば、識字率も上がってもっとお便りが届くかもしれない。エコースポットの設置も順調に進んでいるし、来月には全世帯に届けられる見込みだ。

 

 フォウローザはまだ小規模な領地だから実現可能だったけど、大陸全土に行き渡るとなるとまだまだ時間がかかるだろう。――道のりは長そうだ。


「凄い反響……ですね」


 振り分けが終わった手紙が次々と自室に届けられ、シアさんと一緒に夢中で読みふける。手紙だけじゃない。クラウドファンディングへの申込書もたくさん同封されている。フォウローザの住民は豊かなわけではないからノーマルメンバーが多いけれど……それでも、支援の気持ちが伝わってきて、胸がいっぱいになる。


「これは……あれ、トーマ君からだ。いくらなんでも早すぎるから配信前から発送していたんだろうな……」

「プラチナメンバー第一号ですね。開発者なのに、お金払うんですね……」

「あげるって言ったんだけどさ、メンバーリストに名を連ねたいんだって聞かなくて」


 でも、これで彼の願いは叶うことになるだろう。ゴールドメンバー用のチャームにはもちろんリカちぃボイスを選んでいて、リクエストのメッセージは……『名前+おやすみなさい』、だね。せっかくだし、ちょっと特別なものにしてあげよう。


 そして、私の手元にはまだ何も収録されていないチャームがある。これには、こわーいおじさん専用の特別な歌を吹き込む予定だ。こちらもとっておきのやつをね。


 その時、エコーストーンがチャンネル投稿を知らせた。確認してみるとリリーさんの配信だった。昨日は北の森で探索をしていたみたいで、『この辺は魔獣が減ったよねー』なんて言っている。


「ふふふ、楽しいなぁ」

「そうですねぇ……」


 シアさんも手紙を読む手を止め、エコーストーンの画面を見つめている。まだ映像は真っ暗だけど、来月にはリリーさんの姿も見られるはずだ。


 蒔いた種が芽吹いて、いよいよ蕾が開きそうな気配がする。その日はもうすぐそこまで来ている――そう思うと、心が躍った。

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