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元JK配信者、異世界で愛され配信者を目指します~チート魔力が欲しいとは言ってないんですよね~  作者: Mel
三章 魔力の開花と配信ギルドの躍進

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049 たのしい魔法実験

 話もまとまったので、トーマ君との会議はこれで終了。

 次は、お待ちかねの――たのしいたのしい人体実験……じゃなかった、研究のお時間だ。


「お待たせしましたシシル様。それで、今日は何をするんですか?」

「トーマ。お主は仕事に戻らんのか?」


 シシル様がちらちらとトーマ君に視線を送る。露骨に「邪魔だ」と言わんばかりの態度だ。トーマ君もそれを察したのか、帰る素振りは見せなかった。


「あんたとリカちぃを二人きりにしたら何をしでかすか分かりませんからね。見ているだけですから、僕のことはお気になさらず」

「まったく、人をなんだと思っているんじゃか……。まぁ、たまには弟子にも魔晶石の力を再確認してもらうかの」


 初日こそ怪しい薬を飲まされたりもしたけれど、その後は魔晶石を一緒に作ったり監視塔の狩場作りの検証をしたりシシル様の作業工程を見学したりと、わりと平穏な実験が続いている。それに、トーマ君が残るならさすがに無茶はしないだろう。


 私が心の中で少し安心していると、シシル様が棚からひとつの魔晶石を取り出した。それは一見すると何の変哲もない、ごく普通の量産品の魔晶石だった。


「これを口に当て、頭の中で何をしたいかをしっかりイメージしながら魔力を吹き込むがよい。お主が『口から魔法を吐くのは嫌だ』などとぬかしておったから、代替案を考えたのじゃ」


 口から魔法を吐くなんて誰だって嫌に決まってる。

 絵面的にも最悪すぎて結局まだ一度も魔法を試したことがなかったけど、シシル様は期待に満ちた目で「さあ」と促してきた。


「口から?」


 トーマ君が戸惑ったように呟く。――そうか。彼は私の魔力量や素質については認識しているものの、詳細までは知らないんだ。もちろんそのまま教える気はないので華麗にスルーすることにした。


「魔力を吹き込むって……これに息を吐けばいいんですか?」

「そうじゃ。その魔晶石に魔法を封じ込めて、いつでも扱えるようにするという算段じゃ。口から魔法を出すよりは少なくとも見た目はだいぶマシじゃろう。まずは軽く試すだけでいい」


 それならば、と私は火をイメージし、ロングブレスを意識しながら魔晶石に魔力を吹き込んだ。半透明だった魔晶石は、私の魔力を吸い込むにつれじわじわと赤みを帯びていく。


「できた……?」


 魔晶石から口を離してみると、その中で炎がゆらめき渦巻いているのが見えた。とはいえほんのりと温かくなっているそれをどう扱えばいいのかわからず、手のひらの上でじっと見つめてしまう。


「こ、これ、どうすればいいんですか?」

「放ってみよ、と言いたいところじゃがこの場所ではまずいな。さぁ、私の肩に手を置くといい」


 言われるがままに私とトーマ君がシシル様の肩に手を乗せると、彼は軽く指を振った。


 瞬間、周囲の景色がガラリと変わり――。

 さっきまで室内にいたはずなのに、今は太陽が照りつける荒野に立っていた。

 

 足元には赤土がどこまでも広がり、一言で言えば『何もない』土地。

 厚手のローブを羽織ったトーマ君は陽射しを遮るように手をかざし、「うぅ、眩しい……引きこもりには辛すぎる……」なんて呻いていた。


「たまには日の光を浴びるのも良いじゃろう?」

「強すぎるんですよ! だいたい師匠だってそんなに表には出ないくせに……。ええと、この辺りは国境沿いですか?」

「ああ。旧ランヴェールに程近いところじゃ。誰もおらんだろうから、ここならちょうどよいと思ってな」


 ランヴェールといえば、デュオさんの故郷。それに、確かトーマ君も……。

 辺りを見回しても、視界に入るのは荒れ果てた大地だけ。人の気配どころか植物すら見当たらない。遠くにそびえるのは監視塔だろうか。

 

 もともとこういう場所なのか、それとも戦争の爪痕なのか――どちらにせよ、寂しい光景だった。

 

 ちらりとトーマ君の顔を盗み見る。特に何の感慨も抱いていないようで、彼の表情はいつもと変わらなかった。


「今の転送って、シシル様の魔法ですか?」

「そうじゃ。転送魔道具はただの好奇心で作ったものにすぎん。一定の魔力を持つ者でなければ扱えぬ欠陥品じゃしな」


 ただの好奇心であれほど凄いものを作り上げてしまうとは、天才魔道具師と謳われるだけはある。

 それにただ指を一振りしただけでこんな遠く離れた場所に転送してしまうなんて、信じられないほどの力だ。


「やっぱりシシル様って凄いんですね……」


 心の底から出た称賛に、シシル様は「この大陸では、な」と、どこか含みのある口調で応じた。


「所詮、私はハーフエルフ。この大陸では世界一だのと祭り上げられているが、純血のエルフと比べれば足元にも及ばんよ」

「そうなんですか? でもこの大陸で一番ってことには変わりないじゃないですか」

「ふん、お主のおかげで、もうじき二番に落ち着くじゃろうがな」


 そう言ってシシル様は肩をすくめる。でも、その表情に悔しさの色はない。むしろ少し楽しんでいるようにすら見えた。


「昔は魔力量を伸ばすことに固執したものじゃが今となってはどうでもよい。さぁ、魔晶石を試してみるのじゃろう。早くしないと、お主の居場所を確認したハウンドが卒倒するぞ」


 それは困る。私は手に握ったままの魔晶石を親指と人差し指で軽く摘まんでみた。……のはいいんだけど、どうやって使えばいいのかさっぱり分からない。


「シシル様、これってどう使えばいいんですか?」

「魔晶石を起動させるイメージで、口に当てて軽く魔力を流せばよい。本当に軽くじゃぞ? トーマ、結界を張るといい」

「毎度ながら人使いが荒いんですよ……!」


 トーマ君は文句を言いながらも両手を左右に突き出した。瞬く間に半球状の結界が現れ、私たちを包み込むように展開される。

 シシル様は前方を指さし、「あちらに向かって放ってみなさい」と促した。


 私は言われた通り、起動させるイメージを膨らませながら魔晶石にそっと魔力を流し込んだ。

 すると、魔力が満ちるにつれて石が微かに熱を帯び――次の瞬間、爆発するように炎が弾けた。


 紅蓮の炎が魔晶石から噴き出し、視界を真っ赤に染めあげる。炎は前方へ突き進むだけでは飽き足らず、天へ向かって巨大な柱となり、轟々と燃え盛った。


「ひぇっ! と、止まんないんですけど!」


 炎は私の意志を無視し、暴走を続ける。もう十分すぎるほど燃えているにも関わらず止まる気配はまるでない。


 結界に守られているはずなのに、灼熱の空気が肌を焼くように押し寄せる。喉がひりつく感覚に襲われ、強固なはずの結界が、その輪郭をわずかに歪ませ始めた。


「し、師匠! 僕の力だけじゃこれは無理ですって!」

「まったく。魔法の扱いに関してはまだまだ未熟じゃのう」


 シシル様がトーマ君の手首を軽く握ると、歪みかけていた結界が一瞬で安定し、二重、三重に強化された。ほぼ同時に、暴れまわっていた炎も徐々に勢いを失い、最後には動力となる魔力が尽きたのか、ふっと霧散した。


 ……本当にこれ、私がやったの?


 今回は周囲に燃えるものがなかったから良かったものの、もし村の中で暴発していたら、家も木々もすべて焼き尽くしていたかもしれない。炎が通った後の地面は、真黒に焼け焦げていた。


 炎が消え去ったのを確認したトーマ君がようやく力を抜く。支えを失った両腕がだらんと揺れ、そのまま膝をつきそうになっている。全身は汗でびっしょりに濡れ、肩で息をするほど消耗しているようだ。

 一方のシシル様は表情こそ変わらぬものの、額から一筋の汗が流れていた。

 

「ふむ……。お主が魔力を吹き込んだとき、どれほどの力を込めた?」

「どれくらいって……正直よく分からないですけど……」

「これくらいの入れ物がお主の魔力のすべてだとして、どれくらい注ぎ込んだ?」


 シシル様は手でお椀の形を作った。なるほど、確かにこれなら感覚的に説明しやすい。イメージしてみると――。


「んー……たぶん、一割くらいですね」

「いちわり……?」


 トーマ君が信じられないという顔で私を凝視する。

 対照的にシシル様は――それはもう、愉快そうに目を細め、にたぁと邪悪な笑みを浮かべていた。


「……ふふふ、想定以上じゃよ、お主は。ああ勿体ない……本当に、勿体ない……」

「シシル様……本性が漏れ出てますよ」

「あぁ、いかんいかん。弟子の前じゃったな」


 いつかのような天才サディストの顔を隠そうともしないシシル様。私が嫌そうに指摘すると、彼は慌てて袖で口元を隠した。

 

 トーマ君はようやく息が整ったのか、シシル様と私の顔を何度も見比べていた。……まさか、私のことが怖くなっちゃったのかな。

 ちらりと彼の様子をうかがうと――恍惚とした表情を浮かべていた。


「僕のリカちぃが可愛いだけじゃなくて最強だった件について、……という本を執筆しようと思います」

「うん、やめてね」


 良かった、怖がられているわけじゃないみたい。彼も根っこは魔導士だから、リカちぃだけじゃなくて魔力そのものにも興味はあるんだろう。


 それはそれとして、この制御不能な魔法は結局使いどころがないんじゃない? 魔晶石が間に挟まるだけで、口から魔法を吐くのと大差ない気がするんだけど……。


「シシル様、これって特訓すればもうちょっと扱いやすくなりますか?」

「どうじゃろうなぁ。正直、私にも分からん。だがその力はお主を守る術となるじゃろう。どう使うかは、お主次第じゃ」


 そう言われてしまうと困ってしまう。ただの配信者には不要な力。でも――もしもの時には、きっと助けになる力、だ。

 

 もしも、また魔獣が襲ってきたら?

 その時にこの力があれば、誰かを守れるかもしれない。――うん、磨いておく価値はある。


「もう少し続けよう。次は水の力を試してみるか? お主、水不足がどうとか言っておったじゃろう」

「口から水を出すイメージ……」

「尻から出すよりはマシじゃろうが」

「比較対象が酷すぎる……!」


 私は皆みたいに手から出したいんだ、手から。でも無いものねだりをしても仕方ない。シシル様が付き合ってくれるなら、いろいろ試してみるべきだろう。


 一つの魔晶石に込められる魔力の種類は一つだけ。

 気づけば、手元にあったはずの魔晶石は全て使い切ってしまっていた。私たちの「実験」は時間を忘れるほどに夢中になっていたらしい。


 ――そして、現実に呼び戻すように耳をつんざく着信音が響り響く。

 

 出る前から誰かなんてわかる。絶対怒ってる。どうしよう。

 助けを求めるようにシシル様に視線を送るも、彼はそっぽを向いてしまう。連れ出したのはシシル様なのに……!

 

 覚悟を決めて通話を開始すると、やはりというかなんというか、私の信愛すべき保護者様からのお怒りの連絡だった。

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