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お六話ですの



 制覇後のダンジョンは、内部にいる人間と魔力的資源を外部に排出して、モンスター同様に黒い霧になって霧散します。


 『おつ』

 『おつかれー』

 『おつかれさまでした!』


 というわけで、団地の駐車場に弾き出されたわたくしたちでございます。ほかにもちらほらダイバーがいますけれど、渋い顔で受付に向かっています。漁夫ろうとして失敗したんですもの、渋い顔になりますわよね。


「さて。帰還早々で申し訳ないのですけれど、制覇報酬、どう分けます? 制覇競争の勝敗についても決めませんと」


 制覇報酬――ダンジョンコアと呼ばれる魔力の塊で、巨大な宝石のような見た目をしております。それが地面に転がっておりまして、これがまあ結構いいお値段つくんですのよねぇ。

 鷹崎父が「よくやった、えらい、共闘できるのはすごいぞ」と娘の頭をポンポン撫でながら、苦笑しました。


「公社に買い取ってもらって、ウチ、松子さん、白百合さんの三分割でいいんじゃないですか。勝敗は……引き分けでいいよな、アリア」

「うー。……しゃーなし、だよ?」


 父に抱き着いたまま、蜘蛛娘はわたくしに挑戦的な瞳を向けてきました。


「またこんど、しょうぶ、ね?」

「ええ。いずれ必ず、再戦いたしましょう。では、コアの事務処理、お願いいたしますわね。信用しておりますので」

「わかりました、お任せください。……ああ、それと。お誘いはありがたかったんですが、手のかかる娘と妹がいるんで、いまはデートとか考えられないんです。すいません」


 宝石を拾い上げて一礼し、去っていきました。

 受付へ向かう鷹崎家お二人の背中を見て、苦い笑みが浮かんでしまいますの。


 『フラれてやんの』

 『元気出せよ』

 『順当』


「順当はひどくありません? ……しかし、何度見てもビビるくらいの美人さんでしたわね。あのビジュの無垢ッ子にパパと慕われてもドスケベ調教せず、わたくしもフったということは……はっ! もしかして不能なのかしら!?」


 『最低』

 『おい』

 『おいたわしや』

 『松子最低』

 『おいたわしや』

 『松子のファン辞めてアリアちゃんのファンになります』


「あーんもう、そんなに言わないでくださいな。冗談ですわよ。……白百合さん? 先ほどから静かですけれど、どうかいたしました?」


 白百合さんは、アスファルトを見ていましたけれど、なにかを決意した顔で視線を上げました。


「あ、あのっ! ヴィクトリカお姉様、私のギルドに入ってくださいませんかっ?」

「……あら。それは、急なお誘いですけれど。ファンとしての垣根を超えて、わたくしを手に入れたいって意味かしら」


 白百合さんはうなずきました。強火ですわねぇ。


 『直球告白キター!』

 『キマシタワーが建った。地上高634メートルの立派なキマシタワーが』

 『東京のアレじゃん』


「ええと、私のギルドは『カフェ・ド・リリィ』と言います。……メンバーは私含めて四人だけの零細ギルドですけど、居心地はいいと思います!」


 ……ふむ? なんか、名前を聞いたことがあるような……。

 渋谷あたりでそういう名前のアパレルありませんでしたっけ。

 それにしても……。


「……どうして、そんなにもわたくしが好きなのです? そこまで好かれるような要素、ございます?」

「やはり、お姉様が戦うときの、あの凛々しいお顔――」


 まあ、褒められて悪い気はしませんけれどぉ。うっふふ。


「――が、死の恐怖と生の実感でぐちゃぐちゃになっていくご様子♥ ああ、ベッドの上で、私の手と指でそのご尊顔をぐちゃぐちゃに歪めて差し上げたい……♥」

「えっ急になにこわいこわいこわいこわいなになになにこわいこわいえぇえ……?」


 『こっわ』

 『盛り上がって参りました』

 『まさかのそっちだったか』

 『なんかこの配信、湿度高くない?』

 『建てた塔が曲がってる』


 まさか、白百合……ガ、ガチ百合ですの!?

 まあ若干そんな気はしておりましたけれども!


「えーと、さすがに、その、そういうよこしまな目で見てくる方のギルドに入るのは、ちょっと気が引けるというかですね……?」

「そう、ですよね。失礼いたしました……」


 ほっ。とりあえず、お断りはできましたわね。


 『てか"カフェ・ド・リリィ"ってあの大金持ちギルドじゃない?』

 『渋谷にアパレル出してなかった?』

 『投資家でしょ』

 『不動産経営じゃなかったっけ』

 『投資、アパレル、不動産経営、全部やっている方ですね。経済誌のインタビューで見た顔と同じなので、白崎白百合社長ご本人で間違いないと思います』

 『ダンジョン博識ニキ!』

 『もう全知ニキだろこいつ』


 お……大金持ち? アパレルに投資に不動産まで……?


「あのー、つかぬことをお聞きしますけれど。白百合さんは、その、ダイバー以外にもお仕事をされておりますの?」

「あ、はい。私、投資を少々。あと、アパレル経営やタワーマンションのオーナーも……。どれも、運が良くてなんとかなっているだけですけれど」

「ほ、ほォ……」

「ちなみにギルドハウスは港区白金のタワマンの最上階(ペントハウス)で、ギルドメンバーなら無料で利用できるレストランやトレーニングジム、バーも併設してあって、福利厚生はばっちりですよ」

「入ります。入らせてください。その素敵なギルドに」


 『即オチで草』

 『初日で襲われそう』

 『落ちたな(確信)』


 うるせえですの!

 ただ、まあ、まだちょっと怖いですわねぇ。


「白百合さん、わたくしを無理やり手籠めにしてやるー、なんてことはありませんわよね?」

「まさか! お姉様のことは大好きですし、どちらかというとバリバリのサドではありますけれど、無理強いなんてしませんよ。そんな時代錯誤な」


 『バリバリのサドて』

 『ゆるふわなビジュとのギャップで変な気分になる』


「で、ですわよね?」

「ええ。もちろんです!」

「ほっ。それなら、まあ、一安心ですの」

「……ちゃんとお姉様のほうから同意(おねだり)させてみせますから……♥」

「え? いまなにかおっしゃって?」

「いいえ、なーんにも♥」


 『こわい』

 『てか松子、借金の話もしといたほうがよくない?』


 そ、そうでした!


「あの、ファンならご存知でしょうけれど、わたくし実は借金がございまして……」

「あ、そうでしたね。借金……、あ♥」


 白百合さんは「イイコト思いついちゃった」と言わんばかりに微笑んで、スマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけはじめました。


「もしもし、私です。ええ、そうです。今から言う方の借金を――」


 な、なんですの? なんの話かは聞き取れませんでしたけれど、一分もしないうちに、白百合さんは笑顔で電話を切って、こほんと咳を打ちました。


「えー、たった今、お姉様の債権を正規ルートで全額買い取り、私の手元で一本化しました。もう借金取りにドアをがんがん叩かれることはありません!」

「は、はい!? なんですって!?」


 『え?』

 『やば』

 『金持ちすご!』

 『奴隷オークションで受けを初手で高額落札する攻め様じゃん』

 『的確な比喩』


「え、えと、つまり……。わたくしの借金、チャラですのね!?」

「いえ、債権者が変わっただけですので、そこはちゃんと返済していただきますよ。利息はいただきませんけど、ちょっとキツめの返済スケジュールを組ませていただくつもりです」

「え゛ッ」


 驚くわたくしに、白百合さんのやけにじっとりした視線が絡みつきます。


「つまり、私がお姉様の身柄を買い取った……、とも言い換えられます♥ ルールとマナーを守って欲しいものを手に入れたんです♥」

「……変なことしませんわよね? 無理強いとか、本当にしないんですわよね!?」


 ちょっと向きになって問いかけると、白百合さんは十秒ほど無言で虚空を見つめて……。


「えへっ♥」


 誤魔化すように、満面の笑顔を『目玉くん』に向けました。


 『こっわ』

 『こわい』

 『松子逃げて』

 『こわい』

 『もう松子は諦めてリスナーだけでも逃げよう』


 オイッ! わたくしを見捨てるなでございます!


「ちなみに、返済が滞った場合は……うふ♥ うふふ♥ 楽しみですね、お姉様っ♥」

「オウフ……」


 わたくし、絶句。

 返済が滞ったときに、なにをされるのかはわかりませんけれど……。

 とてつもないのに囲われてしまった、ということだけは、たしかでございます。


 『松子、念願のスパダリが見つかってよかったな!』

 『入籍したら借金チャラだぞ! 百合婚しよう!』


 うるっせェでございますの!

 好き勝手言いやがりますわねぇ!



 ●



 というわけで、あの埼玉ダンジョンの攻略から一ヶ月。

 『カフェ・ド・リリィ』に移籍したわたくしは、今日も今日とてダンジョンに潜っておりました。


「こんざわわ……! 『旧華族令嬢ヴィクトリカ様の借金返済ダイブ』へようこそ……!」


 『開き直ってて草』

 『なんかアゴ尖ってね?』

 『チャンネル名変えた?』

 『返済ファイト~!』

 『ギルド入ったのにソロで草』


「草を生やすなでございます。……白百合さんは、大変お忙しい方ですから。ちゃんと仕事しながら毎日の戦闘トレーニングも欠かさない、ストイックな女の子ですの。次、一緒に潜れるのは金曜日かしら」


 てくてくとダンジョンを歩きながら、困っていると表明するため、わざとらしく溜息を吐いてみせますの。


「そういうスキルだから仕方ありませんけれど、白百合さんったらわたくしにちゅっちゅちゅっちゅするんですもの、好かれるのも大変ですわ」


 『ちょっとニヤけてるじゃん』

 『百合を見せろ百合を』

 『なんやかんや文句は言いつつ、今までソロだったので一緒に潜るのが楽しいし、好意を寄せられるのも嬉しいし、強く求められるのも正直イヤじゃないので、正直だいぶまんざらでもないって顔ですね』

 『ダンジョン博識ニキ!』

 『ダンジョン博識ニキ解説たすかる~』

 『やっぱりダンジョン関係なくて草』


「草を生やすなでございます。まったく、あなたがたはいっつも面白がって。わたくしは人生ツレェと嘆いておりますのに」


 とは言いつつも。

 最近はちょっと人生が楽しいわたくしでございます。

 ……白百合さんには内緒ですわよ?


「さて! わたくしノンケでございますから、ガッポリ稼いで借金返済! クレイジーサイコ百合から逃げられたら、スパダリ捕まえて人生逆転目指しますの! がんばりますわよ~!」



 ●



 『逃がしませんよ♥』

 『こわい』



 《おわり》



おつ優雅~!

よかったらおブクマとお☆お☆お☆お☆お☆でお評価とお感想をくださると嬉しくて脳汁が出ますわ~!


ここまでお読みいただきありがとうございました(素)

ちなみにですが、『鷹崎家ダンジョンさんぽ』の親子は短編『ダンジョンさんぽ配信中に炎上系配信者に怪物を押し付けられて最下層に落とされた。死を覚悟して最期にスキル【オリパ開封】を使ったら俺を「ぱぱ」と呼ぶ最強美少女が出てきて無双してめちゃくちゃバズった。』の主人公です。

そちらも読んでいただけると嬉しいです。

同じ世界観のダンジョン配信で長編も書きたいなぁ、と思いつつ、二作品並行更新で手いっぱいで、なかなか手が進みませんね……。


重ねてになりますが、下の☆☆☆☆☆で評価や感想等いただけると嬉しいです。

本文だけでなく後書きの一番最後の行までもお読みいただき、本当にありがとうございました!



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