【最終話】僕のおじいちゃん
小学生の悠は、田舎に住むおじいちゃんが大好きだ。しかし、おじいちゃんは癌で死んでしまう。周りに愛され、周りから愛されたおじいちゃん。家族の愛を感じる、そんな涙が止まらなくなる物語。
おじいちゃんが亡くなって、もう2カ月が経とうとしていた。
ぼくの夏休みは、気付けばあっという間に終わりを迎え、何事も無かったかのように新学期を迎えた。夏休み中は、母さんに連れられて、ほとんどの時間をおばあちゃんの家で過ごした。宿題の絵を書いたり作文を書いたり、庭でプールもした。宿題が終わらなくて、母さんに反抗もしたし、妹達に意地悪もした。それでも、おばあちゃんは、
「騒がしいけぇ、寂しくなくていい」
そう言っていた。
「おばあちゃんが寂しくないように、いっぱい会いにくるけぇーね! 」
すごく恥ずかしかったけど、勇気を出してそう言った僕に、
「悠は、本当に優しい子じゃね。おじいちゃんも、悠が会いに来てくれたらきっと喜ぶね」
そう、目を潤ませて言った。
19歳で結婚して、それから何十年も一緒に過ごして、そんな相手が突然目の前から居なくなるって、どんな気持ちなんだろうか? 僕には想像したって分かりっこないし、少し考えるだけでも、おばあちゃんが可哀想で辛くなった。だけど、おばあちゃんも母さんも、
「おじいちゃんは、ちゃんと自分がいなくなるタイミングを考えとったんじゃね」
そう、口をそろえて同じように言った。孫たちの学校が休みになり、家族みんなが集まりやすくなるタイミング。そして、最後まで正気を保ちながら逝った事、在宅介護が本格的になる前に人生の終わりを迎えた事。
「おじいちゃんは、なるべくみんなに迷惑をかけないように、そんなタイミングで逝ったんじゃね」
2人のそんな言葉は、
「これで良かったのかもしれない」
僕にそう思わせた。
「周りに迷惑をかけないように、死ぬタイミングを考えるなんて、なんておじいちゃんらしいんだ。優しいおじいちゃんらしいじゃないか 」
9月には、四十九日法要が行われた。
この時は、知ってる人ばかりで、集まった人数も少なかった。わんわん泣いている人はいなかったし、近くのお寺に行って鯉を見たりもした。
ただ、おじいちゃんの骨の入った壺を、お墓の中にしまいに行った時には、おばあちゃんが取り乱すように泣いていた。
母さんは家に残って料理の準備をしていたから、おばあちゃんの近くには慎くんと達ちゃんが立っていた。でも誰も、僕の母さんみたいに、おばあちゃんの背中をさすってあげる人は居なかった。狭いお墓の敷地内で、身動きも取りずらかったし、恥ずかしさもあったから、僕はおばあちゃんの隣には行けなかった。お墓につながる坂道を下りながら、
「おばあちゃんのそばに行って、手を握ってあげればよかった」
誰にも聞こえないほどの小さな声で、僕はそうつぶやいた。
10月になると、おじいちゃんとおばあちゃんが大切に育てた栗が、山に実る。豊作だった昨年に比べ、今年の栗は数も少なく、手入れも行き届いていなかったため、質が悪かったそうだ。昨年のこの時期には、まだなんとか歩いて軽トラに乗ったおじいちゃんが、
「悠、足元のでっかい栗、見逃しとるど! 」
なんて笑いながら、一緒に栗拾いをした事を思い出す。毎年楽しいはずの栗拾いも、今年はやっぱり寂しい気持ちになった。
百日法要で、お坊さんがこんな事を言っていた。
「人は、悲しい事があったり大切な人を失うと、だいたい百日は下を向いて悲しみにふける。それでも、百日が過ぎる頃には、少しずつ上を向く事ができるようになる。この百日法要を機に、少しでもお顔を上に向けられますように 」
この言葉、僕の胸にはぐっさりと刺さった。あれだけ毎日辛そうな顔で涙ばかり見せてたおばあちゃんも、たわいもない事でまた笑ってくれるようになったし、母さんの無理した笑顔もあまり見なくなった気がする。
みんな、おじいちゃんを思い出さなくなった訳じゃないんだ。ふと思い出すと涙が出るし、寂しくもなる。だけど僕達は、おじいちゃんの死を、ゆっくりと受け入れていく途中なんだ。そう、少しずつ少しずつ、上を向こうとしてる。
気付けば、体に当たる風が冷たくなって、もうすく冬が来るよって教えてくる。僕は、おばあちゃんの寂しい気持ちが少なくなるように、今日もおじいちゃんの家に遊びに行く。そして、車から降りると真っ先に、勝手口のそばのおじいちゃんの椅子に目を向ける。
「おじいちゃんの椅子に座っちゃおうかな~? 」
少しそう考えたりもするけれど、やっぱり、僕はすぐ隣に置いてあるベンチに座るんだ。そして、心の中でおじいちゃんと話をする。
「おじいちゃん、会いに来たよ!
今日も僕は元気だよ。
おじいちゃんは寂しくない? 」
完
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