第二十話 「直也の選択」
*直也は、菜々のアパートから自宅に戻り着替えてから、午後の会社の勤務に間に合うように会社へと向かった。仕事についた直也は、今朝の菜々との事が頭から離れない。
夜菜々のアパートに行けば、間違いなく付き合う事になるし、もしいかなければ、会社に話されて、首で職を失う。直也は自分がまいた種ではあるが、悩んでいた。菜々に告白された時に、気持ちに答えたいと思ったことが歯車を狂わせた要因でもあった。そもそもその時点で、優子という彼女がいるにも関わらず、気持ちが揺らいだことが、今の状況になっているのは事実である。時間の経過は早くあっという間に、勤務終了の19時になった。直也は重い足取りで、会社の更衣室で着替えを済ませて、駐車場へと向かった。車に乗りエンジンをかけるが、気持ちがのらない。自業自得ではあるが、このまま逃げるわけにもいかず、菜々のアパートへと向かった。道路状況で1時間近くかかり菜々のアパートの駐車場についた。エンジンを止めて、施錠して菜々の部屋に向かい、玄関ブザーを鳴らした。
「ピンポーン・ピンポーン」2回鳴らす。足音が聞こえ玄関のチェーンを外す音が聞こえ、鍵を外し扉が空いた。
<菜々>
・先輩お帰りなさい。エプロン姿で笑顔の菜々が待っていた。
部屋の中からカレーの美味しそうな臭いが玄関まで流れてきていた。
(今朝の菜々とは違い普段の菜々に戻っていた)
<直也>
・お邪魔するよ。といいながら、奥の部屋に入る。
(なんかきまずい感じがする)
<菜々>
・夕食カレーですよ。嫌いじゃないですよね?今準備しますから。座って待っていてくださいね。私カレーは自信あるんです。
(台所に立つ菜々の後姿は、とても嬉しそうに思える直也)
<直也>
・カレーは嫌いじゃないよ。好きな食べ物かな。
(今朝からの変わりように様子を見る直也)
<菜々>
・お待たせしました。菜々のスペシャルカレーです。お盆にのせてカレーを運んできた。カレー・サラダ・福神漬け・水・スプーンを運んできた。先輩食べて下さい。
(菜々は自信ありげに直也に話す)
<直也>
・頂きます。スプーンでカレーを口に入れ味わう。菜々はその姿をじっと見ていた。
一口食べたカレーは美味しく自慢するだけの事はあった。あまり見つめるなよ。恥ずかしくて食べれないだろ。
(菜々の視線が気になる直也である)
<菜々>
・先輩。菜々の作ったカレーどうですか?美味しいですか?
(少し不安げに直也に問いかける)
<直也>
・美味しいよ。直也の心の中は、カレーの美味しさより、これからどうすればいいのか結論すら出ていなかった。いつ菜々がどのように切り出してくるのか不安に思う直也である。菜々の行動と顔色をみると、付き合っているようなオーラさえ感じる直也であった。
<菜々>
・先輩に喜んで貰えて、菜々とっても嬉しいです。好きな人を射止めるにはまず胃袋を満たさないといけないと実家の母に聞いた事があったので。菜々は今凄く満足で幸せです。先輩聞いていいですか?
<直也>
・菜々美味しかったよ。ご馳走様。何聞きたい事って?
(ついに聞いてくると構える直也)
<菜々>
・先輩!がここに今いるという事は、菜々と付き合ってくれるという返事でいいですよね?
(ストレートで聞いてくる)
<直也>
・その事何だけど、もう少しだけ時間くれないか?
(返答に困りながら答える直也である)
<菜々>
・もう少し時間?何で?すぐ返事くれない理由教えて下さいよ。
(さっきまでの笑顔が消えた菜々)
<直也>
・気持ちの整理がまだついてなくてさ、頼むからもう少しだけ時間が欲しい。
(心の中でどうしていいか分からない直也)
<菜々>
・先輩!何そんなに悩んでいるのですか?私に何か隠しているでしょ?
気持ちの整理?どういう事ですか?
(絶対何かあると思う。女性の感は鋭い)
<直也>
・頼むからもう少しだけ時間くれよ。
<菜々>
・先輩!付き合っている人いるでしょ?
(菜々は、かまをかけてくる)
<直也>
・答えなきゃダメか?
(追い込まれて、言葉に困る直也)
<菜々>
・先輩!やっぱり彼女いるでしょ?否定しないのが何よりの証拠ですよ。
(直也の口から話させるまで諦めない菜々)
<直也>
・困った表情を浮かべながら、しばらく考えこむようなしぐさをして、重い口を開きこう話を切り出す。今の気持ちちゃんと話すから。
(もうここまできたら、正直に話そうと思う直也である)
<菜々>
・先輩!ちゃんと話してくださいよ。
(じらされていた菜々はやっと直也の気持ちを聞きだせると思う)
<直也>
・正直に今の気持ちを話すから聞いてくれ。俺さ、今付き合っている彼女はいるよ。
それで、菜々に告白されて彼女いるのに気持ちが揺れ動いたのも事実だ。今の気持ちとしてはどうしていいのか分からないのも本音だ。今の俺は、最低な男だし現時点では迷いもあるが、菜々と付き合うことはできない。それに菜々と付き合わない場合に、この前の事会社に言われて首になる事も考えて中々言い出せなかった。でも覚悟決めたからいいよ。このままずるずるいってもよくないから。だから菜々が会社に言いたければ言っていいよ。
(覚悟を決めた直也は正直に自分の胸の内を話し優子をとる選択をする)
<菜々>
・先輩!やっぱり彼女いたのですね。菜々は、彼女いてもいいから、「私と付き合って下さい」私は全然構いませんよ。先輩が今の彼女か私か選ぶのは先輩ですからね。それに、先輩は私を必ず選びますから。
(菜々は直也の本音を聞きだして、満足な様子である)
<直也>
・彼女いても?菜々と?そんな二又なんて出来る訳ないだろ!それに、菜々を選ぶって?
凄い自信があるな?俺が菜々を選ばなきゃ会社に言えばいいと思ってるからだろうな!1度は優子を選択するが、動じない菜々に悩む。それに会社にばれてもいいとたんかを切ったが、考えると怯える直也である。
(二又でもいいとか菜々を最後は選ぶとか自信ありげな菜々の態度に悩む)
<菜々>
・先輩!私は、先輩次第です。今度は私が時間あげますよ。1ヶ月だけ時間あげますよ。
先輩の答えを聞かせて下さい。1ヵ月後、アパートに来て返事下さい。
(菜々、直也へ時間をあげて返事を待つことにする)
*菜々は、直也の性格からして、二又など出来るはずがないし、ましてや直也が恐れている会社に話すなどありえるはずがない。会社に話したら、菜々も会社にはいられなくなる事を予測する事すら出来ないくらい精神的に苦しい状況の直也であった。菜々としては、真面目な先輩直也をどうしても自分の彼にしたかったので、手段を選ばないのである。また、直也は、菜々が本気で会社に話す事など考えていないとは知らず、真剣にどうするか悩む直也である。このままではいけないと考えた直也は、菜々に優子の存在を知られたので、何らかの決断を迫られていた。
さて、直也は、優子へ菜々との事をどのように話すのか?直也のとる決断は?
これから直也に待ち受ける色々な試練?いったいどんな結末が待っているのだろうか?




