第十八話 「気付かれた嘘」
*菜々から、告白された直也は、彼女(優子)がいるのにも関わらず、迷いはじめている自分に気付いていくのである。優子は、性格も直也に対する思いやりも優しさもあり一緒に居て幸せには思う。でも若い直也は、どうしても会える時間の短さだけが、不満に思っていた。直也は自分勝手である事は分かっているが、菜々と過ごしたたった1日のデートが優子との1ヶ月分の時間と考えるとどうしても気持ちが揺れ動くのである。そんな気持ちをいだきながら時間だけが経っていった。
菜々が、勝手に決めた14日は明日と迫っていた。そんな13日の夜23時に電話が鳴りワンコールで切れた。優子からの電話だと直也はすぐわかった。7日に優子の迎えを仕事だと嘘をついて、菜々とデートした事が心に引っかかっていて、すぐ電話が出来るような気持ちにはならなかった。でも電話しないと疑われると思った直也は、5分後電話の前に立ち受話器をあげて、ダイヤルを回した。
<直也>
・もしもし、優子?直也だけど。
(直也は、7日の事は絶対にばれないようにしようと心に決めて、平常心。平常心。と自分に言い聞かせていた)
<優子>
・もしもし、直ちゃん?こんばんは。仕事で疲れてない?
(直也を気遣う優子)
<直也>
・大丈夫。疲れてないよ。優子この前は、迎えにいけなくてごめん。
今日は何かあったか?
(直也は、優子から何か言われる前に、前回迎えにいけなかった事を先にわびた。)
<優子>
・前回迎えにこれなかった事は、仕事だったのだから仕方ないよ。私、直ちゃんが仕事頑張っている姿がとっても好きだから気にしなくていいよ。今日電話したのは、明日休みだよね?明日は会えるの?
(優子は前回の事は、特に気にしていない様子であった)
<直也>
・明日?休みだよ。優子がいいなら、明日は迎えにいけるよ。
(直也は、さすがに2週連続仕事とは言えないし、それに菜々の事も頭を過るが、本気で待ってはないだろうと思う直也である)
<優子>
・明日会えるのね。直ちゃん嬉しい。楽しみにしているよ。いつもの時間でいいかな?
バス停近くのホームセンターの駐車場でいいの?
(優子の声のトーンは、先週会えなかったので弾んでいるようにも思えた)
<直也>
・優子が仕事終る頃には、ホームセンター駐車場で待っているから。
(明日の約束をする)
<優子>
・わかった。明日仕事終わったら。駐車場でね。直ちゃん明日に備えて休もうよ?
おやすみなさい。また、明日ね。
<直也>
・そうだな。優子おやすみ。また、明日。
(直也は電話を切る)
*直也は、電話を切ると優子とは約束はしたものの、菜々からの告白と明日会社の屋上で待っていると言われた事が、頭から離れず、心に迷いがあることに気付いていた。
自分で気持ちを整理しようと思えば思うほど、余計にどうしていいのか分からなくなっていった。優子の事は嫌いではない。優子がどれだけ自分を思っていてくれているかは、直也が一番わかっていた。でも会える時間の短さを克服できるとは到底思えず、このままずるずる付き合っていても何も変わらないのではないか?そんなことさえ考えはじめていたのである。菜々の告白が気持ちを大きく変えているのも事実。
明日は、優子との約束、菜々とは約束はしていないが、告白の返事を屋上で来てくれるまで待つと言われて、本気ではないと思いながらも直也は、どうしていいかわからい。そんな事を思いながら、部屋で横になっていると、寝てしまい朝になった。朝の目覚めは、どうもすっきりしない。
直也は、翌日の午後とりあえず優子と約束した待ち合わせ場所のホームセンター駐車場にむかった。優子の仕事が終る10分前には駐車場についた。
外の天候は、雨模様で直也の心と一緒の天気だと思う直也であった。
17時10分が過ぎ、遠くの方から赤い傘をさした女性がこっちに歩いてきた。直也は、優子だとすぐわかった。近くまでくると軽く左手で合図をして、助手席のほうへと進んだ。優子はドアを空けて助手席に乗った。
<優子>
・ごめんね。直ちゃん。待たせて。と言いながらシートベルトを締める
<直也>
・優子お疲れ様。凄い雨だな。濡れてないか?
バス来る前に、優子の家の近くの公園まで移動するねと言って、車を走らせた。
<優子>
・大丈夫濡れてないから。心配してくれてありがとう。
先週は、仕事で会えなくて残念だったけど、今日会えてよかった。直ちゃん私コーヒー買ってきたから飲む?とキャップを外し、直也に手渡そうとする。
(普段と変わらず優しい優子である)
<直也>
・コーヒー?ご馳走になるよ。と左手を出す。その時、前の車が急にブレーキをかけた。直也も慌ててブレーキをかけた、優子から渡されようとしたコーヒーが振動でサイドブレーキの所にこぼれた。
<優子>
・あっ?コーヒーこぼれてしまったね。優子が慌ててコーヒーのキャップをしめて、自分のバックから、テイッシュをとり、サイドブレーキ付近にこぼれたコーヒーを拭いた。
その時サイドブレーキの所に置いてあった、領収書が優子の目に入って動揺したのである。
*え?何この領収書と優子は、心の中で直也の運転する顔を見ながら、疑いをいだいた。
その領収書の内容は、先週の7日、直也が仕事で迎えにこれなかった時の物である。
仕事だったはずなのに、なんで?有料道路の領収書があるの?優子はもしかして、私以外の人?と思うと、平常心を保つ事が出来ないような動揺が優子を襲ってきた。
領収書に疑問をもちながらも直也に聞く事も出来ず、今日のところは、知らないふりをしようと思うのである。直也は、気付かれたとは思いもせず、ハンドルを握り、公園まで車を走らせた。公園に着くと、何気ない会話をして時間が経ち優子をバス停近くまで送った。優子は、領収書の事には、一切触れず、普通に直也と別れた。
優子を送った直也は、家に帰る途中、菜々の事が気になっていた。雨も段々と強くなってきたし、約束した訳ではないが、来てくれるまで待っていると言われた言葉が頭から離れず、車を運転しながら、どうせ家に帰る途中だしちょっと会社の屋上に寄ればいいだけだし、とりあえず確認だけはしようと思う直也である。
会社の駐車場に車を停めて、傘を持って非常階段から、屋上に向かった。外は雨で、19時を過ぎていたので、暗かった。階段を上り屋上について周囲を見渡した。すると、隣のビルの明かりから、傘もささずヘンスに寄り添っている人影(女性)がかすかに直也の目に入って来た。まさか?菜々?おそるおそる近づいて、直也が声をかける。菜々?と呼ぶと女性は振り向いた。ずぶ濡れの菜々だった。
<菜々>
・先輩。遅いよ。来てくれないと思った。
(雨でずぶ濡れのまま、振り向いたまま直也に倒れてきた)
<直也>
・おい?菜々大丈夫か?おい?傘もささずになにやってんだよ?
(傘もささずに待っていて風邪ひいたのだろう。菜々のひたいに手を当てると、凄い熱だった)
<菜々>
・先輩。すいません。来てくれたという事は、私の気持ちに答えてくれたのですよね?
(菜々は熱が出ているのに、かすれた声で聞いてくる)
<直也>
・とりあえず、家まで送るから。その話は、落ち着いてからだと話。フラフラの菜々を支えながら車に乗せて、菜々のアパートまで送る。
*菜々のアパートまで着いた直也は、鍵を空けて、菜々をベットに横にしようとするが、ずぶ濡れの状態で寝せるわけにもいかず、菜々に着替える事が出来るかと聞いた。すると熱が出ている様子で、首を横に振って、先輩着替えさせてと菜々が言って来た。
直也はさすがに、それはまずいだろうと思うが、このままだと風邪があっかすると思い、恥ずかしさを忘れ着替えさせた。お風呂場で洗面器を見つけ、冷蔵庫から氷を出してきて、タオルで菜々の頭を冷やし始めた。このまま1人にさせるわけにもいかず、直也は、菜々の看病をしながら、アパートで朝を迎える事になる。
直也は、ベットに寄り添いながら、寝てしまうのである。
直也・優子・菜々と3人の恋愛は、いったいどんな方向に行くのだろうか?
また、新たな展開になっていくのである。