第十五話 直面する現実
*旅行当日の土曜日は、直也は仕事を17時までこなし約束の17時20分に間に合うように会社を出た。優子は休みで時間に余裕を持って、17時に駅には着いていた。
直也は、駅近くの駐車場に車をとめて、時計を見ると17時15分になっていた。小走りに駅の改札へと移動した。改札まで行くと優子がすでに待っていた。
<直也>
・「優子さんこんばんは。お待たせしました」と声をかけた。
<優子>
・「こんばんは。直也君。」新幹線の出発の時間も近くなってきたから、ホームに移動しようと言われて、優子から新幹線の指定席の切符を渡された。
(優子は少し大きめのバックを持ってきていた)
<直也>
・優子から切符を受け取り、優子にバック俺が持つからと手を差しのべた。
(小さな優子のからだにはちょっとバックが負担のように思い直也が持つ)
<優子>
・「ありがとう」直也君と言って、優子はバックを渡し2人は改札を通り、新幹線のホームへと向かった。ホームに着いたときには、アナウスがあり、間もなく新幹線が到着する時間になっていた。2月中旬という事もあり、ホームを吹き抜ける風も冷たい。
(優子は、ホームで待つ間、直也の手を握って新幹線が来るのを待った)
*新幹線が予定通り到着して乗車、指定席へと移動して荷物を棚の上に置き座った。優子は、窓際で直也は通路側に座った。新幹線が駅から出発して、直也は優子に、旅行の段取りを全て任せてしまったことを先に詫びた。それに対し優子は、直也君と旅行出来ると考えての準備だったので、楽しく出来たので謝らないでよと言われた。
直也は、楽しく話す優子を見てこんなに一生懸命に準備してくれた事に、幸せを感じるのである。これから優子の事を少しずつ知っていこうと思う直也である。
新幹線は、予定通り1時間で下車する駅に到着した。駅のホームに降りると、少し雪が舞っていた。直也は、優子のバックを持ち2人でエレベーターに乗り、改札のある1階へと降りた。
改札を通り駅の外に出た。外は雪がコンコンと降っていた。路上も少し雪が積もってきて、足元を気にしながら、タクシー乗り場に向かった。
タクシーは運よく1台だけあり、2人で乗車して、旅館まで20分という
道のりを走ることになる。直也は、このタクシーの運転手からの一言から、優子が不安に思う心の悩みを肌で感じていくことになる。その一言は、タクシーに乗車して優子が行き先の旅館を伝えた後、すぐの事であった。
タクシー運転手が優子に「お嬢さん。今日はお父さんと一緒に旅行ですか?」と聞いてきた。直也は、運転手に文句を言おうと前かがみになった時、優子の左手が直也の右胸前に出してきた。
すると優子が運転手にこう話した「そうですよ。今日は、お父さんと旅行です」
直也は、正直自分の耳を疑った。
え?なぜ?そんな事言われて、運転手に合わせるの?違うだろ?俺、お父さんじゃねえし。
優子の方を見ると、優子は、首を振り合図をした。何も言わないで欲しいという合図である事は、優子のしぐさで分かった。旅館に着くまでは、運転手とは観光名所の話で終わり、旅館についてタクシーを降りるとき、運転手が優子に「お嬢さん。お父さんと楽しんで来てね」と言った。優子は「はい」と笑顔で答えた。直也は、タクシー運転手に腹が立ったのと、優子がなぜ?あんな風に言われて文句1つ言わないのか不思議に思う。
旅館についた2人は、フロントでチェックインをすませ、部屋の鍵を貰い5階の部屋へと移動した。部屋に着くと係りの女性が来て、お食事をこれから運んで来ますと挨拶があり、2人は浴衣に着替えて食事の準備が出来るのを待った。10分ほどで、食事の準備が出来て、席に着くと係りの女性から料理の説明があり、その後に館内の説明があった。最後にその係りの女性が優子に「お嬢さん。お父さんと一緒にお食事召し上がって下さい」と言った。優子は、「はい」と答えた。係りの女性は、「ゆっくりお寛ぎ下さい」と言って部屋をあとにする。直也は、え?旅館でも?と思う直也である。
タクシー運転手といい旅館の女性といい子供にしか見えないわけ?と心の中で???ばかり出て来る直也である。
優子は何も無かったかのように、直也君食事冷めないうちに頂きましょうと話しかけてきた。直也も頷き、ビールで乾杯して食事を頂いた。美味しいコース料理でありお酒も進んできた。直也はどうしても、タクシー運転手と係りの女性が言った事が気になっていた。すると優子の方から・・・・。
<優子>
・直也君。料理美味しいね~と言いながら、ビールコップを片手に持ちながら、話始める。私の現実を見たでしょ?どう?思った?
(優子は笑顔で直也に話してくる)
<直也>
・何だよ。あれ?タクシー運転手と係りの女性さあ~。失礼にも程がある正直頭にきたよ。優子さん子供扱いじゃない。
(怒り口調で話す直也)
<優子>
・今始まった事じゃないのよ。それに今日は直也君との記念日だから。
<直也>
・え?それにしても酷すぎるよ。優子さん平気なの?俺との記念日?
何か関係あるの?
(どうも直也は、優子が冷静な事に疑問をいだく)
<優子>
・平気な訳ないじゃない。1番傷つく事言われて。でも今日だけは、笑顔でいたいの直也君と付き合って、最初のデートが旅行のお泊りだよ?こんな素敵な日に私の事 で気分悪くして台無しにしたくないの。直也君の気持ちは、凄く嬉しいけど、今日だけは、笑顔でいさせて欲しいの。お願い。
(優子は、目には涙をいっぱいためながらも、笑顔を作っていた)
<直也>
・優子さん。自分を追い詰めないで欲しいな。あんまり抱えすぎじゃない?
俺って優子さんの何?
(優子の本当の心の痛みは自分には分からない。でもその悩みを半分背負う事は出来ると感じる直也である)
<優子>
・前にも話したよね?背の低さの事?今日直也君が直面したでしょ?外見からだとこれが現実なの。まさか初デートの記念日にこんな事があるなんてね。私ついてないね?直也君は私の彼でいいんだよね?
(優子はショックを必死に隠そうとしていた)
<直也>
・マイナスにばかり考えないでさ。考え方を変えようよ?優子さん今日はついているよ。俺との初デートの記念日に1番悩んでいることが彼である俺の前でおきて、2人でその悩みを半分にしたら今まで悩んでいたことも半分になるしね。それにさ、俺が優子さんと付き合っているのは、俺流の持論、好きになった人が、5歳年上で背が小さかっただけ。それだけ。今日の記念日も2人のスタートだから喜びも2倍でしょ?
(直也は、優子の気持ちに少しでも寄り添うように話す)
<優子>
・直也君「ありがとう」といいながら、ボロボロ涙を流した。「ごめんね」
何で涙出てくるのかな?おかしいね?きっと嬉涙だね?
泣きながら必死に笑顔を作ろうとする優子に、直也は見ていられず、優子のそばに移動した。
<直也>
・優子の隣に移動した直也は、小さな優子の体を自分の方に抱き寄せ、優子にこう話した。「俺の前では、ありのままの自分を出し欲しい」と優しく問いかけた。
優子は、直也の体をギュッと掴み、体を振るわせながら、首を立てにふって頷きながら涙を流した。
(気が済むまで泣かせてあげようと直也は、しばらく胸をかした)
<優子>
・5分位すると、直也君「ごめん。もう大丈夫だから。ありがとう」と言って、優子は、直也君、さあ~飲みなおしだよと言いながら、ビールを飲み始める。せっかくのデートが台無しになるから。楽しまないとね。
(直也の優しさを感じる優子は、幸せと思うのである)
*それから2人は、楽しい時間を過ごした。直也は、優子の辛い気持ちは想像以上だと感じた。世の中一般的には、相手の立場に立って物事考えなさいと良く聞かれる言葉ではあるが、実際その人と同じ立場で経験しないと、本当の気持ちが分からないと改めて感じた。きっと優子は、直也が思っている以上に辛い気持ちを頂きながら、生きてきたのだと思う。背が小さいリスクを背負いながら一生懸命生きてきた優子に、「その気持ちわかるよ」何て到底言えるはずがない。直也が優しい言葉をかければ、それは綺麗ごとにしか聞こえないはずだし優子を追い込む事になるに違いない。直也は、これからどう?接していいのか?考える事になる。
直也の周囲には、同じような境遇で付き合っているような人はいない。
身長差が50cmもあるカップルで、彼女ではなく子供にしか見られないこの苦しさを誰かに話して、克服出来た成功例を聞けたらどんなに楽であろうか。
今の現時代なら通信機器を使って、SOSを出せばきっとすぐにでも光が見えたはず。
だが当時は、連絡手段もポケベルの時代。
直也は自問自答しながら、正しい答えを模索しながら優子と向き合っていくのである。これから先、2人にどんな試練が待っているのだろうか?