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コロスキ!  作者: ユキノ
六章 刀と銃と釘バット
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3 ガラガラっと教室のドアがあいた


 ぴんと張りつめた空気。誰しもが動こうとしない。いや、動けないのかもしれない。

 相手の隙を探っているのだろう。

 何もできないおれにまで緊張感が伝わってくる。

 そんな重圧感からおれは早く抜け出し、解放されたいと思っていた。


 この中でただ一人、別の次元にいたおれは何の気なしに後退ろうとして、足を一歩うしろに引く。


 そのとき、躯君が破壊してとび散った机の木の破片を踏んで――パキンっ、という音が鳴った。

 無常にもその音が合図となった。


「ゴラァー!」


 躯君が叫び声をあげながら、バットを振り回してツキミに襲いかかった。


 平矢間さんが改造銃を撃つ。それをかいくぐった躯君が足下にバットをぶん回す。

 ツキミがジャンプして避けて、着地と同時に刀を振るう。

 躯君はかわして、勢いよくバットを回転させる。それをツキミは受け流してから、もう一度斬りつける。

 躯君はバットで受け止める。

 そこに平矢間さんが改造銃を撃ちこむ。

 躯君は横っ飛びで回避する。


 女子二人も強いけど、さすがに躯君も強い。

 二対一なのに負けてない。ツキミは最強で、誰にも負けやしないと思っていたけど、それは甘い考えだった……。


「ふっ、なかなかやるじゃないか。可愛くて、強い、囃子が惚れるのも納得できるぜ。惚れていれば惚れているほど、わかれるのは辛いだろうよう!」


 躯君は釘バットを振り下ろした。

 ツキミが避けて、空振りしたバットは勢い余って床に突き刺さる。またひとつ教室の床に穴が開いた。どんどん教室が破壊されていく。


「ツキミちゃん、退いて!」


 と、ツキミと躯君がやり合っているとこへ、平矢間さんが叫んだ。

 ツキミは即座に飛び退いて、躯君から離れた。


「いっけぇー!」


 平矢間さんは撃った。撃ちまくった。二丁の改造エアガンを躯君に向けて、連射する。

 うるさいほどの銃声やガラスが割れる音、そして何かに命中した音、がした。


 やった。終わった。こうなってしまってはもう生きてはいられないはずだ。

 きっと躯君は、蜂の巣みたいになって死んでいるだろう。

 かわいそうに、短い人生だったが、これも自業自得さ。お葬式には参加しなくちゃいけないな……、と思っていたが、よく見ると、そうではなかった。

 それどころかケロッとした顔をして、さっき同じ場所に同じ姿勢で堂々と立っている。

 躯君は死んではいなかった。


「あれー?」


 と、平矢間さんは首を傾げた。


「ちょっとー、こころちゃん。今のは何だったのよー」


 ツキミが言う。率直な質問だ。おれも今同じことを言いたい。


「……えっ、どうしてだろう、わたしにもわかんないよ。ちゃんと狙って撃ったのにいー」


 と、平矢間さんは言った。……本当にちゃんと狙ったのか? ていうか、さっきから平矢間さんが撃ったのって全部外れてないか……?


「だめじゃん。あれだけ撃って一発も当たらないってどんだけ命中率わるいのよー。もおーう、こころちゃんの下手くそー」


「ごめんなさーい!」


 躯君の反撃が始まった。すごい速さでツキミに接近して、釘バットを振った。


「わっ、ちょっと、まだ話している途中でしょ」


 ツキミはかわして、刀で対抗する。


「もおーう、こころちゃん、見ておきなさいよ。相手を打ち負かすにはこうやって攻撃するのよ」


 と、ツキミは躯君に斬りかかった。高速の連続攻撃だ。早すぎて、刀の動きが目に見えない。


「おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃー」


 ツキミの攻撃は止まらない。すさまじい連続攻撃。流れるような攻撃は、もう止めることはできない。しかし、躯君はそれらの攻撃をすべて受け止め、受け流し、かわして、一撃も喰らわなかった。

 ツキミの動きが躯君に読まれているのか?


 次第にツキミの攻撃の手が緩まっていく。

 逆に躯君の攻撃が増えて押し込まれだした。ツキミは防戦一方になってしまった。

 何てことだ、このままだとヤバいじゃねえかよ。


「大丈夫か、ツキミ!」


 おれには応援して励ましてやることしかツキミにしてやれることはない。


「負けるな、ツキミ、がんばれ!」


 ツキミはおれの方に顔を向けた。

 おいおい何だよその顔は、非常に困った顔してるじゃねえか。やっぱりお前でも、躯君には敵わないっていうのか。

 お前がやられたらもう何もかもがお終いなんだぞ。


 ツキミは身を屈めて、攻撃をかわす。

 そこでまたおれの方を見た。今度は首を小刻みに横に振った。

 え、それはどういう意味だ。もう駄目ってことか? 

 くそっ、どうすりゃいいんだよ。何かこの状況から抜け出す方法はねえのかよ。


 悠長に考えている暇はなかった。躯君が次の攻撃を仕掛けてきた。

 おれは慌てて飛び退いて、飛んできた椅子を避けた。


 躯君は、机や椅子を釘バットで打っていた。

 飛んできた机や椅子は凶器となって、おれたち目がけて襲いかかって来る。


「でやっ!」


 と、吠えて、重たい机を軽々と勢いよく飛ばしてくる。なんという怪力だ。

 おれは両手で頭を抱えながら教室中を逃げまわった。

 ツキミも平矢間さんも、大きな塊を飛ばしまくる躯君には容易に近づけなかった。

 おれと同じように、今は回避することに徹している。

 そのときだった、逃げていた平矢間さんが散らかった教室に横たわる飛び出した椅子の脚につまづいた。


「きゃあっ」


「あっ、こころちゃん」


「平矢間さんっ」


 躯君は転んだ平矢間さんに一気に詰め寄った。そして平矢間さんは、躯君に捕まってしまった。


「いやー、離してー!」


 抵抗する平矢間さんは乱射してもがき暴れる。が、躯君からは逃れられない。

 躯君は、舌なめずりをする。後ろから締めつけられた平矢間さんの表情は苦痛に満ちている。何とか助け出さないと……でもどうやって助ければいいんだ。


「やめなさい、こころちゃんを離しなさいっ」


 と、ツキミが叫ぶ。


「もう遊びは終わりだ、友達を助けたかったらおれの言うことをきけ。今すぐ別れると誓うんだ」


 平矢間さんの首元にバットに刺さっている釘の先端を突き付けて、躯君は言った。


「お前らのお友達がどうなってもいいのか!」


 平矢間さんは悲鳴をあげる。ぐぅぅ……何て卑怯なやつだ。


「理……」


 と、ツキミは泣きそうな声で呻いた。


 わかってるよツキミ……。だが、もう万事休すかもしれない……。


「おらっ、どうすんだよ! 大切な友達が一人いなくなってもいいのかあ!」


 なす術はないのか……こんなところでおれとツキミの関係は終焉を迎えてしまうのか……無念。と、そのときだった。


 ガラガラっと教室のドアがあいた。


「わっ! お、お前ら何やってんだよ!」


 現れたのは鹿毛井だった。その瞬間、ツキミは躯君に迫って行き、刀を振るう。


 躯君が手を離れ、平矢間さんは逃れることができた。


「今だ! 逃げるぞ、走れ!」


 と、おれは叫んでいた。鹿毛井を残しておれたち三人は廊下を駆け抜けた。後ろを振り返る余裕はない。ただ前だけを見て走った。

 ツキミと平矢間さんがちゃんと付いて来ていることは足音と気配でわかった。


 急いで下駄箱で靴を履きかえ、校舎の外に出た。


 校門を出た辺りで、ようやく後ろを振り返る。


 躯君は追って来てはいなかった。ほっ、ようやく逃げ出せた。


 よく見るとツキミも平矢間さんも、さっきまで壮絶なバトルがおこなわれていた後だけに悲愴な面持ちで、さらにそれだけでなく制服も所々破れていて、ボロボロになっていた。


 ただ逃げていただけのおれを、二人はこんな姿になってまで守ってくれたんだ……。


 そういえば突然現れて、囮みたいに使ってしまった鹿毛井は今頃どうしているだろう。

 一人おいて来てしまったけど大丈夫かな。

 まっ、鹿毛井のことだから何とかしているだろう。


 ……そんなおれも、今になって肩口がズキズキと痛みだした。いつ怪我したんだろう。

 逃げてる時にぶつかったのかな。でも、ツキミたちに比べれば、これ位どうってことないさ。しばらくしたら治るだろうよ。……血出てなきゃいいな。



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